Rem-リム- 呪いと再生

雨木良

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第6節 畑 賢太郎 其の2

(3)

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目的の前橋駅に到着すると、畑はとりあえず改札から出てkiriを探し始めた。よく考えたら、特定の集合場所も、お互いの格好の話もしてないことに気付き、やっちまったなぁと反省しかけていた。

「あ、あの子は!?」

足立が目ぼしい人物を見つけたようで、指で示しながら教えてくれた。畑は、そっと足立の指差した手を下ろさして、その方角を向くと25メートル程先に全身黒一色の女性が立っていた。といっても、黒のパーカーが頭からスッポリ覆っているため、女性かどうかも、若いか年配かも全くわからなかった。ただ、その佇まいとパーカーの柄から若めの女性だろうと予想した。

なんとなく負のオーラ的なものが感じ取れることから、畑も足立が言うとおり、あの女性がkiriだと思い、恐る恐る近づいた。

「あ、あのぅ…。」

女性の斜め後ろから、恐々と声を掛けた畑に、女性が振り向いた。

「…kiriさんですか?」

「…はい。畑さんですね。今日はわざわざ横浜からありがとうございます。」

パーカーの中身は物凄く童顔な、女性というより女の子だった。更に口調も声もメールのぶっきらぼうさとは正反対の御淑やかな感じで、畑はそのギャップに驚き、kiriを見つめてしまった。

「おい!いつまで見とれてるんだ!」

足立の容赦ないツッコミが入り、畑はハッと我に返った。

「可愛いねkiriちゃん。何か勝手な想像でさ、丑の刻参りみたいな長い髪ぼっさぼさの生気のない女性を想像してたから。私は、足立です。畑の会社の同僚、今日一緒に取材させてもらいますので、よろしくね。」

kiriは下を向き、何かをブツブツ呟いていた。畑と足立は少しkiriに近づきその声を拾おうとした。

「一人で来ると思ったのに…。呪いはオモチャじゃない…。」

どうやら、kiriは畑が一人で来ると思っていたため、足立が一緒に来たことに不満げなようだ。

「…kiriさん、早速聞きたいんだけど、呪いの赤紙って書き込みはあなたなの?」

そんなkiriの様子を気にしない足立の言葉にkiriは少しビクッとなり、足立の目を見た。

「昨日の書き込みで、赤紙をクリックしたのは貴方ですか?」

kiriの言葉と同時に、足立はさっき畑に見せた自分が書いた紙を鞄から取り出し、広げて見せた。kiriはその紙を見るなりニヤっと笑った。

「惜しいな。この紙じゃ効果は出ない。」

どうやらkiriは機嫌を取り戻したようだ。だが、口調も声のトーンもさっきとは異なり、それは呪いと聞いて畑が最初に想像していたような、恐怖を覚えるものだった。一言で言うと暗く、闇を感じさせるものであり、畑は悪寒が走った。

「それはそうよ、思い出しながら書いただけだもん。すぐに書き込み消されちゃったから。でね、ここにいる畑くんに簡単な呪いやってみたんだけど、成功しちゃって!」

明るく話す足立の言葉にkiriが嬉しそうに不気味に笑った。

「生きてて良かったな。本当に死んでほしいと念を送ってたら、あんたはここにいはいないよ。」

畑を指さしながら、ケタケタ笑うkiriに、流石の漸く異変に気付いた足立も苦笑いをした。

「あのぅ、場所変えます?」

その場の流れを変えようと畑が必死で提案した。

「そうだな、家に来い。」

kiriはそう言うと、返事を待たずに無言で歩き始めた。畑と足立は戸惑ったが、しょうがなくkiriの後ろに付いていくように歩き始めた。

「あの人急に豹変しましたけど、大丈夫ですかね?」

「ちょっとびっくりしたけど、余計に興味が出ちゃった。どんな家かなぁ、なんか楽しみだね!」

足立の順応性には畑もびっくりしたが、確かにどんな家かは興味があった。

しばらく歩くと、kiriが立ち止まった。

「あ、ここです。結構歩かせちゃいましたよね、すみませんでした。」

表情、声に口調も、また最初に会った時のような可愛いらしい女の子になっており、畑と足立は目を見合わせた。

小綺麗なアパートの2階の角部屋に二人は通された。間取りは1Kだがロフトもあり広く感じる部屋だった。

「…なんかもっと御札とか蝋燭みたいなのがある部屋かと思ってましたよ。」

畑は部屋を見て、足立に耳打ちした。確かにkiriの部屋は、呪いとはかけ離れた所謂普通の女の子の部屋だった。kiriは二人にクッションを渡し、フローリングに座らせて、温かいお茶を出し、自分は部屋の隅のベッドの上に座った。

「ふぅ、あ、そうだ。私変でした?」

kiriが二人に問いかけた。畑と足立は目を見合わせたて、どう答えるか考えたが、足立が先に口を開いた。

「えーと、なんか、呪いについて語る時だけ、少し雰囲気が違ったかなぁ。…この紙の話とか。」

「ハハハハハハ、恐かったですか?」

可愛さを覚えてしまう、屈託ない笑顔で明るく話すkiriに畑と足立はキョトンとしてしまった。kiriはそのままのテンションで続けた。

「呪いの話するときだけは、雰囲気出そうと努力してまして!あっ、二重人格とかじゃないですからね。驚かせたらごめんなさい。今後も雰囲気出すときはやるんで、よろしくです。」

まるで彼氏に悪戯を仕掛けたような女の子の笑顔に、畑と足立は目を見合わせて、安心感のあまり笑ってしまった。

「で、今日聞きたいことあるんですよね?」

「あ、は、はい。えぇと。」

急な展開に畑は慌てて鞄から手帳とボールペンを取り出した。畑は予め考えていた質問をし、kiriも淡々とそれに答えた。5つほど、当たり障りのない質問が終わり、電車の中で足立から聞き取った質問を始めた。

「…次に、…あ、さっきの足立の言ってた紙の話とかはいいですか?」

「いいですけど、作り方とかは話せませんよ。」

「これは、ご自分で考えついたんですか?」

kiriはこの質問の答えに躊躇しているように、下を向きながら考えこんでしまった。畑と足立は下からkiriの顔を覗き込もうとゆっくり近づくと、kiriは急に顔を勢い良く上げ、畑と足立は後ろに飛び跳ねるように後退りした。

「あんたたちは本当に呪いの存在を信じてるのか?」

またkiriの口調と声のトーンが変わった。

「この紙の装置を考えたのは私じゃない。私は継承されたのだ。祖は間もなく命の限界を迎える。」

「…け、継承?」

畑はkiriの口調が変わることが、とても演技には見えず、急に緊張感に包まれた。

「そうだ。祖は私にこの紙の装置を託したのだ。」

「あなたは何故、その紙を掲示板に?」

足立も畑と同じような緊張感をもって口を開いた。

「…更なる継承者を求めて。…人を呪わば穴二つ、という言葉があるが、人を呪えば同じ災いが必ずや自分にも返ってくる、これは事実だ。何れ私も祖と同じ運命を辿る。その時のために継承者を探している。」

「すぐに消しちゃうのは何故?」

「…継承者は一人でいい。あのファイルは誰かが一度でも開けば消失する仕組み。本当に呪いを信じるものは、その一度のチャンスをものにし、試し、そして必ず私のもとに来ると信じていた。そして来た。こんなにも早く。」

「え?」

「…足立。お前が継承者だ。」

足立の顔が強張った。

「ちょ、ちょっと、私はたまたま見つけて、それから興味本意で…。」

「国の連中は、この呪いの力の恐ろしさを知りながら、お前たち国民に公表することはないだろう。このまま闇に葬られる。だから、祖は私に託した。」

「その祖って、やっぱり…桐生朱美ですか?」

恐る恐る畑が聞いた。

「そうだ。だが、祖は不本意のうちに殺されようとしている。私にはもうどうにもできない。私が祖に変わり奴らに復讐するのだ。そのあとは足立、お前の時代だ。ハハハハハハハハハ…。」

kiriは甲高い声で笑い続けると、何かが切れたようにパタッとベッドに仰向けに倒れこんだ。

畑と足立は、恐ろしい化け物を見るような表情で見つめ、そして震えていた。
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