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第6節 畑 賢太郎 其の2
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kiriの恐怖に戦いた畑が足立の顔色を伺うと、足立は少し泣いてるように見えた。
「足立さん、だいじょ…。」
畑の台詞を遮るようにムクッとkiriが立上がりペコリと頭を下げた。二人はkiriを凝視した。
「ごめんなさい、やり過ぎました!」
(…この子、役者になりゃいいのに…。)
畑は心底そう思った。足立は、恐怖の涙から安堵の涙に変わりワンワン泣いていた。
「足立さん、ごめんなさい。驚かせたかっただけで、そこまで怖がらせるつもりは。」
「内容も恐かったよぉ。」
「内容も半分以上は作り話ですよ。」
けろっとした表情で言うkiriに、騙された畑は不機嫌気味な表情になった。kiriは畑の表情を見て少し慌てた様子を見せた。
「そ、そんなに怒らないでくださいよ。ちゃんと説明しますから。えーと、この紙は私が作ったわけじゃなくて、家のポストに説明書きと一緒に入ってたんです。まぁ、それに少し手を加えてデータ化したのは私ですけどね。」
真面目に答えだしたkiriに安堵し、畑は再びメモを取る体勢に戻った。
「あなたの家のポストにその紙を入れた人物に心当たりはあるんですか?」
すると、kiriは答えるのを躊躇しているように、下を向きながら考えこんでしまった。さっきと似たような状況に、畑と足立は、またあの寸劇が始まるのかと身構えた。畑と足立の頭の中では既に寸劇と表現できるほど、免疫が付いていた。
「……私が今日の取材を受けた理由教えてあげます。」
身構えただけに、力ないkiriの答えに、畑は呆気にとられてしまった。kiriはそのまま続けた。
「…私が産まれる前に両親が離婚したんです。でも、その頃母親のお腹には私が既に宿ってた。私には姉がいて、彼女は父方に引き取られたようです。私は、物心が付いた頃にその事を母から聞きました。
でも、母は父や姉に私を会わせようとはせず、私は今まで一度もその姉に会ったことがありません。私は、物心が付いた頃からお姉ちゃんが欲しいと思ってたので、実の姉がいるなら是非会いたいと思ってました。
私は、母の目を盗んでは、何か手がかりがないかと母の部屋を漁りました。そして、今から一年ほど前に、手紙の束を見つけたんです。その差出人は女性の名で、中身を見ると姉だとすぐにわかりました。」
「お姉さんの居場所わかったの?」
足立は、今度は可哀想な子を見てるようで、目に涙を浮かべていた。
「姉の名前が分かった時に、どっかで聞いた名前だなって思って、その日の夜にテレビを見て気付きました。」
畑はまさかとは思いながらも、恐る恐る聞いた。
「…そ、それって?」
「桐生。…桐生朱美、彼女が私の姉です。」
畑は予想が当たり驚きながらも、さっきの寸劇の件が尾を引き内心は半信半疑だった。
「…本当ですか?あなたは桐生朱美に会ったことはないんですか?」
「ありません。私が桐生朱美が姉だと知った時には、既に呪い裁判が始まった時だったので。」
「そうですか。…ていうか、こんなこと記事にしたら凄いことになっちゃいますよ!」
畑は漸く、ことの重大さに気づいた。そんな畑に対して、kiriは首を横に振った。
「…いいんです、それが目的なんで。」
「え!?」
「大きな記事になって、どんどんテレビとか新聞とかにも取り上げて欲しいんです。もうじき死刑になってしまう姉ですが、私にはかけがえのない姉です。漸く辿り着いたんです、でももう手の届かない場所にいた。
何かの拍子に、この話が彼女の耳に入れば満足です。妹は、ちゃんとあなたが姉ということはわかってます、そして、あなたを軽蔑なんてしていません、ということが伝われば。」
畑は考えた。いくら実の姉でも、1回も会ったことがなく、気付いた時には既に犯罪者扱いだった。ここまで彼女が姉を慕う理由は何なんだと。
「…ごめんなさい。今日はこれでお引き取りいただいていいですか?気持ちが落ち着かなくなっちゃって。また、何かあれば電話でも結構ですから。」
kiriは、先程までの寸劇が嘘だったかのように、大粒の涙を浮かべて、弱々しく話した。
「わかったわ。kiriちゃん、今話したこと、本当に記事にしていいの?」
足立は心配そうに優しく聞いた。kiriはコクッと頷いた。畑もこの内容をこのまま掲載するのはなぁと正直迷っていた。
見出しは完璧かもしれない。死刑囚に生き別れの妹がいた、的な感じで掴みはバッチリだろう。でも、中身が薄く信頼性もまだ足りない。畑はとりあえず一回出版社へ持ち帰ることにした。
「わかりました。また内容はこちらで揉ませていただきます。今日はありがとうございました。」
畑はそう言うと謝礼金を渡した。kiriは謝礼金を受けとると、机の上のメモ用紙を一枚切り取り、自分の名前と電話番号を書いて畑に渡した。
「それが私の本名です。」
紙には、長尾智美(ながおともみ)と記してあった。畑たちは、立ち上がり礼を言って部屋を出ようとした。
すると、長尾は二人を呼び止め、ポケットから小さな巾着風の御守りを二つ取り出すと、畑に手渡した。
「これ、肌身離さず持っててください。何かあったときに一回は身代わりになってくれる依り代です。」
二人は一瞬顔を見合わせたが、礼を言って受け取り、青い御守りを畑が自分の鞄に入れ、赤い御守りを足立に手渡した。
ー 電車内 ー
帰りの電車内は時間帯の関係か、大分空いており、二人はボックス席の窓側に向かい合わせるように座った。
椅子に座りホッとしたのか、畑は自分が汗だくなのに気がついた。所謂変な汗だ。取材中のkiriの言動、そして桐生朱美の妹という告白に、自分はかなり動揺してたらしいと、今更気づいた。
畑は鞄からハンドタオルを取出し額の汗を拭いながら、取材メモを上から見直した。
「これ、ちゃんと記事になりますかねぇ。」
足立も泣いたり、緊張したりで疲れ切ったのか、窓側のテーブルに頬杖を付きながらボーッとしており、畑の言葉は届かなかった。
「足立さぁん!」
畑が少々声量を上げて足立を呼ぶと、足立はハッとして、畑の方を向いた。
「これ、ちゃんと記事になりますかね?」
「あ、ごめんごめん、ボーッとしちゃってたよ。うーん、まぁkiriちゃんの言うとおりの内容書いたら凄いビッグニュースだよね。それに、一通り必要そうなことは、畑くんちゃんと聞いてたし。
あの紙の装置だけでもビッグニュースなのに、桐生朱美の妹っていうのもあるからね。記事としてはこれ以上のものはないよ。でも…」
頷ずきながら足立の話しを聞いていた畑だったが、足立が急に台詞を断ち切ったので、少し難しい顔をした。
「あ…だちさん…?」
「なんか……なんかkiriちゃん隠してるような気がするの。」
「…やっぱりですか。俺も色々考えてて。kiriさんの話だけ聞いてると、なんでそこまで桐生朱美のことを想えるのかなって感じちゃったんですよね。実の姉とはいえ、一回も会ったことがなければ、姉と知った時には既に犯罪者扱いになってた人ですよ。kiriさん、いや、長尾智美さんは、桐生朱美の何かを知ってるんですよ。」
「私も、あの子が桐生朱美に対して単なる呪いの先駆者として尊敬してるのかと思ったけど、何か別の感情もあるように見えちゃって。………あの紙の装置をポストに入れたのは…」
「桐生朱美…ですよ。」
畑は足立の台詞を奪い取るように話し出した。
「きっと、桐生朱美は妹の存在を知っていて、密かに会いたくて探してたんじゃないですか?長尾さんが母親の部屋で見つけた手紙にはそういった内容が書かれていたとか。」
「…kiriちゃんの、桐生朱美のお母さんに会ってみたいわね。」
足立がぼそっと言った。畑も同じことを考えていた。でも当然母親の居場所まではわからないし、長尾のあの部屋の感じは母親と同居してるとは到底思えない。
「とりあえず、会社に戻って班長にも相談してみます。」
「そうね。悪いけど今は何か疲れ切っちゃって、何にも考えらんないわ。…………あ、そういえばあれ冗談よね?私がkiriちゃんの後継者とかなんとか。」
「…さぁ。」
畑は悪戯にニヤニヤしながら言った。
「足立さん、だいじょ…。」
畑の台詞を遮るようにムクッとkiriが立上がりペコリと頭を下げた。二人はkiriを凝視した。
「ごめんなさい、やり過ぎました!」
(…この子、役者になりゃいいのに…。)
畑は心底そう思った。足立は、恐怖の涙から安堵の涙に変わりワンワン泣いていた。
「足立さん、ごめんなさい。驚かせたかっただけで、そこまで怖がらせるつもりは。」
「内容も恐かったよぉ。」
「内容も半分以上は作り話ですよ。」
けろっとした表情で言うkiriに、騙された畑は不機嫌気味な表情になった。kiriは畑の表情を見て少し慌てた様子を見せた。
「そ、そんなに怒らないでくださいよ。ちゃんと説明しますから。えーと、この紙は私が作ったわけじゃなくて、家のポストに説明書きと一緒に入ってたんです。まぁ、それに少し手を加えてデータ化したのは私ですけどね。」
真面目に答えだしたkiriに安堵し、畑は再びメモを取る体勢に戻った。
「あなたの家のポストにその紙を入れた人物に心当たりはあるんですか?」
すると、kiriは答えるのを躊躇しているように、下を向きながら考えこんでしまった。さっきと似たような状況に、畑と足立は、またあの寸劇が始まるのかと身構えた。畑と足立の頭の中では既に寸劇と表現できるほど、免疫が付いていた。
「……私が今日の取材を受けた理由教えてあげます。」
身構えただけに、力ないkiriの答えに、畑は呆気にとられてしまった。kiriはそのまま続けた。
「…私が産まれる前に両親が離婚したんです。でも、その頃母親のお腹には私が既に宿ってた。私には姉がいて、彼女は父方に引き取られたようです。私は、物心が付いた頃にその事を母から聞きました。
でも、母は父や姉に私を会わせようとはせず、私は今まで一度もその姉に会ったことがありません。私は、物心が付いた頃からお姉ちゃんが欲しいと思ってたので、実の姉がいるなら是非会いたいと思ってました。
私は、母の目を盗んでは、何か手がかりがないかと母の部屋を漁りました。そして、今から一年ほど前に、手紙の束を見つけたんです。その差出人は女性の名で、中身を見ると姉だとすぐにわかりました。」
「お姉さんの居場所わかったの?」
足立は、今度は可哀想な子を見てるようで、目に涙を浮かべていた。
「姉の名前が分かった時に、どっかで聞いた名前だなって思って、その日の夜にテレビを見て気付きました。」
畑はまさかとは思いながらも、恐る恐る聞いた。
「…そ、それって?」
「桐生。…桐生朱美、彼女が私の姉です。」
畑は予想が当たり驚きながらも、さっきの寸劇の件が尾を引き内心は半信半疑だった。
「…本当ですか?あなたは桐生朱美に会ったことはないんですか?」
「ありません。私が桐生朱美が姉だと知った時には、既に呪い裁判が始まった時だったので。」
「そうですか。…ていうか、こんなこと記事にしたら凄いことになっちゃいますよ!」
畑は漸く、ことの重大さに気づいた。そんな畑に対して、kiriは首を横に振った。
「…いいんです、それが目的なんで。」
「え!?」
「大きな記事になって、どんどんテレビとか新聞とかにも取り上げて欲しいんです。もうじき死刑になってしまう姉ですが、私にはかけがえのない姉です。漸く辿り着いたんです、でももう手の届かない場所にいた。
何かの拍子に、この話が彼女の耳に入れば満足です。妹は、ちゃんとあなたが姉ということはわかってます、そして、あなたを軽蔑なんてしていません、ということが伝われば。」
畑は考えた。いくら実の姉でも、1回も会ったことがなく、気付いた時には既に犯罪者扱いだった。ここまで彼女が姉を慕う理由は何なんだと。
「…ごめんなさい。今日はこれでお引き取りいただいていいですか?気持ちが落ち着かなくなっちゃって。また、何かあれば電話でも結構ですから。」
kiriは、先程までの寸劇が嘘だったかのように、大粒の涙を浮かべて、弱々しく話した。
「わかったわ。kiriちゃん、今話したこと、本当に記事にしていいの?」
足立は心配そうに優しく聞いた。kiriはコクッと頷いた。畑もこの内容をこのまま掲載するのはなぁと正直迷っていた。
見出しは完璧かもしれない。死刑囚に生き別れの妹がいた、的な感じで掴みはバッチリだろう。でも、中身が薄く信頼性もまだ足りない。畑はとりあえず一回出版社へ持ち帰ることにした。
「わかりました。また内容はこちらで揉ませていただきます。今日はありがとうございました。」
畑はそう言うと謝礼金を渡した。kiriは謝礼金を受けとると、机の上のメモ用紙を一枚切り取り、自分の名前と電話番号を書いて畑に渡した。
「それが私の本名です。」
紙には、長尾智美(ながおともみ)と記してあった。畑たちは、立ち上がり礼を言って部屋を出ようとした。
すると、長尾は二人を呼び止め、ポケットから小さな巾着風の御守りを二つ取り出すと、畑に手渡した。
「これ、肌身離さず持っててください。何かあったときに一回は身代わりになってくれる依り代です。」
二人は一瞬顔を見合わせたが、礼を言って受け取り、青い御守りを畑が自分の鞄に入れ、赤い御守りを足立に手渡した。
ー 電車内 ー
帰りの電車内は時間帯の関係か、大分空いており、二人はボックス席の窓側に向かい合わせるように座った。
椅子に座りホッとしたのか、畑は自分が汗だくなのに気がついた。所謂変な汗だ。取材中のkiriの言動、そして桐生朱美の妹という告白に、自分はかなり動揺してたらしいと、今更気づいた。
畑は鞄からハンドタオルを取出し額の汗を拭いながら、取材メモを上から見直した。
「これ、ちゃんと記事になりますかねぇ。」
足立も泣いたり、緊張したりで疲れ切ったのか、窓側のテーブルに頬杖を付きながらボーッとしており、畑の言葉は届かなかった。
「足立さぁん!」
畑が少々声量を上げて足立を呼ぶと、足立はハッとして、畑の方を向いた。
「これ、ちゃんと記事になりますかね?」
「あ、ごめんごめん、ボーッとしちゃってたよ。うーん、まぁkiriちゃんの言うとおりの内容書いたら凄いビッグニュースだよね。それに、一通り必要そうなことは、畑くんちゃんと聞いてたし。
あの紙の装置だけでもビッグニュースなのに、桐生朱美の妹っていうのもあるからね。記事としてはこれ以上のものはないよ。でも…」
頷ずきながら足立の話しを聞いていた畑だったが、足立が急に台詞を断ち切ったので、少し難しい顔をした。
「あ…だちさん…?」
「なんか……なんかkiriちゃん隠してるような気がするの。」
「…やっぱりですか。俺も色々考えてて。kiriさんの話だけ聞いてると、なんでそこまで桐生朱美のことを想えるのかなって感じちゃったんですよね。実の姉とはいえ、一回も会ったことがなければ、姉と知った時には既に犯罪者扱いになってた人ですよ。kiriさん、いや、長尾智美さんは、桐生朱美の何かを知ってるんですよ。」
「私も、あの子が桐生朱美に対して単なる呪いの先駆者として尊敬してるのかと思ったけど、何か別の感情もあるように見えちゃって。………あの紙の装置をポストに入れたのは…」
「桐生朱美…ですよ。」
畑は足立の台詞を奪い取るように話し出した。
「きっと、桐生朱美は妹の存在を知っていて、密かに会いたくて探してたんじゃないですか?長尾さんが母親の部屋で見つけた手紙にはそういった内容が書かれていたとか。」
「…kiriちゃんの、桐生朱美のお母さんに会ってみたいわね。」
足立がぼそっと言った。畑も同じことを考えていた。でも当然母親の居場所まではわからないし、長尾のあの部屋の感じは母親と同居してるとは到底思えない。
「とりあえず、会社に戻って班長にも相談してみます。」
「そうね。悪いけど今は何か疲れ切っちゃって、何にも考えらんないわ。…………あ、そういえばあれ冗談よね?私がkiriちゃんの後継者とかなんとか。」
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