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第2節 命の条件
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10月21日
ー 科学研究所 ー
千里の火葬が行われてる頃、池畑と溝口は科学研究所に到着したところだった。
佐倉が行方不明になってからは、呪いの研究については、元々佐倉の助手をしていた瀬古を筆頭に、志澤と府川の3人で引き継いでいた。
溝口が研究室の扉を開けると、目の前に調度瀬古がいた。
「瀬古先生、久しぶりです。」
「あれ、池畑さんに溝口さん、久しぶりです。今日はどうしたんですか?」
瀬古は、一旦作業の手を止めた。
「あれから呪いの研究は進展あるかなと思って来ました。コイツが瀬古先生に会いたいみたいで。」
池畑が溝口を指差しながら言った。
「やめてくださいよ、先生困っちゃいますって!すみません、アポなしで。近くを通ったので、ご挨拶がてら寄っちゃいました。」
溝口は瀬古だけではなく、ちょっと離れた所にいた府川と志澤にも一礼した。
「この前いらした時には、確か人を操る紙の話をしましたよね。」
瀬古が作業に戻り、何かを分析する機械にセットしながら言った。
「えぇ、あれには驚きました。佐倉に初め見せられた装置は、正に機械って感じの配線だとかスイッチだとかがたくさん付いてるものだったので。それがただの紙にペンで装置風な絵を書いたもので同じ効果が得られるなんて。」
「まだ未確定ですが、紙でできるわけですから、変な話、装置の絵さえ正しければ何にでも有効なんじゃないかと考えています。それこそ、地面とかでも。今はその研究を進めようかと。」
溝口は瀬古の話をメモに取りながら質問した。
「それは例えば、牢屋の中でも可能ですかね?」
瀬古は溝口の質問の意図を考え、答えにたどりついた。
「…桐生朱美のことかしら。そうね、例えばチョークとかで地面に書けば可能性はあるかもしれないですね。それと、最も恐ろしいのは、桐生朱美の場合は全く別の方法もあり得るということです。呪いの理論は桐生朱美が生み出したもの、私も彼女があなたたちに持ってきた資料を読ませてもらいましたが、はっきり言って彼女は天才です。また我々が想像しえない方法を牢屋の中で考えつく可能性は捨てきれません。」
溝口は、“マジか!”という表情になっていた。池畑も、科学者の言葉には信憑性を抱き、少し恐怖を感じた。
「…だから、桐生朱美はすぐに死刑になった。三ヶ月以内の死刑執行なんて前例がないですし。正に瀬古先生が言ったような恐れがあるからでしょうね。死刑の判決後、執行までに新たな犠牲者を出すわけにはいかないですからね。」
池畑はかつて佐倉の席だった机にゆっくりと向かいながら言った。そして、佐倉の椅子に腰掛けた。机は、常に瀬古たちが綺麗にしてくれているのか埃ひとつすら無かった。
佐倉は皆に大切に思われていたんだなと嬉しく思った。
「…すみません。佐倉の捜査は相変わらず難航しています。」
池畑が佐倉の机を眺めながら言った。
すると、離れた場所で作業していた志澤が瀬古に書類を渡しにやって来たついでに池畑に強い口調で言った。
「刑事さん、あれからもう一年半ですよ!本当に何にも進展ないんですか?日本の警察はたいしたことないですね。」
「志澤さん。池畑さんたちだって全力で捜査されてるんですから。」
瀬古が志澤を落ち着かせようと、間に入った。
「瀬古さんは、佐倉先生がいなくなって、ポストが回ってきましたもんね。」
志澤はそう言い放つと、自席に戻っていった。
「ごめんなさいね、彼も佐倉先生がいなくなって相当ショックみたいで。私は工藤所長に佐倉先生が戻ってくるまで代わりにリーダーを務めるよう言われて今頑張ってるつもりなんですが、志澤さんからしたらそれが面白くないみたいで。
まぁ、私より先に佐倉先生の助手をしていたから、佐倉先生を継ぐのは自分だみたいな考えがあるのかな。もう一年半くらい経つのに、私もまだまだ頑張らないといけないですね。」
瀬古は、悩んでいるような表情で話した。
瀬古と志澤の会話を聞いて、府川が志澤に見つからないように、そっと池畑たちのそばに来た。
「気にしないでください。志澤さん、単純に佐倉先生に惚れてたんですよ。だから池畑刑事に嫉妬してるんです。」
「え?私に?そうなんすか!?」
池畑は驚いたが、溝口はメモ帳で顔を隠しながら笑いを堪えていた。
「溝口さんも笑ってますが、佐倉先生があなたに好意を抱いてる風に演じてたのも、志澤さんは不快だったみたいですよ。あなたたちが来ると、志澤さんの機嫌が悪くなって大変だったんですよ。でも、単なる嫉妬心なんで、大目にみてあげてください。」
府川は少し笑いながら言った。池畑と溝口は全くそのことに気がついてなかったので、色々府川がフォローしてくれてたんだなと感謝した。
「それはそうと、まだ監視カメラの件もわからないんですか?」
府川が話の内容を事件に切り替えた。
佐倉がいなくなった日、佐倉の行動を確認しようと研究所敷地内の監視カメラの映像を見ようとしたが、その日の朝からいくつかのカメラにつながる電力がシャットダウンされており、映像は全く残っていなかった。
配線には全く問題なかったことから、電力のシャットダウンは誰かの故意によるもの以外には考えられず、捜査を続けたがその犯人はわからなかった。恐らく、その犯人が佐倉の行方不明事件にも絡んでいると池畑たちは読んでいる。
「えぇ、配線には溝口が業者の人に立ち会いましたが何も問題はなかったようですし、シャットダウンの方法を知る職員全員の調査もしましたが、疑わしい方は一人もいませんでした。その後は行き詰まったままです。本当にすみません。」
池畑は立ちあがり頭を下げた。
「や、やめてください。そんなつもりで聞いたわけじゃないんで。」
府川は慌てて、池畑に頭を上げるように言った。
「予備電源すら働かなかったわけですからね。制御室で誰かが故意に電力をシャットダウンしたとしか考えられないです。
でも、この一年半、一番ツラい思いされてたのは池畑さんですよね。何せ恋人だったんですから。
ここだけの話、佐倉先生言ってましたよ。池畑さんは自分のために、理由をつけて別れを切り出してくれたんだって。優しいでしょ、って。
佐倉先生は本当に忙しい時期で、池畑さんに迷惑掛けたくなかったので、池畑さんの言うとおりにしたようですけど。
…池畑さんの本心はしっかり見抜いてましたよ。…引き続き、佐倉先生の捜査よろしくお願いいたします。」
瀬古は志澤に聞こえないように声量を抑えて言った。
池畑は、そんな話を聞いたのは初めてだった。自分がどんなに大変な状況でも、相手の事も考えて行動する……やっぱり佐倉は凄いなと思った。
「何としても佐倉の事件は解決しますから!」
改めて心の中でも誓った。
ー 科学研究所 ー
千里の火葬が行われてる頃、池畑と溝口は科学研究所に到着したところだった。
佐倉が行方不明になってからは、呪いの研究については、元々佐倉の助手をしていた瀬古を筆頭に、志澤と府川の3人で引き継いでいた。
溝口が研究室の扉を開けると、目の前に調度瀬古がいた。
「瀬古先生、久しぶりです。」
「あれ、池畑さんに溝口さん、久しぶりです。今日はどうしたんですか?」
瀬古は、一旦作業の手を止めた。
「あれから呪いの研究は進展あるかなと思って来ました。コイツが瀬古先生に会いたいみたいで。」
池畑が溝口を指差しながら言った。
「やめてくださいよ、先生困っちゃいますって!すみません、アポなしで。近くを通ったので、ご挨拶がてら寄っちゃいました。」
溝口は瀬古だけではなく、ちょっと離れた所にいた府川と志澤にも一礼した。
「この前いらした時には、確か人を操る紙の話をしましたよね。」
瀬古が作業に戻り、何かを分析する機械にセットしながら言った。
「えぇ、あれには驚きました。佐倉に初め見せられた装置は、正に機械って感じの配線だとかスイッチだとかがたくさん付いてるものだったので。それがただの紙にペンで装置風な絵を書いたもので同じ効果が得られるなんて。」
「まだ未確定ですが、紙でできるわけですから、変な話、装置の絵さえ正しければ何にでも有効なんじゃないかと考えています。それこそ、地面とかでも。今はその研究を進めようかと。」
溝口は瀬古の話をメモに取りながら質問した。
「それは例えば、牢屋の中でも可能ですかね?」
瀬古は溝口の質問の意図を考え、答えにたどりついた。
「…桐生朱美のことかしら。そうね、例えばチョークとかで地面に書けば可能性はあるかもしれないですね。それと、最も恐ろしいのは、桐生朱美の場合は全く別の方法もあり得るということです。呪いの理論は桐生朱美が生み出したもの、私も彼女があなたたちに持ってきた資料を読ませてもらいましたが、はっきり言って彼女は天才です。また我々が想像しえない方法を牢屋の中で考えつく可能性は捨てきれません。」
溝口は、“マジか!”という表情になっていた。池畑も、科学者の言葉には信憑性を抱き、少し恐怖を感じた。
「…だから、桐生朱美はすぐに死刑になった。三ヶ月以内の死刑執行なんて前例がないですし。正に瀬古先生が言ったような恐れがあるからでしょうね。死刑の判決後、執行までに新たな犠牲者を出すわけにはいかないですからね。」
池畑はかつて佐倉の席だった机にゆっくりと向かいながら言った。そして、佐倉の椅子に腰掛けた。机は、常に瀬古たちが綺麗にしてくれているのか埃ひとつすら無かった。
佐倉は皆に大切に思われていたんだなと嬉しく思った。
「…すみません。佐倉の捜査は相変わらず難航しています。」
池畑が佐倉の机を眺めながら言った。
すると、離れた場所で作業していた志澤が瀬古に書類を渡しにやって来たついでに池畑に強い口調で言った。
「刑事さん、あれからもう一年半ですよ!本当に何にも進展ないんですか?日本の警察はたいしたことないですね。」
「志澤さん。池畑さんたちだって全力で捜査されてるんですから。」
瀬古が志澤を落ち着かせようと、間に入った。
「瀬古さんは、佐倉先生がいなくなって、ポストが回ってきましたもんね。」
志澤はそう言い放つと、自席に戻っていった。
「ごめんなさいね、彼も佐倉先生がいなくなって相当ショックみたいで。私は工藤所長に佐倉先生が戻ってくるまで代わりにリーダーを務めるよう言われて今頑張ってるつもりなんですが、志澤さんからしたらそれが面白くないみたいで。
まぁ、私より先に佐倉先生の助手をしていたから、佐倉先生を継ぐのは自分だみたいな考えがあるのかな。もう一年半くらい経つのに、私もまだまだ頑張らないといけないですね。」
瀬古は、悩んでいるような表情で話した。
瀬古と志澤の会話を聞いて、府川が志澤に見つからないように、そっと池畑たちのそばに来た。
「気にしないでください。志澤さん、単純に佐倉先生に惚れてたんですよ。だから池畑刑事に嫉妬してるんです。」
「え?私に?そうなんすか!?」
池畑は驚いたが、溝口はメモ帳で顔を隠しながら笑いを堪えていた。
「溝口さんも笑ってますが、佐倉先生があなたに好意を抱いてる風に演じてたのも、志澤さんは不快だったみたいですよ。あなたたちが来ると、志澤さんの機嫌が悪くなって大変だったんですよ。でも、単なる嫉妬心なんで、大目にみてあげてください。」
府川は少し笑いながら言った。池畑と溝口は全くそのことに気がついてなかったので、色々府川がフォローしてくれてたんだなと感謝した。
「それはそうと、まだ監視カメラの件もわからないんですか?」
府川が話の内容を事件に切り替えた。
佐倉がいなくなった日、佐倉の行動を確認しようと研究所敷地内の監視カメラの映像を見ようとしたが、その日の朝からいくつかのカメラにつながる電力がシャットダウンされており、映像は全く残っていなかった。
配線には全く問題なかったことから、電力のシャットダウンは誰かの故意によるもの以外には考えられず、捜査を続けたがその犯人はわからなかった。恐らく、その犯人が佐倉の行方不明事件にも絡んでいると池畑たちは読んでいる。
「えぇ、配線には溝口が業者の人に立ち会いましたが何も問題はなかったようですし、シャットダウンの方法を知る職員全員の調査もしましたが、疑わしい方は一人もいませんでした。その後は行き詰まったままです。本当にすみません。」
池畑は立ちあがり頭を下げた。
「や、やめてください。そんなつもりで聞いたわけじゃないんで。」
府川は慌てて、池畑に頭を上げるように言った。
「予備電源すら働かなかったわけですからね。制御室で誰かが故意に電力をシャットダウンしたとしか考えられないです。
でも、この一年半、一番ツラい思いされてたのは池畑さんですよね。何せ恋人だったんですから。
ここだけの話、佐倉先生言ってましたよ。池畑さんは自分のために、理由をつけて別れを切り出してくれたんだって。優しいでしょ、って。
佐倉先生は本当に忙しい時期で、池畑さんに迷惑掛けたくなかったので、池畑さんの言うとおりにしたようですけど。
…池畑さんの本心はしっかり見抜いてましたよ。…引き続き、佐倉先生の捜査よろしくお願いいたします。」
瀬古は志澤に聞こえないように声量を抑えて言った。
池畑は、そんな話を聞いたのは初めてだった。自分がどんなに大変な状況でも、相手の事も考えて行動する……やっぱり佐倉は凄いなと思った。
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