Rem-リム- 呪いと再生

雨木良

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第4節 神という存在

(5)

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ー 神奈川県警 署内資料室 ー

同日

10時02分

「なんだよ、千代田。こんなとこに呼び出して。」

池畑から桐生朱美の事件を引き継いだ刑事である秋吉が、薄暗い資料室の奥のテーブルに座って待っていた千代田に、不機嫌そうな声で言った。

千代田は、秋吉が来たことに気が付くと立ち上がって軽く頭を下げた。

「お忙しいとこすみません、秋吉さん。」

千代田は、そう言うと捜査資料の綴りをテーブルの上に取り出した。

「なんだ、それ。」

秋吉は近付き、捜査資料のタイトルを見た。桐生朱美の事件のものだった。

「この資料に書かれていないこと、教えてくれませんか?」

「お前もか!?池畑といい、溝口といい、お前らはどうなってんだ!池畑が意気消沈して、俺が引き継いでやったんだ。なのに、二人で会うタイミングの度に池畑も同じことを聞いてきやがる。俺が何を隠すって言うんだ!」

秋吉の不機嫌度は徐々に上がっていった。

「今、上はこの事件を…呪いというものの存在を、桐生朱美の処刑で全て終わらせてさっさと闇に葬ろうとしてる。違いますか?」

千代田は秋吉の声には動揺せずに、淡々と質問をした。

「…違いますか?って、何で俺に…。」

秋吉はそう言いながらも、表情一つ変えずにじっと顔を見てくる千代田に、嘘を言っても通じないと察し、自分の考えを述べた。

「…呪いは桐生朱美で始まり桐生朱美で終わらせる。これは世の中のためにも必要なことだ。桐生朱美の死刑執行日があまりにすぐなのは、新たな犠牲者を出さないため。呪いの研究なんてほとんど進んでない状況で、桐生朱美が他にどんな隠し玉を持ってるか想定できないからな。今の警察や検察、司法の動きを全く不自然とは思わんが。」

「そんなことはこの資料見ればわかりますよ。私が聞きたいのはこの資料に記載の無いものです。」

千代田は綴りを叩きながら詰め寄った。

「例えばなんだ!?」

秋吉は、段々イライラを顕著に表すような口調に変えた。

「家族のこと、仕事場のこと、急に人格が変わったという話…そのどれもが記載がありません。何故です?何かありますよね。秋吉さんが自分の判断で記載内容を改ざんしたとは思っていません。杉崎課長…あるいはもっと上の人からの命令ですよね?」

秋吉はそっぽを向いたまま何も語らなかった。千代田が続けた。

「桐生朱美は単なる異質な殺人鬼なんですか?」

「実際に人を殺してる。被害者も少なくとも二人。まだ実数は確定されてないが、立派な殺人鬼なのは間違いないだろ。」

秋吉はそう言うと、資料室の出口へと歩き出した。

「待ってください!!」

千代田の声量を張った声に秋吉の足が止まった。

「…昨日の夜は楽しかったですか?…カヨちゃんと。」

千代田のそのセリフに、秋吉は驚き振り返った。すると、千代田の右手には秋吉に見せ付けるように、三枚の写真が握られていた。慌てて秋吉は千代田の元に駆け寄った。

「てめぇ、何だこれ!?」

千代田の持っていた写真の内容は、秋吉と女性が一緒に車に乗っているものが二枚、秋吉と同じ女性がホテルから出てくる瞬間の写真だった。

「この子、交通課のカヨちゃんですよね?いいんですか、秋吉さんご結婚されてるのにこんなことして。」

少しニヤつきながら挑発するように話す千代田に、イラつきの限界が来た秋吉は写真を奪い取りビリビリに破いてポケットにしまった。

「写真なんてのはどうでもいいです。データがありますから。」

千代田は変わらず秋吉を挑発するように言った。

「てめぇ。……千代田には気をつけろ、っていう話を聞いたことがあるが、こういうことか。…悪趣味だな。」

秋吉は、冷や汗を掻いていることに気が付いた。

「勘違いしないで。別に金をゆするつもりはないですから。私はただ真実が知りたいだけ。その為なら何でもするわ。」

秋吉は観念したのか、深い溜め息をつくと、奥のテーブルに移動し、椅子に腰かけた。

「……何が聞きたい。」

千代田は上手くいったことへの喜びを隠せずにニヤつきながら、秋吉の正面に腰かけた。

「千代田。お前自分の身を案じろよ。」

「ご心配なく。真実のためです。」

千代田はそう言うと、手帳を開き、秋吉への質問を口にし始めた。

ー 神奈川県警  署内 ー

11時20分

千代田から解放され、不機嫌な表情で廊下を歩く秋吉の正面、杉崎がこちらに向かって歩いてきた。すれ違いざまに、秋吉は頭を下げ、杉崎は秋吉だけに聞こえる声で呟いた。

「いつも悪いね。重荷を背負わせて。」

その言葉のみを放ち、秋吉の視界から杉崎は消えていった。秋吉は後ろを振り返り誰もいないことを確認すると、右手を握り拳にし、おもいっきり壁に打ち付けた。

一方、千代田は、秋吉から得た情報を書き込んだ手帳を抱きしめながら、執務室に入ろうとしてドアを開けたら、部屋を出ようとした溝口がぶつかりそうになった。

「うわっ、な、何かあったんですか?千代田さん。」

溝口の言葉を無視したわけじゃなく、溝口の存在に気付いていない千代田は、室内を見渡し、池畑を探した。

「あれぇ、池畑さんいないじゃん!」

「池畑さんなら帰りましたよ。」

無視されたと思った溝口が、少し不機嫌に教えた。

「うわっ、溝口くんいたの!?ビックリしたぁ。…って、帰っちゃったの?…残念。」

「ちなみに明日も休みですよ。」

「えっ!?何でよぉ。折角頑張ってきたのにぃ。まぁ後で電話でもしようっと。」

そう言うと千代田は、とぼとぼと自席に向かって歩き出した。溝口は何かあったんだろうなと思いつつも、トイレに行くために部屋を出ようとしたことを下半身が思い出し、急いでトイレを目指した。
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