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第4節 神という存在
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ー 市内カフェ ー
14時00分
正人と池畑は、昨日、正人が眞鍋との話の場として利用した個室喫茶店にいた。
「すみません。定時後にって言っときながら、急にお呼びだてをしてしまいまして。…こんなお店近くにあったんですね。知りませんでした。」
池畑は、アンティークで鮮やかに飾られている個室内を見回しながら言った。
「いえ、こちらとしても胸のモヤモヤが早めに取れる方が有り難いんで助かります。でも、お仕事は大丈夫ですか?」
正人は、言葉の通りに早く話せるタイミングが来てホッとしていた。時間が経てば経つほど色々余計な事を考えてしまい、話すことに億劫になりそうだったからだ。
「今日はもう仕事あがっちゃいまして。実は明日、休みを貰って群馬に旅行に行くことにしたんで、その準備のために…。」
「…群馬に旅行…って、本当にそれ旅行ですか!?」
正人は、直ぐに群馬と長尾の事件が結び付いて質問した。
「ハハハ、ご理解が早いですね。…まぁ、表面上は。あくまで個人的に群馬県に旅行に行き、たまたま知り合いにあって、たまたま話が聞けた、という体裁です。…あなただから言いますけど。」
正人は、お礼として頭を下げた。
「やめてくださいよ。私も個人的に調べたいから行くんです。それと、今日早めにあがったのは、準備の為だけじゃなく、私もやはり村上さんの話の内容が気になってしまい、仕事に手が付けられそうになかったもので。」
池畑は苦笑しながら話した。
「気にさせてしまいすみません。…じゃあ早速、話の内容なんですけど…。」
正人はリュックサックから、リムの資料をテーブルの上に置いた。その量に池畑は最初驚いたが、無言で資料を手に取り、パラパラと流し読みをしながら、正人に聞いた。
「……これは…何ですか?」
「千里の葬儀の際、火葬場で厚生労働省の研究室の方に…確か副室長だったかな。その人から妻を生き返らせる方法があると聞き、その日の夜にその資料が送られてきまして。」
池畑は流し読みを続けるが、正人の話の内容と資料に記載の内容が非現実すぎて、リアクションに困った。ただ、正人が冗談を言ってるわけじゃないことだけはわかった。
「その…ここに記載されているのは、死んだ人間を生き返らせる方法ということですか?」
「はい。リムという機械らしいです。」
「…ハハ、正直すぐには受け入れられる内容じゃないですよね。」
池畑は混乱の末、笑ってしまった。それを見て正人は下を向き、池畑に問いかけた。
「すぐに信じられない気持ちは当然わかります。…わかるんですけど、今日は、この事で池畑さんに相談したいことがあります。池畑さんにしかできない相談内容でして。」
「私にしかできない相談。…なんでしょうか?」
正人は、コーヒーを一口のみ池畑の問いに答えた。
「自分は、これに記載されている内容は事実だと信じています。というか、呪いだとか妻の自殺やらで、自分の思考回路が崩壊しているだけかもわかりませんが。ただ、この機械の存在が事実だとして、死者の命を勝手に蘇らすことが許される事なのか、自分に問いかけても答えが出ません。」
「それを私に?…困りましたね、私もその答えは持ち合わせていませんよ。」
池畑は、口には出さなかったが、当然、まだリムの資料の記載内容を受け入れているわけではない中で、正人が淡々と非現実的な内容の質問をしてくるので、頭が混乱していた。
「いや、私が聞きたかったのは、もしあなたが私の立場だったらどうするかです。あなたは今、行方がわからない大切な人を探している。形は違えど、大切な人を失った私の気持ちがあなたには理解していただけると思いまして。あなたが私の立場だったら…どうしますか?」
池畑は少し下を向き考え、顔をあげた。
「勿論、生き返らせます。」
余りにあっさりした答えに正人は驚き顔をあげ、池畑の顔を見た。目が合い、池畑が話を続けた。
「正直このリムという機械自体は、まだ私は信じていません。ただ、それは置いておいて、死んだ人間…つまり千里さんを生き返らせる何らかの術があるとするならば…私があなたの立場だったら、千里さんが自ら命を絶った理由を知るため生き返らせます。そして、二度と間違った事をさせないように、全力で支え続けます。」
混乱していた池畑だが、不思議と正人の質問の答えは即座に決まった。それは、正人の質問を、”もし佐倉が直ぐに見つかる術があるならば“と自分の立場に置き換えたからだ。
「…驚きました。そんなに真っ直ぐな回答をあっさりいただけるとは。…正直、あなたなら反対すると思いました。」
正人は、生き返らせると決めていた自分の意見が百パーセント正しいものとは思ってはいなかった。だから、池畑に意見を聞きたかった。出来れば否定される意見を聞き、一度冷静になって考え直したかったのだ。しかし、逆に自分を後押しするような意見は、それはそれで自信を与えてくれた。
「しかし、人の命を操る…まるで神みたいですね。…人の命を操るって点は呪いも同じか。まぁ、この場合は神は神でも死神でしょうね。…村上さん、あなたは千里さんが亡くなった理由を知るために生き返らせたいんですか?」
「勿論それもありますが。この資料に書いてあるみたいに生き返らせることができたら、池畑さんがおっしゃった通り、千里を全力で支え、一からやり直したいと思いまして。ただ…千里自身が生き返れたことに喜びを感じてくれるかはわかりませんが。」
正人の唯一の悩みはそれだった。生き返らせる事が千里自身の幸せなのか…。
「村上さん、これはあくまでも私の見解ですが、私は無下に残され苦しみや悲しみを味わう人間は、絶対に救われるべきだと考えてます。そして、それは村上さん、あなたも同じです。千里さんがどうとかじゃい、あなた自身が救われるのであれば、千里さんを生き返らせることは間違いじゃないんです。」
自分の悩みを簡単に打ち消すような回答に、正人は感嘆した。
自分は救われてよいのか…。絶対の信頼を寄せている池畑の言葉は重たく、正人の中に響いた。
正人は、この時、千里を生き返らせる事を決意した。
14時00分
正人と池畑は、昨日、正人が眞鍋との話の場として利用した個室喫茶店にいた。
「すみません。定時後にって言っときながら、急にお呼びだてをしてしまいまして。…こんなお店近くにあったんですね。知りませんでした。」
池畑は、アンティークで鮮やかに飾られている個室内を見回しながら言った。
「いえ、こちらとしても胸のモヤモヤが早めに取れる方が有り難いんで助かります。でも、お仕事は大丈夫ですか?」
正人は、言葉の通りに早く話せるタイミングが来てホッとしていた。時間が経てば経つほど色々余計な事を考えてしまい、話すことに億劫になりそうだったからだ。
「今日はもう仕事あがっちゃいまして。実は明日、休みを貰って群馬に旅行に行くことにしたんで、その準備のために…。」
「…群馬に旅行…って、本当にそれ旅行ですか!?」
正人は、直ぐに群馬と長尾の事件が結び付いて質問した。
「ハハハ、ご理解が早いですね。…まぁ、表面上は。あくまで個人的に群馬県に旅行に行き、たまたま知り合いにあって、たまたま話が聞けた、という体裁です。…あなただから言いますけど。」
正人は、お礼として頭を下げた。
「やめてくださいよ。私も個人的に調べたいから行くんです。それと、今日早めにあがったのは、準備の為だけじゃなく、私もやはり村上さんの話の内容が気になってしまい、仕事に手が付けられそうになかったもので。」
池畑は苦笑しながら話した。
「気にさせてしまいすみません。…じゃあ早速、話の内容なんですけど…。」
正人はリュックサックから、リムの資料をテーブルの上に置いた。その量に池畑は最初驚いたが、無言で資料を手に取り、パラパラと流し読みをしながら、正人に聞いた。
「……これは…何ですか?」
「千里の葬儀の際、火葬場で厚生労働省の研究室の方に…確か副室長だったかな。その人から妻を生き返らせる方法があると聞き、その日の夜にその資料が送られてきまして。」
池畑は流し読みを続けるが、正人の話の内容と資料に記載の内容が非現実すぎて、リアクションに困った。ただ、正人が冗談を言ってるわけじゃないことだけはわかった。
「その…ここに記載されているのは、死んだ人間を生き返らせる方法ということですか?」
「はい。リムという機械らしいです。」
「…ハハ、正直すぐには受け入れられる内容じゃないですよね。」
池畑は混乱の末、笑ってしまった。それを見て正人は下を向き、池畑に問いかけた。
「すぐに信じられない気持ちは当然わかります。…わかるんですけど、今日は、この事で池畑さんに相談したいことがあります。池畑さんにしかできない相談内容でして。」
「私にしかできない相談。…なんでしょうか?」
正人は、コーヒーを一口のみ池畑の問いに答えた。
「自分は、これに記載されている内容は事実だと信じています。というか、呪いだとか妻の自殺やらで、自分の思考回路が崩壊しているだけかもわかりませんが。ただ、この機械の存在が事実だとして、死者の命を勝手に蘇らすことが許される事なのか、自分に問いかけても答えが出ません。」
「それを私に?…困りましたね、私もその答えは持ち合わせていませんよ。」
池畑は、口には出さなかったが、当然、まだリムの資料の記載内容を受け入れているわけではない中で、正人が淡々と非現実的な内容の質問をしてくるので、頭が混乱していた。
「いや、私が聞きたかったのは、もしあなたが私の立場だったらどうするかです。あなたは今、行方がわからない大切な人を探している。形は違えど、大切な人を失った私の気持ちがあなたには理解していただけると思いまして。あなたが私の立場だったら…どうしますか?」
池畑は少し下を向き考え、顔をあげた。
「勿論、生き返らせます。」
余りにあっさりした答えに正人は驚き顔をあげ、池畑の顔を見た。目が合い、池畑が話を続けた。
「正直このリムという機械自体は、まだ私は信じていません。ただ、それは置いておいて、死んだ人間…つまり千里さんを生き返らせる何らかの術があるとするならば…私があなたの立場だったら、千里さんが自ら命を絶った理由を知るため生き返らせます。そして、二度と間違った事をさせないように、全力で支え続けます。」
混乱していた池畑だが、不思議と正人の質問の答えは即座に決まった。それは、正人の質問を、”もし佐倉が直ぐに見つかる術があるならば“と自分の立場に置き換えたからだ。
「…驚きました。そんなに真っ直ぐな回答をあっさりいただけるとは。…正直、あなたなら反対すると思いました。」
正人は、生き返らせると決めていた自分の意見が百パーセント正しいものとは思ってはいなかった。だから、池畑に意見を聞きたかった。出来れば否定される意見を聞き、一度冷静になって考え直したかったのだ。しかし、逆に自分を後押しするような意見は、それはそれで自信を与えてくれた。
「しかし、人の命を操る…まるで神みたいですね。…人の命を操るって点は呪いも同じか。まぁ、この場合は神は神でも死神でしょうね。…村上さん、あなたは千里さんが亡くなった理由を知るために生き返らせたいんですか?」
「勿論それもありますが。この資料に書いてあるみたいに生き返らせることができたら、池畑さんがおっしゃった通り、千里を全力で支え、一からやり直したいと思いまして。ただ…千里自身が生き返れたことに喜びを感じてくれるかはわかりませんが。」
正人の唯一の悩みはそれだった。生き返らせる事が千里自身の幸せなのか…。
「村上さん、これはあくまでも私の見解ですが、私は無下に残され苦しみや悲しみを味わう人間は、絶対に救われるべきだと考えてます。そして、それは村上さん、あなたも同じです。千里さんがどうとかじゃい、あなた自身が救われるのであれば、千里さんを生き返らせることは間違いじゃないんです。」
自分の悩みを簡単に打ち消すような回答に、正人は感嘆した。
自分は救われてよいのか…。絶対の信頼を寄せている池畑の言葉は重たく、正人の中に響いた。
正人は、この時、千里を生き返らせる事を決意した。
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