Rem-リム- 呪いと再生

雨木良

文字の大きさ
55 / 114
第4節 神という存在

(4)

しおりを挟む
ー 食堂 祿壽應穏前 ー

池畑に会うために午前休を取得した畑は、午後からの出勤を前に昼飯を食べようと、昼は食堂、夜は居酒屋の顔を持つ祿壽應穏にやって来た。

昨夜判明した、店主が山本編集長の前任だったことと、部下が殉職していたという衝撃の事実に、なんだかまだ気持ちの整理が出来ていなかったが、少しでも間を空けると、二度とこの店の敷居を跨ぐことが無くなるような気がして、半ば無理をして来ていた。

ガラガラガラ。

引き戸を開け、のっそりと中を覗くとカウンターに女性が一人いるのが見えた。粟田だった。

「お、ハタ坊きたな。珍しい時間だな。」

店主の武井が明るく話しかけた。

「武井さん。ハタ坊はやめてくださいよー。おそ松くんのキャラみたいじゃないっすか。」

「いや、お前は今日からハタ坊だ。」

畑は嫌がりながらも、武井との距離が縮まった気がして少し嬉しかった。畑は昨日の武井の様子が気になって、心配して訪れた節があり、元気そうな姿で安堵した。敢えて昨日のことには触れないようにしようと思った。

一方、カウンター席に座って今日の日替り定食であろうカキフライ定食を頬張っていた粟田は、そんな二人の会話を、笑いながら聞いていた。

「畑さん、こんにちは。隣どうぞ。」

畑は粟田に言われるがまま、隣の席に腰かけて、武井に日替り定食を注文した。

「昨日はお疲れ様でした。今日はお休み?まだ昼休憩前でしょ?」

「えぇ、午前中休みを貰って、これから出勤します。あれ、粟田さんは?」

武井が畑の前にお茶を出した。

「私は今昼休憩なの。今日は昼当番だから、先にご飯食べに来てて。…あっ、そっか、警察に行ってきたんですよね。確か昨日行くって言ってたもんね。」

「えぇ、警察には自分の持ってる情報は伝えました。後は警察の捜査に期待したいです。」

畑は一口お茶を啜ったが、思ったより熱く少し噎せた。

「良い人でした?その警察の人。」

粟田は、そんな畑を笑いながらも話を続けた。

「え、えぇ。職場の先輩に知り合いを紹介して貰えたんで、親身に聞いていただけたとは思ってます。そいや、粟田さんって職場近いんですか?」

「なんだハタ坊、霞ちゃんの職場知らなかったのか?すぐそこの役所だよ。元々ランチの常連さんだよ。ね!」

武井がニコっと粟田に微笑みながら言うと、粟田もニコっと笑顔で返した。

「でも、おじさんがかぐらちゃんの所の元編集長だとは知りませんでしたよ。」

「あんまり口外はしないでね。…仕事は辞めたけど、俺はこの街が好きで、もっと言うと出版社周辺の雰囲気がね。だから、最初は迷ったけど、何て言うか…見守ってたい気持ちで、この場所に店開いたんだよ。

今となっちゃ、荒木だとか、勿論山本や稗田にもバレてるけど、あいつらは、いつも明るく楽しい話をしに、この店に来てくれる。それで、俺は救われてんだ。」

武井はそう言うと、食材を取りに行くと言って、カウンター内のドアから出ていった。

畑と粟田は、武井の話に心を奪われ、武井が出ていった後しばらく黙っていたが、何かに気付いたように、粟田が畑に語りかけた。

「あ、畑くん。こんな時じゃないと言えないから言うけど、ありがとうね。」

「…ん?何かしましたっけ?」

畑はお礼を言われる内容が全く思い付かなかった。

「かぐらちゃんのこと。あの子、畑くんと距離が縮まってから、すごくイキイキしてて、毎日楽しそうで。漸く自分のキャラが職場でも出せたんじゃないかな?なかなかオカルト好きって言い出せないもんね。ふふ。」

嬉しそうに話す粟田を見て、畑は、粟田は足立の事が好きなんだなと沁々思った。

「いえ、俺も足立さんと粟田さんと仲良くなれて毎日楽しいですよ。こちらこそありがとうございます。」

畑も満面の笑みで返した。

「あとね、かぐらちゃんのこと、ちゃんと見守っててあげてね。…あの子すぐにのめり込んじゃうタイプだから。大学の頃は、UFOにのめり込んじゃって三日三晚マンションの屋上で、宇宙人へのコンタクトを取り続けちゃってさ、それも1月にだよ。無理矢理私が連れ帰ったんだけど、私が止めなかったらUFO来るまで続けてた勢いだったよ。」

畑は、嘘だろ?と思いながらも、粟田の表情で真実味を感じ、ちょっと引いたような顔をしてしまった。その畑の顔を見た粟田は思わず笑ってしまった。

「ハハハ、やっぱりそんな顔になるよね。大学の頃も周りの人たちは、皆そんな表情だったよ。だからかなぁ、オカルト好きって言うのを拒むようになってきちゃったのは。…でも、畑くんのお陰で変われたみたいで、また大学の頃みたいなイキイキしたかぐらちゃんになって、私は嬉しいの。」

粟田の本当に嬉しそうな表情を見て、畑も微笑んだ。

「でも、かぐらちゃんののめり込んじゃう性格だけには注意してね。なんか暴走しそうだったら止めてあげて。きっと今は“呪い”に関して、物凄く興味津々だと思うから。私も気を付けてるけどね。」

「…わかりました。俺は今回の雑誌記事の件では、大分足立さんに助けられてますから、恩返しのつもりで頑張ります。」

畑は微笑みながらも、今回はUFOや宇宙人ではなく、“呪い“というのに何か嫌な予感がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

私の優しいお父さん

有箱
ミステリー
昔、何かがあって、目の見えなくなった私。そんな私を、お父さんは守ってくれる。 少し過保護だと思うこともあるけれど、全部、私の為なんだって。 昔、私に何があったんだろう。 お母さんは、どうしちゃったんだろう。 お父さんは教えてくれない。でも、それも私の為だって言う。 いつか、思い出す日が来るのかな。 思い出したら、私はどうなっちゃうのかな。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ランの父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリーだった。 ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。 学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。 当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。 同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。 ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。 そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。 まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。  その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。 こうしてジュリーとの同居が決まった。 しかもジュリーの母親、エリカも現われ、ランの家は賑やかになった。

『続・聖パラダイス病院』

菊池昭仁
現代文学
『聖パラダイス病院』の続編です。こんな病院なら入院生活も悪くはありません。

処理中です...