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第2章 救いの発明 第1節 震える心
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(死んだ人間を生き返らせる?何を言ってるんだ、この人は。)
正人は、眞鍋の言葉を疑うしかなかった。
「死んだ人間の再生……冗談ですよね?」
「いえ、本当にそれが実現できる段階まで研究は進んでいます。…そうですねぇ、分りやすく言いますと、例えばあなたの歯が何かの拍子で折れてしまったとします。そうしたら、あなたは歯を治療しますよね?どんな方法で?」
「…それは差し歯とかですかね。」
「そう、歯医者が薦めるのは差し歯です。でも考えてください。人間の歯を再生することなんて、今の日本の技術じゃ容易な話なんですよ。そう思いませんか?歯くらいのレベルなら、無くなった歯を遺伝子技術で再生できそうじゃないですか?」
「…まぁ、そう言われると…そう感じます。」
正人は、世界的に医学は日々進歩しており、ちょっと前にテレビの特番で、クローン技術についても目にしたばかりだったため、眞鍋の言うことには説得力を感じてしまった。
「それと同じ話なんですよ。今となっては、その歯くらいのレベルから、人間の一人くらいなら、に研究のレベルは格段にアップしています。…あ、これは余談ですが、歯の再生を治療として行わない理由は簡単で、歯医者が儲からないからです。国はそういうことも考えなくてはならない。新しい技術をただただ推薦していけば良いって話じゃないんですよ。」
正人は、何となく眞鍋の話を理解できそうに感じたが、現実味は当然なかった。死者を生き返らす…これは世界の永遠の医学研究のテーマのように感じていたからだ。
「…眞鍋さんは、私に、“妻を生き返らせましょうか?”っておっしゃってるんですか?」
正人は、まさかとは思いながら確認のために聞いてみたが、馬鹿げた質問をしたとすぐに後悔した。
しかし、眞鍋は正人の目を見つめ、コクンと首を縦にゆっくりと振った。
眞鍋のまさかの答えに正人は混乱した。“それが事実なら”という気持ちと、“馬鹿げた話だ”という考えが正人の内側でぶつかり合っていたのだ。
「…眞鍋さん、本当にあなたは…」
「正人ーー!!そろそろ時間だぞ!」
正人の眞鍋への言葉を遮るように、遠くから武志が、大きな声で正人を呼んだ。どうやら、そろそろ火葬が終わるようだ。正人は、ベンチから立ち上がり武志の方を向き、今行くという合図のために手を振った。
「行かないと…。」
正人は眞鍋に一礼し、歩き出そうとした。
「あの、もし興味があったら名刺の番号に連絡ください。それから…」
眞鍋は正人の側に近づき、耳元で囁いた。
「奥さんを生き返らすには、奥さんの身体の一部が必要です。もしご興味があれば、髪の毛でも骨でもいい。可能でしたら、納骨までの間に小さなもので結構ですので骨を手にいれてください。…あ、あとこの事はご内密に。」
眞鍋はそう言うと、ペコリと頭を下げて正人とは逆の方向へ歩き出した。
正人も武志の待つ建物へゆっくり歩き出した。正人は、眞鍋の言葉に動揺していた。頭の大半では、出鱈目だ、そんなことがあるはずないと思いつつも、心のどこかで、万が一眞鍋の言っていたことが本当だったら、本当に千里が生き返る可能性があるのか…正人はどうしたら良いのかわからなかった。
「さっきの誰だ?」
武志が姿が小さくなっていく眞鍋の見つめながら聞いた。
「あぁ…ここの管理の人だ。」
正人は、武志の質問に何となく嘘をついた。
ー 出版社 ー
「今頃、奥さん火葬してるくらいですかね?村上さん大丈夫かなぁ。」
畑がパソコンを打ちながら、誰にでもなく、独り言のように言った。
「ま、確かに昨日の村上は意気消沈してたな。」
「当たり前ですよ。奥さんのお通夜なんですから。」
荒木と足立は、特に手伝いとかではなく、一般参列者として通夜に参列していた。
「そいや、畑。取材者の女の子のことあれから何かわかったのか。」
畑と対面の席に座る生駒がひょっこり顔を出して聞いた。
「いえ、今は特に。ただ、村上さんの知り合いの刑事さんを紹介して貰おうかと。桐生朱美の妹って本人が話してたこととかを話たいんですよ。長尾智美が亡くなってしまった今、警察なら彼女の素性を調べることができるかもしれないじゃないですか。」
「裏付けて記事にする気か?なかなか記者魂が身に付いてきたじゃねぇか。」
荒木が珍しく畑を褒めるような台詞を言った。
「…いや、まぁ。その…。」
「kiriちゃんが何かを隠してたような気がしてたのが気になってるんだよね。」
畑の気持ちを足立が代弁した。
畑としては、荒木にまた嫌味を言われそうな気がして、有耶無耶にしたかったのだが、足立がさらりと言ってしまい、畑は、“余計なことを”といった表情で足立を見つめた。
「ったく、オメェは警察じゃねぇんだからよ。余計な感情移入して、仕事以外のことはするんじゃねぇぞ。」
案の定、荒木は気分を害したようだ。机に立て掛けた資料の間から、クスリと笑う生駒が見えて、畑はちょっとイラっとした。
「今日は編集長と稗田班長は、村上んとこの葬儀に参列してて不在だから俺が言うが、畑、この仕事は、変に感情移入してたら勤まらないぞ。記者は時に冷酷にもならないといけない。今お前が、例の亡くなった女の子を改めて記事にするなら、何故、母親に殺されたのかを大きく取り扱え。取材してた人間が殺されるなんてなかなか無い話だ、大きなニュースだよ。…ま、記者としての話だ。」
三戸が畑に忠告するように言った。ただ、三戸も人間的には畑の気持ちを理解している。亡くなった女の子が隠してたことが気になり、警察のように捜査したいという考えも。しかし、三戸は記者として畑に成長してほしいという思いで、冷酷なことを言ったのだ。
「…はい。迷惑は掛けません。」
畑はそう言うと、席を立ち、一腹するために執務室を出て廊下の先にある自販機に向かった。
自販機で缶コーヒーを買い、近くのベンチに座り、一口飲み、ふぅと深い溜息をついた。
「どうすんの?」
声がした方を振り向くと、足立が立っていた。足立は畑の左隣に座り、畑の缶コーヒーを取り上げ、一口飲み、畑に返した。
「私は畑くんを手伝うから。うん、私決めた!畑くんと一緒にkiriちゃんが隠してたことを調べるよ。」
畑は足立の言動に呆気にとられたが、背中を押された気がして嬉しかった。
「…ありがとうございます。とりあえず、村上さんの知り合いの刑事さんと接触してみます。」
「うん、そうしよ。………てか、コーヒー甘っ!」
正人は、眞鍋の言葉を疑うしかなかった。
「死んだ人間の再生……冗談ですよね?」
「いえ、本当にそれが実現できる段階まで研究は進んでいます。…そうですねぇ、分りやすく言いますと、例えばあなたの歯が何かの拍子で折れてしまったとします。そうしたら、あなたは歯を治療しますよね?どんな方法で?」
「…それは差し歯とかですかね。」
「そう、歯医者が薦めるのは差し歯です。でも考えてください。人間の歯を再生することなんて、今の日本の技術じゃ容易な話なんですよ。そう思いませんか?歯くらいのレベルなら、無くなった歯を遺伝子技術で再生できそうじゃないですか?」
「…まぁ、そう言われると…そう感じます。」
正人は、世界的に医学は日々進歩しており、ちょっと前にテレビの特番で、クローン技術についても目にしたばかりだったため、眞鍋の言うことには説得力を感じてしまった。
「それと同じ話なんですよ。今となっては、その歯くらいのレベルから、人間の一人くらいなら、に研究のレベルは格段にアップしています。…あ、これは余談ですが、歯の再生を治療として行わない理由は簡単で、歯医者が儲からないからです。国はそういうことも考えなくてはならない。新しい技術をただただ推薦していけば良いって話じゃないんですよ。」
正人は、何となく眞鍋の話を理解できそうに感じたが、現実味は当然なかった。死者を生き返らす…これは世界の永遠の医学研究のテーマのように感じていたからだ。
「…眞鍋さんは、私に、“妻を生き返らせましょうか?”っておっしゃってるんですか?」
正人は、まさかとは思いながら確認のために聞いてみたが、馬鹿げた質問をしたとすぐに後悔した。
しかし、眞鍋は正人の目を見つめ、コクンと首を縦にゆっくりと振った。
眞鍋のまさかの答えに正人は混乱した。“それが事実なら”という気持ちと、“馬鹿げた話だ”という考えが正人の内側でぶつかり合っていたのだ。
「…眞鍋さん、本当にあなたは…」
「正人ーー!!そろそろ時間だぞ!」
正人の眞鍋への言葉を遮るように、遠くから武志が、大きな声で正人を呼んだ。どうやら、そろそろ火葬が終わるようだ。正人は、ベンチから立ち上がり武志の方を向き、今行くという合図のために手を振った。
「行かないと…。」
正人は眞鍋に一礼し、歩き出そうとした。
「あの、もし興味があったら名刺の番号に連絡ください。それから…」
眞鍋は正人の側に近づき、耳元で囁いた。
「奥さんを生き返らすには、奥さんの身体の一部が必要です。もしご興味があれば、髪の毛でも骨でもいい。可能でしたら、納骨までの間に小さなもので結構ですので骨を手にいれてください。…あ、あとこの事はご内密に。」
眞鍋はそう言うと、ペコリと頭を下げて正人とは逆の方向へ歩き出した。
正人も武志の待つ建物へゆっくり歩き出した。正人は、眞鍋の言葉に動揺していた。頭の大半では、出鱈目だ、そんなことがあるはずないと思いつつも、心のどこかで、万が一眞鍋の言っていたことが本当だったら、本当に千里が生き返る可能性があるのか…正人はどうしたら良いのかわからなかった。
「さっきの誰だ?」
武志が姿が小さくなっていく眞鍋の見つめながら聞いた。
「あぁ…ここの管理の人だ。」
正人は、武志の質問に何となく嘘をついた。
ー 出版社 ー
「今頃、奥さん火葬してるくらいですかね?村上さん大丈夫かなぁ。」
畑がパソコンを打ちながら、誰にでもなく、独り言のように言った。
「ま、確かに昨日の村上は意気消沈してたな。」
「当たり前ですよ。奥さんのお通夜なんですから。」
荒木と足立は、特に手伝いとかではなく、一般参列者として通夜に参列していた。
「そいや、畑。取材者の女の子のことあれから何かわかったのか。」
畑と対面の席に座る生駒がひょっこり顔を出して聞いた。
「いえ、今は特に。ただ、村上さんの知り合いの刑事さんを紹介して貰おうかと。桐生朱美の妹って本人が話してたこととかを話たいんですよ。長尾智美が亡くなってしまった今、警察なら彼女の素性を調べることができるかもしれないじゃないですか。」
「裏付けて記事にする気か?なかなか記者魂が身に付いてきたじゃねぇか。」
荒木が珍しく畑を褒めるような台詞を言った。
「…いや、まぁ。その…。」
「kiriちゃんが何かを隠してたような気がしてたのが気になってるんだよね。」
畑の気持ちを足立が代弁した。
畑としては、荒木にまた嫌味を言われそうな気がして、有耶無耶にしたかったのだが、足立がさらりと言ってしまい、畑は、“余計なことを”といった表情で足立を見つめた。
「ったく、オメェは警察じゃねぇんだからよ。余計な感情移入して、仕事以外のことはするんじゃねぇぞ。」
案の定、荒木は気分を害したようだ。机に立て掛けた資料の間から、クスリと笑う生駒が見えて、畑はちょっとイラっとした。
「今日は編集長と稗田班長は、村上んとこの葬儀に参列してて不在だから俺が言うが、畑、この仕事は、変に感情移入してたら勤まらないぞ。記者は時に冷酷にもならないといけない。今お前が、例の亡くなった女の子を改めて記事にするなら、何故、母親に殺されたのかを大きく取り扱え。取材してた人間が殺されるなんてなかなか無い話だ、大きなニュースだよ。…ま、記者としての話だ。」
三戸が畑に忠告するように言った。ただ、三戸も人間的には畑の気持ちを理解している。亡くなった女の子が隠してたことが気になり、警察のように捜査したいという考えも。しかし、三戸は記者として畑に成長してほしいという思いで、冷酷なことを言ったのだ。
「…はい。迷惑は掛けません。」
畑はそう言うと、席を立ち、一腹するために執務室を出て廊下の先にある自販機に向かった。
自販機で缶コーヒーを買い、近くのベンチに座り、一口飲み、ふぅと深い溜息をついた。
「どうすんの?」
声がした方を振り向くと、足立が立っていた。足立は畑の左隣に座り、畑の缶コーヒーを取り上げ、一口飲み、畑に返した。
「私は畑くんを手伝うから。うん、私決めた!畑くんと一緒にkiriちゃんが隠してたことを調べるよ。」
畑は足立の言動に呆気にとられたが、背中を押された気がして嬉しかった。
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