Rem-リム- 呪いと再生

雨木良

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第4節 満悦

(6)

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ー 横浜市内某所 ー

22時10分

ガタガタガタ。

「ちっ、やっぱりどこも開いてないか。しょうがない。池畑のGPSは確かにここを示していたはずだ。」

秋吉は一人ある倉庫街に来ていた。

そのうち一つの倉庫を目をとめ、中の様子を伺おうとしたが、曇りガラスの上、どの入り口も鍵が掛けられており、ピッキングして中に入ることを決めた。

ポケットから針金のような道具を取り出し、入り口の扉の鍵穴に突っ込んだ。口には小さな懐中電灯を咥え、手元を照らしていた。

カチャカチャと道具が鍵穴で擦りあう音だけが静かに響いていた。

「ちっ、スムーズにいかねぇな。」

少しイラつき始めた時、急に扉の向う側の明かりがついた。

秋吉は、驚き作業を止め、一歩後退した。すると、ゆっくり扉が開き、初老の男が出てきた。

「何かご用ですか?物騒な方法で不法侵入とは穏やかじゃございませんな。」

秋吉は慌てて道具を仕舞い、胸ポケットから警察手帳を出した。

「ほほぅ、警察の方でしたか。ですが、今の方法は合法ですかな。」

「ここに眞鍋という男がいるな。話がしたい。」

秋吉は、相手の会話を無視し、強引に進めた。

「……存じ上げませんな、眞鍋という方は。」

「それなら自分の目で確かめるさ。」

秋吉は初老の男を無理矢理どけて中に入ろうとしたが、男に肩を掴まれ、気が付くと視界の先には天井があり後頭部と背中に痛みが走っていた。

どうやら、男に背負い投げを喰らわされたようだ。

「くっ、ハァハァ息が……。」

胸を押さえて秋吉が苦しんでいると、奥から足音が聞こえてきた。

「柳田。素人相手に柔道技は不味いぞ。下手したら命を落とす。」

「申し訳ありません。強硬的な行動を取られました由、自然に出てしまいました。この方をご存知ですか?幸司様。」

「…幸司…。…眞鍋か。」

秋吉は寝返りをうち、見上げるように眞鍋の顔を見た。眞鍋は睨むように見下ろしていた。

「…知らない男だ。」

「警察だそうです。」

柳田が眞鍋に耳打ちした。

「警察!?…まさか。」

秋吉は近くに置かれていた、古びた木箱やパイプ椅子に身を預けながら立ち上がった。

「俺はお前を逮捕しにきたわけじゃない。話を聞きたいだけだ。…その顔はあれか。安心しろ、池畑から告げ口があったわけじゃあない。こちらのルートで独自に調べたのさ。」

「…………。」

眞鍋は何も言わずに、映画セットの家に入り、ダイニングテーブルに腰掛けた。

それは、招き入れるという眞鍋の合図なのか、柳田は秋吉を案内し、眞鍋の向かい席に座らせた。

「…話をしていただけるようで感謝する。」

秋吉は、まだ痛む背中を押さえながら言った。

「いえ…私もあなたに興味をもちました。あなたはどうやら、私の素性を既に諸々承知しているようだ。」

眞鍋は、ニヤリと微笑みながら言った。

「あぁ。まずはあんたに連絡だ。桐生朱美が東京拘置所に移された。つまり…。」

「死刑執行が…近い…ですね。予想より早かったですね。まだ判決から半月経ってないじゃないですか。」

柳田が温かい紅茶を二人に出し、真ん中にクッキーを盛った皿を置いた。

「理由は簡単さ。警察の上の連中は焦ってる。呪いの扱いにな。死刑執行前に新たな犠牲者をこれ以上出すわけにはいかないからな。」

「ふっ、警察は無能ですね…。」

鼻で笑う眞鍋に秋吉はイラついたが、紅茶を飲んで感情を押さえ付けた。

「あんた、もうすぐ死ぬだろ?だから俺は逮捕なんてしない。処刑される人間を拘束なんてしないさ。……ひとつだけ聞きたい。」

秋吉は、眞鍋の秘密を淡々と話した。柳田は驚いた表情を浮かべたが、眞鍋はその話を冷静な表情で聞いていた。

「…何ですか?」

眞鍋はそう言うと、紅茶を一口飲んだ。

「由比に続いて曽我という裁判官が死んだ。あの呪い裁判の担当をしていた裁判官だ。気になって、もう一人の裁判官も調べた。田代っていう女性でな、なんと由比よりも先にこの世を去ってたよ。死因は揃って心臓麻痺。」

秋吉は鞄から百枚以上の書類の束を取り出し、無造作に眞鍋の前に投げ置いた。

「これは、桐生朱美の様子がおかしくなったという当時の証言の日付け以降に心臓麻痺でこの世を去った人たちの資料だ。これでも市内の主要な病院の分だけだ。」

眞鍋は書類を手に取り、一枚ずつ流し読みした。

「この人たちが、桐生朱美に呪い殺されたとでも?」

「ふん。全員とは言わない。だが、病院の話じゃあ、この一年間の心臓麻痺による死亡者の数は例年の五倍だそうだ。無関係とは思えないだろ?…」

秋吉の話を、眞鍋は微動だにせず聞いていた。秋吉は、眞鍋のリアクションを待たずに続けた。

「ここからは俺の推論だが、俺はどうも前から、この『呪い』という単語に引っ掛かってたんだ。直接死に結び付く行動を操るなら呪いでもわかる。だが、単に普通の行動を操るだけなら、それは呪いとは言い過ぎなんじゃないかってな。でも漸く分かったよ。個体差はあるようだが、どんなに簡単な内容でも、この方法で一回でも操られた人間は死に至る。…違うか?あんたなら知ってるだろ。リムにこの呪いのメカニズムをプログラムしたあんたなら。」

眞鍋はニヤリと笑った。

「呪いという言葉は、世間が面白がって広めただけでは?」

「世間はどうでもいい!桐生朱美自身が、呪いのメカニズムと言って資料を警察に持ってきた。科学者が安易に使う言葉とは思えない。」

秋吉は、じっと睨みながら眞鍋の反応を待った。眞鍋は、しばらく黙りこみ、紅茶の残りをイッキ飲みするとカップをソーサーに置き、またニヤリと厭らしい笑みを浮かべた。

その表情を見て、秋吉も同じ笑みで返した。

ー 溝口宅 ー

22時35分

溝口は、まだ震えていた。

千代田の葬儀の帰りに、池畑の家で見た゛生きている゛佐倉の姿は衝撃だった。

行方不明だった佐倉が無事に発見されたのなら、ありのままを報告すればいい。だが、池畑は全てを隠していた。

秋吉の言っていた通り、池畑の家にいた佐倉は、自分が知っている佐倉ではないと確信した。

溝口は、そう思った途端に恐怖ですぐに池畑の家を飛び出していた。

それから数分おきに着信が鳴っていた。恐らく心配した池畑からだろうと分かってはいるが、溝口は電話に出る勇気がなく無視をしていた。

溝口は、不意に隣に置いてあったスマホのメッセージアプリの履歴を眺めた。それは、数分前に、自分がやりとりした履歴であり、相手の更なる返事を待っていた。

<佐倉先生は生きていた。>

<え?突然なに?どういうこと?>

<詳しくはわからないが生きているんだ。だが、記憶は無くしてるようだった。>

<そう。情報ありがとう。今忙しいからまた。>

「たったこれだけで理解したのか?」

画面を眺めていると、また池畑からの着信が鳴り出した。

溝口は、もうどうしたら良いかわからず、スマホを壁に投げつけた。だが、故障することはなく、床に落ちたスマホは、変わらず池畑からの着信を知らせていた。
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