Rem-リム- 呪いと再生

雨木良

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第5節 伝播

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10月27日

ー 池畑宅 ー

8時02分

池畑は昨晩、千代田の葬儀から戻ると、既に寝ていた佐倉を起こさないように、そっと隣に潜り込んで眠りについた。

目覚めて寝室からリビングへ入ると、匂いだけで美味しいと分かる朝食が、奥のダイニングテーブルに並んでいた。

「おはよう。相変わらず休日は8時に起きてるのね。出来たてよ、食べましょ。」

池畑は、本当に佐倉が戻ってきたことを実感した。池畑は笑顔で席に着き、味噌汁を一口飲んだ。

「うまい。忘れもしない由香里の味だ。」

「やめてよ、なんか恥ずかしい。良かった、こういうのはしっかりと覚えていられて。…それより、溝口くんは大丈夫だったかしら。あれから電話出てないんでしょ?」

「あぁ。また後で電話してみるよ。」

池畑は、最近の非日常な事件を忘れて幸せな朝食の時間を過ごしていたが、すぐに現実に引き戻すように電話の着信が鳴り出した。

池畑は、佐倉にごめんと言って朝食を中断し、電話に出た。

「もしもし、池畑です。」

「群馬県警の犬童だ。グッモーニング!朝からすまんな、進展があったから真っ先に教えてやろうと思ってな。」

「おはようございます。長尾智美の事件の真相ですか?」

「あぁ。ずっと懸念事項になっていた長尾の口座がわかった。だが、かなり厄介でな、彼女偽名を使っている。藁科美帆っていうな。」

「藁科…何故偽名を。」

池畑は難しい表情を浮かべた。佐倉は、ダイニングテーブルに座りながら、池畑の電話に耳を傾けていた。

犬童が、淡々と話を続けた。

「例の呪いの紙の代金の振込先に使うためだと私は思ってるよ。もしかしたら、紙を購入した人間が分かるかもしれない。明日、その金融機関で詳細を調べてもらうことになってる。明日でこの事件、大きく動くぞ。どうだ、明日こっちに来ないか?」

「勿論伺います。もし、呪いの紙購入者が分かれば、呪いの根絶にも役に立つ。朝一の電車で向かいます。」

「あぁ、待ってるよ。それじゃあ。」

池畑はスマホをリビングのテーブルに置くと席に戻り、朝食を再開した。

「呪いの事件?あ、テレビ見てみて。さっき朝食作りながらニュース見てたんだけど、桐生朱美の死刑そろそろ執行らしいわよ。」

「え、もう!?知らなかった。……眞鍋さんもか。」

「ん?」

佐倉は最後の言葉が聞き取れずに聞き返したが、池畑は何でもないと言ってごまかした。

この日は、近所の目もあるため、正人も池畑も終日家の中で過ごすことに決めていた。女性二人は、買い物に行きたいと言う要望をそれぞれ出したが、理由を話して却下し納得してもらっていた。

この時、正人と池畑は、明日、群馬県前橋市で偶然出会うとは想像もしていなかった。

ー 居酒屋 祿壽應穏 ー

17時30分

「いらっしゃい、畑坊。もう来てるよ。」

店主の武井が畑を小上がりに通すと、店の外に行き、暖簾を片付け、入口側の明かりを消した。

「ありがとう。今日休みなのに、我が儘言ってすみません。」

足立が手を合わせながら謝った。

「かぐらちゃんの頼みだ。今日は予定もなかったしな。…その代わり、自分も席に混ぜてくれるかな。」

「勿論です!」

足立と畑が隣同士で座り、向かいに粟田と武井が座った。

まずは、座る際に武井が持ってきた瓶ビールで乾杯をし、喉を潤した。

「で、今日は何なんだ。店を貸し切りって…要は中身を誰にも聞かれたくなかったからだろ?」

武井が畑と足立を交互に見ながら聞いた。

「自分たち、明日前橋市に行くんですよ。長尾智美の事件の取材として。それの作戦会議がメインです。」

畑が答えながらスマホの画面を見て、続けた。

「ダメだ、やっぱり村上さんは今日来れないみたいです。」

足立は頷くと、鞄から紙を一枚取り出した。

「かぐらちゃん、これは?」

武井がその紙を手に取りながら聞いた。

「呪いの紙です。桐生朱美の妹の長尾智美が作ったオリジナルを私が写したもの。」

「かぐらちゃん、まだこの紙持ってたの!?」

粟田が驚いた表情で言った。

「霞ちゃん、大丈夫だって。別に誰かに使ったりはしてないから。私が言いたいのは、この紙をネットで購入した人が何人かはいるはずよ。ね?」

足立は畑に問いかけて、畑は頷きながら答えた。

「そうですね。足立さんの言う通り、この紙を購入した人を特定しない限り、呪いの騒動は終わらないって話です。」

「おいおい、あんたら警察みたいなことしようとしてるのか!?」

武井は不安そうに言った。

「無理はしないですよ!明日の目的は、前に長尾さんが言っていた手紙の存在、そして呪いの紙を購入した人を探す手掛りが何かあれば。俺思うんですけど、村上さんの妹さんが、長尾さんとバンドのライブをきっかけに知り合いになったらしいんですけど、長尾さんはライブに行く度にグッズを結構買ってたみたいなんですよ。でも、あの部屋にはグッズどころかバンドのポスター一枚すらなかった。多分、何処かに隠してるんですよ。もしかしたら、手紙や呪いの紙を購入した人を示す何かも一緒にあるかもしれませんよ。」

明るく話す畑に対して、足立は頬杖を付いて考え事をしながら話し出した。

「…何でグッズを隠す必要があったのかなぁ。まぁ、とりあえず明日はkiriちゃんのアパート周辺から調べましょうかね。霞ちゃんも来てくれるって言うし。」

「……レンタル倉庫。」

粟田は一人考え事をし、周りを気にせずに思い付いたままに呟いた。

「霞ちゃん、今何て?」

足立の言葉に、我を取り戻した粟田はハッとして、答えた。

「あ、いや…もし、大量のグッズを自宅以外に仕舞うなら、レンタル倉庫とかかなって。ほら、今結構何処にでもあるじゃない。ただ、ひとつ気になってるのが、手紙なのよね。」

畑は、粟田の言葉に頷いた。

「えぇ、昨日のニュースでやってましたね。事件当日の住人の証。手紙についての口論が聞こえたって。」

「kiriちゃん、その手紙は桐生朱美からだって言っていたわよね。母親が不在の間に手紙を盗んで、それに怒った母親がアパートにやって来て口論の末刺してしまった。…その後、冷静に戻って自分のしたことに後悔し自殺。…こんな感じかしら。」

足立がノートに相関図のようなイラストを書きながら、考えを説明した。

「ただ、何のために手紙を盗んだんだ?母親の怒り方からして、盗んだらどうなるかはよく分かってそうなもんだけどな。」

武井が、足立の考えに疑問を呈した。

「確かに……謎が多いですね。…何か俺の勝手な推論ですけど、この事件、登場人物がもう一人はいると思うんですよ。亡くなった二人以外に。母親の動機となる手紙に関係してる気がするなぁ。」

畑は、ビールを飲みながら考えを呟いた。 
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