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第5節 伝播
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池畑たちと同じ電車の二両後ろには、正人たち四人が乗っていた。勿論、互いに同じ電車に乗っているとは露知らずに。
四人はボックスシートに座り、初めに正人と粟田が互いに自己紹介したあとは、飲み物を飲んだり、景色を眺めたり、携帯を見たりと自由に過ごしていた。
「なぁ、畑。長尾智美はどんな印象だったんだ。」
村上が唐突に質問した。
「え、そうですねぇ…変わってると言えば変わってましたが、元々抱いていたイメージとは違って、見た目は可愛くて、部屋も普通で、ギャップのせいもあるかもしれませんが、凄く良い子でした。だから、尚更真相が気になって。」
「お守りもくれたしね。」
足立は、鞄に付けたお守りを正人に見せた。
「お守り?何のために?」
正人は、お守りを触りながら聞いた。
「詳しくはわかりませんが、まぁ気休め程度の物かと。俺もほら。」
畑も鞄からお守りを取り出して、正人に渡した。正人は、手に取ったお守りを親指でつつくように触った。
「この中身見たか?」
正人の質問に足立は首を横に振った。
「お守りは中身を見るとバチが当たるって言いますよ。私は勿論開けてません。」
「俺もですよ。」
正人は、畑のお守りの結び目を優しくほどき、自分の左手にお守りを逆さにするようにして中身を出した。
中からはティッシュを丸めたものが出てきた。畑は、予想外の中身に驚き、そのティッシュを正人から貰うと、自分の左手の上で広げた。
「これは………爪?」
ティッシュの中身は、爪切りで切った残骸のような形をした爪が数十個入っていた。その中身に足立も顔を青くした。
「え?私のやつの中身も同じかな。…気持ち悪い。」
「ねぇ、これ。」
それまで黙ってスマホを眺めていた粟田が、その画面を見せてきた。
「例の、長尾智美が書き込みしていた掲示板に、爪のお守りの記述があるの。自分の爪に独自のお払いをしたもので、持っていれば呪いから身を守ってくれるって。…信憑性はわからないけどね。」
「じゃあ、これはkiriちゃんの爪なんだ。呪いから身を守ってくれる…か。気持ち悪いは撤回!私は引き続き鞄に付けるわ。」
足立はお守りを優しく撫でながら言った。
正人は、この時、死んだ長尾智美の爪だということは、これがあれば長尾智美をリムで生き返らせることができ、上手くいけば真相がわかるかもしれないと思った。
だが、とりあえず今は、畑から爪とティッシュを受取り、同じ形にして袋の中に戻して、畑に返した。
「畑も肌身離さず持っといた方がいい。今から呪いの根源に近い場所に行くんだからな。」
正人は、またタイミングを見て話そうと考えた。
ー前橋市内 ー
電車は約二時間かけて、前橋駅へと到着した。
駅でも正人たちと池畑たちは顔を会わせることはなく、池畑たちは警察署へ、正人たちは長尾智美のアパートへと向かった。
ー前橋警察署内ー
「おはようございます。神奈川県警の池畑と申しますが…。」
「お、池畑。グッモーニング!」
池畑たちが犬童の部署を訪ねると、犬童から見つけて声を掛けてきた。犬童の後ろにいた松蔭もペコリと会釈した。
犬童は、二人を応接室に案内した。四人が着座すると、犬童から会話を切り出した。
「いやぁ、朝早くから悪いね。でも、来て貰っただけの価値はあるよ。ほら。」
犬童は数枚の資料を池畑たちの前に置いた。
「これは?」
「長尾智美の口座の出入金履歴です。先程、金融機関から入手しました。」
池畑の問いに松蔭が答えて、続けた。
「口座は偽名で作られており、捜査にてこずりましたが、たまたま長尾さんのアパートに金融機関からの通知が来ており、確認できたものです。偽名に使われた藁科美帆は、約10ヵ月前に免許証の紛失届を交番に出していました。調書によると、盗難じゃないかと言っていたようです。金融機関の口座作成時の資料を見ると、藁科美帆の免許証で顔写真だけが長尾智美になっているコピーが付いていました。受けた人間が入りたてのパート職員ということで、詳しくは調べずに口座を作成したのかもしれません。」
「…その藁科さんには連絡ついたんですか?」
溝口が手帳にメモを取りながら聞いた。
犬童がうつむきながら答えた。
「…死んでたよ。」
「え!?」
池畑と溝口は目を見合わせた。
「二週間前に死亡していた。死因は心臓麻痺。」
「それって…長尾智美に殺されたとか?」
溝口が、恐る恐る聞いた。
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。どのみちもう遺体は灰になってる。脳みそは調べようがないね。だが、俺も長尾智美がやったとは思ってるよ。相手は年齢もほぼ一緒の一人暮らしで、郵便局には自分のアパートに郵便物を届けるように転送届が出ていた。二ヶ月前にね。後はどうやって藁科美帆から免許証を奪い取ったか……うーん、呪いで免許証を渡させたのかもしれないな。」
池畑は、犬童の説明に頷きながら、再び口座の出入金履歴の紙を手に取り、履歴を確認した。
その中に二十万円の振込みが三件ほどあり、これが呪いの紙を購入した人間からの振込みだと確信した。
「この二十万円の金を振り込んだ人間たちはわかりましたか?」
「いや、まだだ。全てATMからの振込みだから直ぐには相手の情報がわかっていないが、振り込んだ金融機関は分かっている。少なくとも監視カメラの映像はあるだろう。今日中にでも入手できるさ。だがな、この三件のうち二件はあんたの住む横浜だぞ。」
池畑と溝口は、また目を見合わせた。
「…横浜に二人もいるのか…。」
ー長尾宅前ー
「ここだったよね?」
畑たちは、長尾智美のアパートの前までやって来て、足立が指差しながら聞いた。
「じゃあ探しますか?」
正人の言葉で、二手に別れてレンタル倉庫を探すことにした。
これは、電車の中で、長尾と友人関係だった紗季が、長尾に゛れんた゛という彼氏がいたかもしれないと言っていたという情報、それと粟田の推理であるレンタル倉庫という単語が重なったためだった。
車もなく、駅もさほど近くはないため、自宅付近のレンタル倉庫を借りているはずと狙いを定め、半径五百メートル内を探すことにした。
四人はボックスシートに座り、初めに正人と粟田が互いに自己紹介したあとは、飲み物を飲んだり、景色を眺めたり、携帯を見たりと自由に過ごしていた。
「なぁ、畑。長尾智美はどんな印象だったんだ。」
村上が唐突に質問した。
「え、そうですねぇ…変わってると言えば変わってましたが、元々抱いていたイメージとは違って、見た目は可愛くて、部屋も普通で、ギャップのせいもあるかもしれませんが、凄く良い子でした。だから、尚更真相が気になって。」
「お守りもくれたしね。」
足立は、鞄に付けたお守りを正人に見せた。
「お守り?何のために?」
正人は、お守りを触りながら聞いた。
「詳しくはわかりませんが、まぁ気休め程度の物かと。俺もほら。」
畑も鞄からお守りを取り出して、正人に渡した。正人は、手に取ったお守りを親指でつつくように触った。
「この中身見たか?」
正人の質問に足立は首を横に振った。
「お守りは中身を見るとバチが当たるって言いますよ。私は勿論開けてません。」
「俺もですよ。」
正人は、畑のお守りの結び目を優しくほどき、自分の左手にお守りを逆さにするようにして中身を出した。
中からはティッシュを丸めたものが出てきた。畑は、予想外の中身に驚き、そのティッシュを正人から貰うと、自分の左手の上で広げた。
「これは………爪?」
ティッシュの中身は、爪切りで切った残骸のような形をした爪が数十個入っていた。その中身に足立も顔を青くした。
「え?私のやつの中身も同じかな。…気持ち悪い。」
「ねぇ、これ。」
それまで黙ってスマホを眺めていた粟田が、その画面を見せてきた。
「例の、長尾智美が書き込みしていた掲示板に、爪のお守りの記述があるの。自分の爪に独自のお払いをしたもので、持っていれば呪いから身を守ってくれるって。…信憑性はわからないけどね。」
「じゃあ、これはkiriちゃんの爪なんだ。呪いから身を守ってくれる…か。気持ち悪いは撤回!私は引き続き鞄に付けるわ。」
足立はお守りを優しく撫でながら言った。
正人は、この時、死んだ長尾智美の爪だということは、これがあれば長尾智美をリムで生き返らせることができ、上手くいけば真相がわかるかもしれないと思った。
だが、とりあえず今は、畑から爪とティッシュを受取り、同じ形にして袋の中に戻して、畑に返した。
「畑も肌身離さず持っといた方がいい。今から呪いの根源に近い場所に行くんだからな。」
正人は、またタイミングを見て話そうと考えた。
ー前橋市内 ー
電車は約二時間かけて、前橋駅へと到着した。
駅でも正人たちと池畑たちは顔を会わせることはなく、池畑たちは警察署へ、正人たちは長尾智美のアパートへと向かった。
ー前橋警察署内ー
「おはようございます。神奈川県警の池畑と申しますが…。」
「お、池畑。グッモーニング!」
池畑たちが犬童の部署を訪ねると、犬童から見つけて声を掛けてきた。犬童の後ろにいた松蔭もペコリと会釈した。
犬童は、二人を応接室に案内した。四人が着座すると、犬童から会話を切り出した。
「いやぁ、朝早くから悪いね。でも、来て貰っただけの価値はあるよ。ほら。」
犬童は数枚の資料を池畑たちの前に置いた。
「これは?」
「長尾智美の口座の出入金履歴です。先程、金融機関から入手しました。」
池畑の問いに松蔭が答えて、続けた。
「口座は偽名で作られており、捜査にてこずりましたが、たまたま長尾さんのアパートに金融機関からの通知が来ており、確認できたものです。偽名に使われた藁科美帆は、約10ヵ月前に免許証の紛失届を交番に出していました。調書によると、盗難じゃないかと言っていたようです。金融機関の口座作成時の資料を見ると、藁科美帆の免許証で顔写真だけが長尾智美になっているコピーが付いていました。受けた人間が入りたてのパート職員ということで、詳しくは調べずに口座を作成したのかもしれません。」
「…その藁科さんには連絡ついたんですか?」
溝口が手帳にメモを取りながら聞いた。
犬童がうつむきながら答えた。
「…死んでたよ。」
「え!?」
池畑と溝口は目を見合わせた。
「二週間前に死亡していた。死因は心臓麻痺。」
「それって…長尾智美に殺されたとか?」
溝口が、恐る恐る聞いた。
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。どのみちもう遺体は灰になってる。脳みそは調べようがないね。だが、俺も長尾智美がやったとは思ってるよ。相手は年齢もほぼ一緒の一人暮らしで、郵便局には自分のアパートに郵便物を届けるように転送届が出ていた。二ヶ月前にね。後はどうやって藁科美帆から免許証を奪い取ったか……うーん、呪いで免許証を渡させたのかもしれないな。」
池畑は、犬童の説明に頷きながら、再び口座の出入金履歴の紙を手に取り、履歴を確認した。
その中に二十万円の振込みが三件ほどあり、これが呪いの紙を購入した人間からの振込みだと確信した。
「この二十万円の金を振り込んだ人間たちはわかりましたか?」
「いや、まだだ。全てATMからの振込みだから直ぐには相手の情報がわかっていないが、振り込んだ金融機関は分かっている。少なくとも監視カメラの映像はあるだろう。今日中にでも入手できるさ。だがな、この三件のうち二件はあんたの住む横浜だぞ。」
池畑と溝口は、また目を見合わせた。
「…横浜に二人もいるのか…。」
ー長尾宅前ー
「ここだったよね?」
畑たちは、長尾智美のアパートの前までやって来て、足立が指差しながら聞いた。
「じゃあ探しますか?」
正人の言葉で、二手に別れてレンタル倉庫を探すことにした。
これは、電車の中で、長尾と友人関係だった紗季が、長尾に゛れんた゛という彼氏がいたかもしれないと言っていたという情報、それと粟田の推理であるレンタル倉庫という単語が重なったためだった。
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