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最終章 真実と代償 第1節 同胞
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池畑はトイレを済ませると、席に戻る前に、洗面所で正人に電話を掛けた。3コール目で正人が電話に出た。
「…もしもし。」
正人は心なしか涙声であった。クローゼットで千里の洋服を眺めているうちに、どうにもこうにも悲しくなり、知らぬ間に涙を流していた。
「…夜分にすみません、池畑です。着信履歴が残っていたもので。…大丈夫ですか?何かありましたか?」
池畑は、正人の涙声に気が付き心配になった。
「あ、大丈夫です…何でもないです。お忙しいところ、掛け直していただいてすみません。この前相談した長尾さんの件でお聞きしたいことがありまして。急なんですが、明日伺ってもいいですか?」
池畑は、胸ポケットから手帳を取り出し、予定を確認した。
「明日、えーと、はい、大丈夫ですよ。一日署にいますので。」
「ありがとうございます。それと…。」
正人は、接続詞の後に、沈黙した。
「…村上さん?」
池畑は、暫く待ってみたが、一向に続きを話さない正人が心配だった。池畑の呼び掛けに、正人は重い口をゆっくり開いた。
「…すみません。…決めました。今週の土曜日にリムを使い、千里を生き返らせることにしました。」
池畑は、まず、とうとうこの時が来たのかと思った。そして、決断をした正人を誇らしくも感じた。
「………そうですか、とうとう決断し…。」
「一緒にどうですか!?」
正人は、池畑の言葉に被るように、声を張り上げた。池畑は余りの声量にスマホを耳から離した。
「一緒に…大切な人を生き返らせてみませんか?その回答も明日ください。では。」
正人はそう言うと一方的に電話を切った。
急に張り上げた声で驚いた池畑は、呆然としてしまい、何も返事ができなかった。電話が切れた後も、しばらく立ち尽くしていたが、目の前の鏡を見て我に返った。
池畑が席に戻ると、溝口がニヤニヤした表情で池畑を見た。
「…何だ?」
「出ました?いっぱい。」
溝口のニヤニヤは最高潮だった。
「糞じゃねぇよ!!」
池畑の平手が溝口の頂点を突いた。呆れた顔で席に座った池畑は大きな溜息をつくと、日本酒を啜りながら何気なく溝口に質問した。
「なぁ溝口、呪いっていう非現実的なもんが存在するとして、逆に死んだ人間を生き返らせるもんが存在するとしたら……溝口ならどうする?」
溝口は、池畑らしくない質問に深く意図を考えていた。
「…え?死んだ人間を生き返らせる機械か何かですか?」
「機械かどうかはともかく、死んだ人間を生き返らせることについてどう思うか聞いてんだ。」
溝口は少し考えてから、池畑に日本酒を注ぎながら答えた。
「…よくわかんないですけど、大切な人なら生き返らせて当然なんじゃないですか。単純に考えてですけど。」
溝口は、池畑が佐倉のことを言っているのではないかと直感で思った。
「…そうだよな、ありがとう。悪いな、変な質問して。」
池畑はそう言うと、注がれた日本酒を一気に飲み干し、話を続けた。
「ふぅ。…そいや、話は変わるが、溝口が秋吉とペアで来客の相手するなんて珍しいな。石井(いしい)ちゃんはいなかったのか?」
「えぇ、石井も池畑さんと同じく年休でしたよ。あ、あいつまだ千代田さんが亡くなったこと知らないかも。…あいつ千代田さん好きだったからなぁ。」
池畑が溝口に日本酒を注ぎ、自分にも注いだ。
「おう、そいやそうだったな。石井にはちゃんと秋吉が伝えてるんじゃないか?
まぁ、いずれにせよ、中々気持ち切り替えるのは難しいかもしれんが、今は千代田の死の真相を突き止めてやることが、千代田にとっての弔いになる。…今日は、早目に帰るかね。」
「失礼しまぁす。チャーシュー麺です。」
池畑の言葉に重なるように店員がボリュームたっぷりのラーメンをテーブルに置いていった。
「…お前、いつの間に…。」
「腹が減っては何とやらってことですよ。」
溝口はそう言うと、一心不乱にチャーシューにかぶり付いた。
「…………ぷっ、ぷはははは。」
流石の池畑も、笑ってしまった。溝口と呑みに来て良かったと感じていた。
10月25日
ー 北条出版 ー
9時07分
「昨日は悪かったな、キツい言い方して。」
生駒が席を立ち、畑に頭を下げた。畑は驚いて、頭を上げるようにリアクションをした。
「い、いいんですよ。生駒さんの言うとおり、俺たちが深入りしようとしてることは間違ってるかもしれないとも思ってますから。ただ、真実が書きたいだけなんです。」
「真実、真実って、…真実が一番なんかね。」
やり取りを見ていた荒木が不機嫌そうに口にし、続けた。
「雑誌としては勿論真実を書かなければならない。だが、お前と足立のやろうとしてることは、本当に雑誌のためか?俺も生駒も心配してやってるんだよ、わかるだろ?この前言ったろ、私情を挟みすぎるとろくなことにならねぇって。」
「……高遠さんの…話です…よね…?」
畑は、荒木の様子を伺うように言った。
「もうあんなのはごめんだぞ!」
荒木はそう言うと席を立ち、畑の隣を通り過ぎる際に、畑にしか聞こえない程の声で囁いた。
「…畑、殺されるなよ。絶体に。」
畑は思いも寄らない言葉に驚き、過ぎ去った荒木を目で追うために振り返るが、荒木はそのまま喫煙室に行くため執務室から出ていった。
「畑くん、大丈夫?」
荒木の言葉は聞こえなかったが、畑が神妙な顔つきで、荒木を目で追っている姿を見た足立が心配そうに語り掛けた。
「あ、えぇ大丈夫です。」
畑は気を取り戻した。
「そう。ならちょっとkiriちゃんの話なんだけどいいかしら。昨日の夜、霞ちゃんとまた色々な掲示板を見たんだけど、あのkiriちゃんの呪いの紙、少なくとも3人が購入してることがわかったの。
…ほらこれ、この掲示板に購入した人の感想があって、kiriちゃんも返信してるから信憑性は高いと思うのよ。」
足立が見せてくれた掲示板には、確かに購入して届いた呪いの紙を見た感想の書き込みが少なくとも3人からされていた。
ただ、実際に使用した後の書き込みが見当たらなかった。
しかし、畑は購入した人が実際に使用して、本当に人を殺してしまうようなことがあったら、掲示板に悠長に感想なんて書けるわけはないよな、と書かれていない理由も何となく想像していた。
「この3人突き止めたいですね。」
「えぇ、多分お金のやり取りがあるはずだから、kiriちゃんの口座調べればわかると思うんだけどな。」
畑は忘れないために手帳に、掲示板の内容を写すことにした。
「…もしもし。」
正人は心なしか涙声であった。クローゼットで千里の洋服を眺めているうちに、どうにもこうにも悲しくなり、知らぬ間に涙を流していた。
「…夜分にすみません、池畑です。着信履歴が残っていたもので。…大丈夫ですか?何かありましたか?」
池畑は、正人の涙声に気が付き心配になった。
「あ、大丈夫です…何でもないです。お忙しいところ、掛け直していただいてすみません。この前相談した長尾さんの件でお聞きしたいことがありまして。急なんですが、明日伺ってもいいですか?」
池畑は、胸ポケットから手帳を取り出し、予定を確認した。
「明日、えーと、はい、大丈夫ですよ。一日署にいますので。」
「ありがとうございます。それと…。」
正人は、接続詞の後に、沈黙した。
「…村上さん?」
池畑は、暫く待ってみたが、一向に続きを話さない正人が心配だった。池畑の呼び掛けに、正人は重い口をゆっくり開いた。
「…すみません。…決めました。今週の土曜日にリムを使い、千里を生き返らせることにしました。」
池畑は、まず、とうとうこの時が来たのかと思った。そして、決断をした正人を誇らしくも感じた。
「………そうですか、とうとう決断し…。」
「一緒にどうですか!?」
正人は、池畑の言葉に被るように、声を張り上げた。池畑は余りの声量にスマホを耳から離した。
「一緒に…大切な人を生き返らせてみませんか?その回答も明日ください。では。」
正人はそう言うと一方的に電話を切った。
急に張り上げた声で驚いた池畑は、呆然としてしまい、何も返事ができなかった。電話が切れた後も、しばらく立ち尽くしていたが、目の前の鏡を見て我に返った。
池畑が席に戻ると、溝口がニヤニヤした表情で池畑を見た。
「…何だ?」
「出ました?いっぱい。」
溝口のニヤニヤは最高潮だった。
「糞じゃねぇよ!!」
池畑の平手が溝口の頂点を突いた。呆れた顔で席に座った池畑は大きな溜息をつくと、日本酒を啜りながら何気なく溝口に質問した。
「なぁ溝口、呪いっていう非現実的なもんが存在するとして、逆に死んだ人間を生き返らせるもんが存在するとしたら……溝口ならどうする?」
溝口は、池畑らしくない質問に深く意図を考えていた。
「…え?死んだ人間を生き返らせる機械か何かですか?」
「機械かどうかはともかく、死んだ人間を生き返らせることについてどう思うか聞いてんだ。」
溝口は少し考えてから、池畑に日本酒を注ぎながら答えた。
「…よくわかんないですけど、大切な人なら生き返らせて当然なんじゃないですか。単純に考えてですけど。」
溝口は、池畑が佐倉のことを言っているのではないかと直感で思った。
「…そうだよな、ありがとう。悪いな、変な質問して。」
池畑はそう言うと、注がれた日本酒を一気に飲み干し、話を続けた。
「ふぅ。…そいや、話は変わるが、溝口が秋吉とペアで来客の相手するなんて珍しいな。石井(いしい)ちゃんはいなかったのか?」
「えぇ、石井も池畑さんと同じく年休でしたよ。あ、あいつまだ千代田さんが亡くなったこと知らないかも。…あいつ千代田さん好きだったからなぁ。」
池畑が溝口に日本酒を注ぎ、自分にも注いだ。
「おう、そいやそうだったな。石井にはちゃんと秋吉が伝えてるんじゃないか?
まぁ、いずれにせよ、中々気持ち切り替えるのは難しいかもしれんが、今は千代田の死の真相を突き止めてやることが、千代田にとっての弔いになる。…今日は、早目に帰るかね。」
「失礼しまぁす。チャーシュー麺です。」
池畑の言葉に重なるように店員がボリュームたっぷりのラーメンをテーブルに置いていった。
「…お前、いつの間に…。」
「腹が減っては何とやらってことですよ。」
溝口はそう言うと、一心不乱にチャーシューにかぶり付いた。
「…………ぷっ、ぷはははは。」
流石の池畑も、笑ってしまった。溝口と呑みに来て良かったと感じていた。
10月25日
ー 北条出版 ー
9時07分
「昨日は悪かったな、キツい言い方して。」
生駒が席を立ち、畑に頭を下げた。畑は驚いて、頭を上げるようにリアクションをした。
「い、いいんですよ。生駒さんの言うとおり、俺たちが深入りしようとしてることは間違ってるかもしれないとも思ってますから。ただ、真実が書きたいだけなんです。」
「真実、真実って、…真実が一番なんかね。」
やり取りを見ていた荒木が不機嫌そうに口にし、続けた。
「雑誌としては勿論真実を書かなければならない。だが、お前と足立のやろうとしてることは、本当に雑誌のためか?俺も生駒も心配してやってるんだよ、わかるだろ?この前言ったろ、私情を挟みすぎるとろくなことにならねぇって。」
「……高遠さんの…話です…よね…?」
畑は、荒木の様子を伺うように言った。
「もうあんなのはごめんだぞ!」
荒木はそう言うと席を立ち、畑の隣を通り過ぎる際に、畑にしか聞こえない程の声で囁いた。
「…畑、殺されるなよ。絶体に。」
畑は思いも寄らない言葉に驚き、過ぎ去った荒木を目で追うために振り返るが、荒木はそのまま喫煙室に行くため執務室から出ていった。
「畑くん、大丈夫?」
荒木の言葉は聞こえなかったが、畑が神妙な顔つきで、荒木を目で追っている姿を見た足立が心配そうに語り掛けた。
「あ、えぇ大丈夫です。」
畑は気を取り戻した。
「そう。ならちょっとkiriちゃんの話なんだけどいいかしら。昨日の夜、霞ちゃんとまた色々な掲示板を見たんだけど、あのkiriちゃんの呪いの紙、少なくとも3人が購入してることがわかったの。
…ほらこれ、この掲示板に購入した人の感想があって、kiriちゃんも返信してるから信憑性は高いと思うのよ。」
足立が見せてくれた掲示板には、確かに購入して届いた呪いの紙を見た感想の書き込みが少なくとも3人からされていた。
ただ、実際に使用した後の書き込みが見当たらなかった。
しかし、畑は購入した人が実際に使用して、本当に人を殺してしまうようなことがあったら、掲示板に悠長に感想なんて書けるわけはないよな、と書かれていない理由も何となく想像していた。
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