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第2節 拡散
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10月25日
ー 科学研究所駐車場 ー
10時12分
池畑からの思いも寄らない言葉を聞いてから、ずっと溝口は無言のまま運転を続け、科学研究所の来客用駐車場に車を止めた。
「……悪かったな。変な事言って。ただ、言った事は非現実的かもしれんが本当だ。詳細はまた話すから。」
池畑はそう言うと、ドアを開けて車を下りた。下りて目線を建物に向けると、視界に所長の工藤の姿が飛び込んできた。工藤は池畑たちの姿を見つけると、ゆっくり池畑たちに向かって歩き出した。
「お久しぶりです、池畑刑事。態々ご足労いただきありがとうございます。溝口刑事もね。」
池畑は、軽く頭を下げた。
「いえ、とんでもないです。所長自らお出迎えとは驚きました。」
「瀬古先生から呪いの件で進展があり、池畑さんたちも来られると聞いたもんで。一緒に聞かせてもらいますよ。」
池畑たちは工藤に先導される形で瀬古たちの研究室に辿り着いた。
「瀬古先生、池畑刑事と溝口刑事が来られましたよ。」
工藤の呼び掛けに、柱の陰から顔を出した瀬古は、まさか所長が出迎えに行っているとは思わず、驚きながら池畑たちに駆け寄った。
「所長、出迎えを任せてしまってすみません。てっきり府川先生が行ってくれたと思ってて。」
「府川先生なら買い出しに行きましたよ。瀬古先生も直接頼まないと伝わらないですよ、以心伝心じゃないんですから。」
研究室内のロフト部分から顔を出した志澤が、嫌味っぽく言った。志澤はそのまま白衣を羽織り、一階に下りてきた。
「府川先生、戻るまでに時間かかるかもしれないですから、始めましょうか。」
志澤はそう言うと、壁に設置されたスイッチを押した。すると、部屋の真ん中の壁に、大きなスクリーンが天井からゆっくり下りてきた。
「すみませんね、志澤先生。どんどん進めていただいて。」
ふて腐れたような表情の瀬古を見て、相変わらず仲が悪そうだなと池畑と溝口は思った。工藤と池畑たちは、瀬古に椅子に座るように案内され、準備が整うと部屋の明かりを消して、スクリーンの反対側の天井に備え付けられたプロジェクターから光を当てた。
スクリーンに映し出されたのは、頭を開かれ脳が露出した解剖写真だった。思いも寄らない画像に、心の準備が出来ていなかった溝口は、声にならない声を出してしまった。そのリアクションを恥じた池畑は、溝口に耳打ちした。
「お前なんつー声出すんだ。何回も見てんだろ、生で。」
「いや、基本的にはグロいの苦手で。解剖の時は心構えできますし。」
口を押さえながら話す溝口に、池畑は大きく溜め息をついた。
「すみません、グロい画像を突然見せちゃって。溝口さんは苦手でしたよね、こういうの。」
瀬古はそう言いながらポインターを取り出し、画像の脳の表面にある、一円玉くらいの大きさの白くなっている部分に光を照らした。
「…そこは、呪いに関係してるって言われてる部分ですよね?」
池畑が聞いた。
「そうです。流石、解剖を直でご覧になってるだけありますね。今回、私たちが発見したのはこの白い部分についての新発見です。きっと捜査の新たな手掛かりになるかと思います。」
瀬古の説明が一旦途切れたのを見て、溝口が手を挙げて質問をした。
「この画像は誰の脳なんですか?」
「良い質問ですね。長尾智美のものですよ。そして…」
志澤が答えながら、パソコンのキーボードをいじり、スクリーンの画像を変えた。
「これが千代田歩美のものです。」
急に現れた千代田の脳の画像に溝口は驚いて立ち上がった。
「え!?何で千代田さんの画像が…。」
すると、工藤が立ちあがり溝口の方を向いて答えた。
「…すみません。これらの画像は私が竃山センター長にお願いして借用したものです。」
「竈山…解剖医学センターのですか?」
池畑の質問に工藤が頷き、話を続けた。
「私と竃山センター長は、古くからの友人で、かつては同じ研究チームに所属していました。まぁ、その話は脱線してしまうので、詳しい話はまたの機会に。とにかく、そういった縁で私がお願いしてお借りしているものです。
刑事さん。質問は後にして、今日はまず、瀬古先生の報告を聞こうじゃありませんか。まだほとんど未開拓状態の呪いについての新発見……科学者としてはワクワクするものです。」
工藤はそう言うと椅子に座り、右手を差し出し、瀬古に引導を渡した。すると、次の話に備えて手元の資料を見ていた瀬古は、急に振られたことに動揺していた。
「え、…は、はい。…ということで、えーと、今見せました二人の脳には、似てるようで症状の出方に違いがあるんです。えーと、白い部分を拡大し比較しやすいように並べた画像をご覧ください。」
瀬古はキーボードを押し画像を変えた。
その画像が表示された途端、工藤から「なるほどぉ。」という声が漏れたが、池畑と溝口は、間違い探しをしているかのように目を細めたまま、スクリーンを黙って眺めていた。
ー 科学研究所駐車場 ー
10時12分
池畑からの思いも寄らない言葉を聞いてから、ずっと溝口は無言のまま運転を続け、科学研究所の来客用駐車場に車を止めた。
「……悪かったな。変な事言って。ただ、言った事は非現実的かもしれんが本当だ。詳細はまた話すから。」
池畑はそう言うと、ドアを開けて車を下りた。下りて目線を建物に向けると、視界に所長の工藤の姿が飛び込んできた。工藤は池畑たちの姿を見つけると、ゆっくり池畑たちに向かって歩き出した。
「お久しぶりです、池畑刑事。態々ご足労いただきありがとうございます。溝口刑事もね。」
池畑は、軽く頭を下げた。
「いえ、とんでもないです。所長自らお出迎えとは驚きました。」
「瀬古先生から呪いの件で進展があり、池畑さんたちも来られると聞いたもんで。一緒に聞かせてもらいますよ。」
池畑たちは工藤に先導される形で瀬古たちの研究室に辿り着いた。
「瀬古先生、池畑刑事と溝口刑事が来られましたよ。」
工藤の呼び掛けに、柱の陰から顔を出した瀬古は、まさか所長が出迎えに行っているとは思わず、驚きながら池畑たちに駆け寄った。
「所長、出迎えを任せてしまってすみません。てっきり府川先生が行ってくれたと思ってて。」
「府川先生なら買い出しに行きましたよ。瀬古先生も直接頼まないと伝わらないですよ、以心伝心じゃないんですから。」
研究室内のロフト部分から顔を出した志澤が、嫌味っぽく言った。志澤はそのまま白衣を羽織り、一階に下りてきた。
「府川先生、戻るまでに時間かかるかもしれないですから、始めましょうか。」
志澤はそう言うと、壁に設置されたスイッチを押した。すると、部屋の真ん中の壁に、大きなスクリーンが天井からゆっくり下りてきた。
「すみませんね、志澤先生。どんどん進めていただいて。」
ふて腐れたような表情の瀬古を見て、相変わらず仲が悪そうだなと池畑と溝口は思った。工藤と池畑たちは、瀬古に椅子に座るように案内され、準備が整うと部屋の明かりを消して、スクリーンの反対側の天井に備え付けられたプロジェクターから光を当てた。
スクリーンに映し出されたのは、頭を開かれ脳が露出した解剖写真だった。思いも寄らない画像に、心の準備が出来ていなかった溝口は、声にならない声を出してしまった。そのリアクションを恥じた池畑は、溝口に耳打ちした。
「お前なんつー声出すんだ。何回も見てんだろ、生で。」
「いや、基本的にはグロいの苦手で。解剖の時は心構えできますし。」
口を押さえながら話す溝口に、池畑は大きく溜め息をついた。
「すみません、グロい画像を突然見せちゃって。溝口さんは苦手でしたよね、こういうの。」
瀬古はそう言いながらポインターを取り出し、画像の脳の表面にある、一円玉くらいの大きさの白くなっている部分に光を照らした。
「…そこは、呪いに関係してるって言われてる部分ですよね?」
池畑が聞いた。
「そうです。流石、解剖を直でご覧になってるだけありますね。今回、私たちが発見したのはこの白い部分についての新発見です。きっと捜査の新たな手掛かりになるかと思います。」
瀬古の説明が一旦途切れたのを見て、溝口が手を挙げて質問をした。
「この画像は誰の脳なんですか?」
「良い質問ですね。長尾智美のものですよ。そして…」
志澤が答えながら、パソコンのキーボードをいじり、スクリーンの画像を変えた。
「これが千代田歩美のものです。」
急に現れた千代田の脳の画像に溝口は驚いて立ち上がった。
「え!?何で千代田さんの画像が…。」
すると、工藤が立ちあがり溝口の方を向いて答えた。
「…すみません。これらの画像は私が竃山センター長にお願いして借用したものです。」
「竈山…解剖医学センターのですか?」
池畑の質問に工藤が頷き、話を続けた。
「私と竃山センター長は、古くからの友人で、かつては同じ研究チームに所属していました。まぁ、その話は脱線してしまうので、詳しい話はまたの機会に。とにかく、そういった縁で私がお願いしてお借りしているものです。
刑事さん。質問は後にして、今日はまず、瀬古先生の報告を聞こうじゃありませんか。まだほとんど未開拓状態の呪いについての新発見……科学者としてはワクワクするものです。」
工藤はそう言うと椅子に座り、右手を差し出し、瀬古に引導を渡した。すると、次の話に備えて手元の資料を見ていた瀬古は、急に振られたことに動揺していた。
「え、…は、はい。…ということで、えーと、今見せました二人の脳には、似てるようで症状の出方に違いがあるんです。えーと、白い部分を拡大し比較しやすいように並べた画像をご覧ください。」
瀬古はキーボードを押し画像を変えた。
その画像が表示された途端、工藤から「なるほどぉ。」という声が漏れたが、池畑と溝口は、間違い探しをしているかのように目を細めたまま、スクリーンを黙って眺めていた。
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