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第4節 神という存在
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池畑は、南雲由実の実家を尋ねた時も、由実の母親に同じような言葉を言った事を思い出していた。池畑は、その時の事を思い出しながら正人への話を続けた。
「先日、お伝えした通り、南雲由実さんの実家を訪ねてきました。勿論、由実さんの事件を解決するような証拠がないかを調べるためです。その時、やはり由実さんのご両親も大変心を傷めていました。皆同じです。千里さんのご家族もそうでしょうし…正直私だってそうです。残された者はただただ悲しむだけ、苦しむだけしか選択肢がないのでしょうか。少しでも救われると感じたことがあるなら、それはやってみるべきです。あなた自身のために。」
正人はいつになく真剣で、熱のこもった池畑の言葉に心を奪われていた。
「…ありがとうございます、池畑さん。何かふっきれたような気がします。私は救われていいんですね。神様は人の命を操ることを許してくれますかね。」
「もし神がいるなら、千里さんの命を操ったのは神です。私はそういった存在は信じないタイプですが、神がいつでも正しいわけじゃない。誰だって救われる権利はあります、勿論あなたにも。あなたは別に神になるわけじゃない。ただ機械を使って尽きた命に生を与える、ただそれだけだと思ってください。」
池畑はいつの間にかリムを認めるような言葉を言っている自分に気が付いた。
「…なら、池畑さん。あなたはどうですか?」
正人がもう一つ、どうしても池畑に言いたかった言葉だった。このタイミングだと咄嗟に思った正人は、緊張を隠せずに少し震えた声で聞いた。
「…どういう意味ですか?」
池畑は、直ぐに正人の言葉の意味を理解できなかった。
「…つまり、居なくなってしまったあなたの大切な人をこの機械で調べてみませんか?」
池畑は、正人の言葉の意味を理解すると、自分の理解が正しいのかを確認するために、資料を手に取り、目次を読み、条件についての記載があるページを開いた。上から流し読みをすると、直ぐに該当の箇所があった。
「…死者であること。…なるほど。つまり、佐倉が生きていれば、この機械による蘇りは失敗するってことですか。」
正人は、ゆっくり頷いた。正人は、池畑の探し人が死んでいる可能性があるという意味の自分の言葉に、池畑が激昂する可能性があると危惧していた。しかし、冷静な返しをしてくれた池畑に、正人の緊張の糸は解けた。
「その通りです。恋人だった方は佐倉さんって言うんですね。あなたの言葉を借りるなら、池畑さん、あなたが救われると思うなら是非試してみるべきかと思います。」
池畑は考えた。救われるとはどっちの意味かを。蘇りに失敗した=佐倉は生きているということが救われるということなのか…と。
「池畑さん、さっきのあなたの言葉、残された者は救われるべき、この言葉であなたのことがわかった気がします。こんなこと言いたくはないですが…多分佐倉さんは何かの事件に巻き込まれて、もう…。じゃなきゃ、あなたに連絡の一本くらい何とか取るようにすると思います。
…あなたはツラい現実を受け入れることができずに、ずっと苦しめられている。佐倉さんが行方不明になった日からずっと。多分、あなたの心の奥底では佐倉さんがもうこの世にいないことに気付いているはずです。
ただ、佐倉さんの肉体を見るまで気持ちに踏ん切りがつかないんじゃないですか?私は踏ん切りを付けてもらうために、あなたに話をしてます。」
正人は、勢いで自分の考えを素直に言い切った。
「…つまり、佐倉が生き返るという結論が、私を救うと…?」
正人は頷き、池畑を潤んだ目で見つめた。池畑はそんな正人を見て気持ちを理解した。…自然に一筋の涙を流れた。それは苦しみや悲しみの涙ではなく、苦しみから解放される、どちらかというと感謝や喜びに近い涙だった。
池畑は、心の奥底では佐倉がもう生きてはいないことに気付いていながらも、その事を゛池畑自身゛は受け入れることができず、ただただ苦しみを重ねるだけだった。
正人はそんな自分を見抜き、ツラい言葉だとわかりながらも、現実を自分にわからせようとしてくれた。池畑はそう感じた。
「ありがとうございます。」
池畑は立ちあがり、正人に深々と頭を下げた。
「いや、やめてくださいよ。私だって池畑さんの言葉で踏ん切りが付きました。ありがとうございます。」
正人も立ちあがり頭を下げた。二人はお互いに着席を促し、コーヒーを一口のみ落ち着きを取り戻した。
「…明日の群馬から帰ってきたらまた連絡を入れます。」
「あ、その件もありがとうございます。よろしくお願いします。それで…佐倉さんはどんな方だったんですか?…」
この正人の質問を皮切りに、この後、一時間以上お互いの思い出話に花を咲かせた。
「先日、お伝えした通り、南雲由実さんの実家を訪ねてきました。勿論、由実さんの事件を解決するような証拠がないかを調べるためです。その時、やはり由実さんのご両親も大変心を傷めていました。皆同じです。千里さんのご家族もそうでしょうし…正直私だってそうです。残された者はただただ悲しむだけ、苦しむだけしか選択肢がないのでしょうか。少しでも救われると感じたことがあるなら、それはやってみるべきです。あなた自身のために。」
正人はいつになく真剣で、熱のこもった池畑の言葉に心を奪われていた。
「…ありがとうございます、池畑さん。何かふっきれたような気がします。私は救われていいんですね。神様は人の命を操ることを許してくれますかね。」
「もし神がいるなら、千里さんの命を操ったのは神です。私はそういった存在は信じないタイプですが、神がいつでも正しいわけじゃない。誰だって救われる権利はあります、勿論あなたにも。あなたは別に神になるわけじゃない。ただ機械を使って尽きた命に生を与える、ただそれだけだと思ってください。」
池畑はいつの間にかリムを認めるような言葉を言っている自分に気が付いた。
「…なら、池畑さん。あなたはどうですか?」
正人がもう一つ、どうしても池畑に言いたかった言葉だった。このタイミングだと咄嗟に思った正人は、緊張を隠せずに少し震えた声で聞いた。
「…どういう意味ですか?」
池畑は、直ぐに正人の言葉の意味を理解できなかった。
「…つまり、居なくなってしまったあなたの大切な人をこの機械で調べてみませんか?」
池畑は、正人の言葉の意味を理解すると、自分の理解が正しいのかを確認するために、資料を手に取り、目次を読み、条件についての記載があるページを開いた。上から流し読みをすると、直ぐに該当の箇所があった。
「…死者であること。…なるほど。つまり、佐倉が生きていれば、この機械による蘇りは失敗するってことですか。」
正人は、ゆっくり頷いた。正人は、池畑の探し人が死んでいる可能性があるという意味の自分の言葉に、池畑が激昂する可能性があると危惧していた。しかし、冷静な返しをしてくれた池畑に、正人の緊張の糸は解けた。
「その通りです。恋人だった方は佐倉さんって言うんですね。あなたの言葉を借りるなら、池畑さん、あなたが救われると思うなら是非試してみるべきかと思います。」
池畑は考えた。救われるとはどっちの意味かを。蘇りに失敗した=佐倉は生きているということが救われるということなのか…と。
「池畑さん、さっきのあなたの言葉、残された者は救われるべき、この言葉であなたのことがわかった気がします。こんなこと言いたくはないですが…多分佐倉さんは何かの事件に巻き込まれて、もう…。じゃなきゃ、あなたに連絡の一本くらい何とか取るようにすると思います。
…あなたはツラい現実を受け入れることができずに、ずっと苦しめられている。佐倉さんが行方不明になった日からずっと。多分、あなたの心の奥底では佐倉さんがもうこの世にいないことに気付いているはずです。
ただ、佐倉さんの肉体を見るまで気持ちに踏ん切りがつかないんじゃないですか?私は踏ん切りを付けてもらうために、あなたに話をしてます。」
正人は、勢いで自分の考えを素直に言い切った。
「…つまり、佐倉が生き返るという結論が、私を救うと…?」
正人は頷き、池畑を潤んだ目で見つめた。池畑はそんな正人を見て気持ちを理解した。…自然に一筋の涙を流れた。それは苦しみや悲しみの涙ではなく、苦しみから解放される、どちらかというと感謝や喜びに近い涙だった。
池畑は、心の奥底では佐倉がもう生きてはいないことに気付いていながらも、その事を゛池畑自身゛は受け入れることができず、ただただ苦しみを重ねるだけだった。
正人はそんな自分を見抜き、ツラい言葉だとわかりながらも、現実を自分にわからせようとしてくれた。池畑はそう感じた。
「ありがとうございます。」
池畑は立ちあがり、正人に深々と頭を下げた。
「いや、やめてくださいよ。私だって池畑さんの言葉で踏ん切りが付きました。ありがとうございます。」
正人も立ちあがり頭を下げた。二人はお互いに着席を促し、コーヒーを一口のみ落ち着きを取り戻した。
「…明日の群馬から帰ってきたらまた連絡を入れます。」
「あ、その件もありがとうございます。よろしくお願いします。それで…佐倉さんはどんな方だったんですか?…」
この正人の質問を皮切りに、この後、一時間以上お互いの思い出話に花を咲かせた。
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