Rem-リム- 呪いと再生

雨木良

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第7節 解錠

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ー 村上宅 ー

8時50分

「ねぇ、あなた、私の白い鞄知らない?」

千里がクローゼットを漁りながら、リビングにいる正人に届く声で聞いた。正人は、ちゃんと聞き取れなかったが、呼ばれた気がして寝室にやって来た。

「なんか呼んだ?」

出勤用のチノパンを履き、シャツのボタンを留めながら顔を覗かせた。

「私の白い鞄知らない?確かいつもここに置いてあった記憶があるんだけど…。」

正人は考えた。そして、千里を生き返らせる際に、クローゼットの中を漁り、ひとつひとつを思い出とともに眺めていたことを思い出した。確か、千里が言っている白い鞄も見た気がした。

「あー、ごめん。千里に着せる物を探してた時に色々いじっちゃったんだよ。えーと、どこだっけな。……あ、あれかな?」

正人はクローゼット内をくまなく見回すと、上の棚の奥の方に、怪しい鞄を見つけた。確か以前、色々見ている際に、綺麗好きだった千里と同じように収納が出来ず、上手く収納出来なかったものを、無理矢理上の棚に押し込んだ記憶があった。

正人はジャンプをし、鞄を取ろうと試みたが指先が触れただけだった。もう一度ジャンプし、腕を伸ばすと上手く掴めたが、こちら側に少し引き寄せただけだった。

三回目のジャンプで、漸く鞄の紐を掴むことができ引き寄せることができたが、掴めたのが紐だったため、鞄が棚から落ちた際にひっくり返り、中身が全て床にばら撒かれてしまった。

「あちゃあ、ごめんごめん。」

正人は、化粧ポーチを拾いながら言った。すると、化粧ポーチのチャックも開いていたため、逆さに持ってしまった正人は、中身の化粧品も床にばら撒いてしまった。

「いいよ、大したもの入ってないはずだから。」

二人は落ちたものをクローゼットの両隅から拾い始めた。使いかけの化粧品やリップクリーム、ポケットティッシュや爪切りなど、当たり障りの無いものばかりだった。

「あれ?これ何の鍵だっけな。」

千里は落ちていた鍵を手に取り、首をかしげた。正人が鍵を受け取り見てみたが、何の鍵だかは分からなかった。小さめの鍵で、゛Y.N゛と掘られたプレートのキーホルダーが付いていた。

「Y.N?…や…ゆ…な…に…ぬ…。」

正人は、イニシャルだと思い、持ち主を推測し始めた。

「あ、分かった!由実のだ。ほら、Yumi.Nagumoだよ!…あんまり記憶にないんだけど、きっと由美が何かの時に忘れ物して、私が預かってるんじゃないかな。由実困ってなかったかな。」

正人は、南雲由実の名前にドキッとしてしまった。今の千里が、何をきっかけに由実の死を思い出してしまうか、全く想像がつかなかったからだ。

「と、特にパリに行く前には言ってた記憶ないから、大したものの鍵じゃないんじゃないかな。見た感じ、机の引出しの鍵とかかなぁ。俺の職場の鍵も似たような形だよ。」

正人は、とにかく由実の話を早く終わらせようと必死だった。

「…机の鍵………うーん、さっぱりだわ。まぁ、いいや、私直ぐに細かいもの無くしそうで怖いから、あなた持ってて。」

正人は、千里から鍵を受け取ると、後で玄関のキーホルダーに掛けておこうと考え、一度ポケットにしまった。

「ねぇ、今日少しだけ外に出てもいいかしら?近所の目には気をつけるわ。」

千里は、拝むような“お願い”のポーズで頼んだ。正人は、あまり好ましくないと考えたが、千里がお願い事なんて珍しいとも思った。

「どこに行くんだい?」

「…色々。今の鍵も含めて、私の記憶が生前のどこまでなのかが自分でもわからない。何かそれが凄く恐くて…。ちょっと街を出歩けば新しい発見もあるかなって。気晴らしよ。ダメかな?」

正人は、生前でも気晴らししたいなんて言ったことがなかった千里の今の心情を察した。

「…それで鞄探してたのか。……うん、行っておいで。気晴らしってことは、相当無理させちゃってるってことだし、そんなことを考えさせるために千里を生き返らせたわけじゃない。…近所の知り合いに会わないように気をつけてくれれば。……おっ、もうこんな時間か。じゃあ、そろそろ行ってくるよ。」

正人はそう言うと、猛スピードで残りの物を拾って鞄に入れた。

「ありがとう。あなたも気をつけてね。」

笑顔で見送る千里に、正人も微笑みで答えた。

ー 神奈川県警 署内 ー

9時40分

「池畑刑事!」

廊下を歩いていた池畑がその声に振り返ると、正人が手を振りながら駆け寄ってきた。

「村上さん。…その、畑さんの件聞きました。足立さんの件でも大変でしょうに…心身は大丈夫ですか?」

池畑が心配そうに聞いた。

「ご心配ありがとうございます。足立の件でも、色々ご迷惑をお掛けしまして。畑の件は、本当に突然で、何かまだよく理解できていない自分がいまして……。」

「言いたいことは理解できます。私も昨夜色々ありまして…。」

池畑は以前から感じていたが、本当に正人が自分と重なって見えることに改めて気づかされた。

「…それで、今日は?」

「あ、そうだ。秋吉さんっていらっしゃいますか?畑の解剖の時にいらした方なんですが。」

「秋吉は、まだ出社してません。午後から来ると伺ってまして。何か?」

池畑は、秋吉の名前を聞いて、何か正人に良からぬ事を吹き込んでるのでないかと疑念を抱いた。

「畑の解剖の時に、秋吉さんに聞かれたんです。畑は呪いに掛かったことはあるかって。私はあると答えましたが、その意図をまだ教えてもらえなかったもので…。」

池畑は、秋吉が言っていたように、畑も自分と同じ状況にあり、それが原因で亡くなったのかと考えると、また気持ちも落ちてしまった。

「…池畑さん、大丈夫ですか?顔色悪いですけど。」

表情に出てしまっていたのか、正人が心配そうに聞いた。

「…あ、いえ……流石に疲れが少し溜まってまして、ははは。」

池畑は、下手な演技でごまかした。正人はすぐに何か隠してるなと思ったが、何かを察し、追及はしなかった。

「お身体大事にしてくださいね、佐倉さんのためにも。じゃあこれで、午後にまた来ます。」

正人は一礼してさっき来た道を戻ろうとした際、職場に電話をしようとチノパンのポケットを漁った。ポケットの中には、スマホだけでなく、小さな何かに触れた感触があり、正人はハッとした。

「あ、しまった。鍵家に置いてくるの忘れたわ。」

正人のこの言葉に、執務室にゆっくり歩き出していた池畑は立ち止まり、正人に振り向いて質問した。

「何かあったんですか?」

「あ、たいした話じゃ。今朝、千里の鞄から南雲由実の鍵が出てきましてね。玄関に置いてくるつもりが、ポケットに入れっぱなしだったんですよ。」

池畑は、南雲由実の鍵という単語で、すぐに机の引出しのことを思い出し、正人の元に駆け寄った。

鍵を借りて見てみると、正に机の引出しの鍵のようだった。

「村上さん、この鍵お預かりできませんか?南雲由実さんの死の原因が分かるかもしれません。後で必ず返しますから。」

「え?……この鍵でですか?よくわかりませんが捜査の協力になるなら勿論どうぞ。」

正人は池畑に鍵を渡すと、一礼して立ち去った。
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