Rem-リム- 呪いと再生

雨木良

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最終節 最期

(7)

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ー 神奈川県警 署内 ー

17時30分

池畑は、気力を無くし、休憩室で缶コーヒーを片手にベンチに座っていた。

「溝口の馬鹿、命に別状は無いってよ。」

秋吉が、同じ缶コーヒーを二つ持って隣に座った。

「…なんだ、もう缶コーヒー持ってやがったのか。」

「…………。」

池畑は、微動だにせず、下を向いていた。

「ショックなのは分かる。だが、これが真実だ。お前らが知りたがってたな。」

「…………。」

秋吉は立ち上り、池畑の肩を叩くとゆっくりと休憩室の出入口に向かった。

「真実からは逃げないよ。」

池畑の言葉に、秋吉は足を止めて振り向いた。 うつ向いていた池畑は、顔を上げ、秋吉を見ていた。

「真実からは逃げない。受け入れるまでまだ時間かかるだろうが、絶対に逃げない。」

秋吉は、フッと鼻で笑うとまた出入口に振り向き、手を振り歩き出した。

10月30日

ー 神奈川県警側の公園 ー

11時05分

池畑は杉崎に呼ばれ、署の近くの公園に来て、噴水の前のベンチに二人で座っていた。

「大丈夫か?皆ツラい結末だが、中でも君はショックが人一倍大きいだろう。」

杉崎はそう言うと、池畑の顔を伺ったが、池畑は何も答えられなかった。杉崎は、池畑の心境を察し、軽く頷くと話を続けた。

「南雲由実の机から見つかった村上さんとの写真は全て加工されたものだった。複数人で撮った写真を二人の部分だけ切り抜いたとかな。…南雲由実が一方的に好いてたんだろうな。」

「…そうですか。」

池畑は口には出さなかったが、今の杉崎の言葉が真実なら、本当に残酷なことだと感じた。それは、全てが千里の勘違いによって始まったということになるからだ。ただ、千里の事件がなければ、正人と知り合うことはなく、つまりは佐倉を生き返らすことも出来なかったということになる。池畑の心境は、とても複雑なものだった。

杉崎は、うつ向いたまま考え込んでいる池畑の心境を、なんとなく理解出来ていた。ただ、それに対して掛ける言葉が見当たらず、事件の話を続けた。

「…瀬古も溝口も取り調べには素直に応じてるよ。二人は恋仲だったらしい。溝口は瀬古に別れ話を持ち掛けられ、証拠隠滅に加担したそうだ。」

池畑は当然、溝口と瀬古の関係など知らなかった。そんな自分が情けなくも感じていた。

「…馬鹿だな、そんな理由で。…でも、何で瀬古は、佐倉を直接呪いで殺さなかったんですかね?」

「それは、動機にも絡む話だが、瀬古は佐倉先生を恨んでいたわけじゃない。…恐怖だったんだ。佐倉先生は優秀すぎて、彼女がいる限りトップには成れない。それが動機だ。桐生の資料を直ぐに理解した人間だ、もしかしたら呪いの回避の方法を知ってるかも知れない。だから、直接呪いを掛けた府川先生を利用して、佐倉先生を絞殺し、床下に埋めた。それが殺害の全容のようだ。」

「工藤所長は?利害の一致てのは、やはり佐倉の研究成果の横取りですか?」

「それもあるが、工藤は今後、政界に進もうとしていた。スキャンダルはご免だったわけだ。」

そう言うと杉崎は、ベンチから立ち上がった。

「それとな、さっき群馬県警から連絡があって、呪いの紙を購入した残りの一人も確保したようだ。東京でな。…これで、呪いの件は全て丸く収まった。世の中から恐怖は消えたな。」

池畑もベンチから立ち上がり、噴水の方角にゆっくり歩き出した。そして、数歩歩くと、池畑は立ち止まった。前を歩いていた杉崎は、その様子に気が付き、後ろを振り返ると、頭を下げた池畑の姿があった。

「…すみませんでした。課長と秋吉さんは、組織に言いなりのあっち側の人間だと思ってました。」

「フッハハハ。間違っちゃないさ。だが、私も秋吉も君に目を覚まさせられたのかな。真実を追い求める、警察の本来の姿にな。」

池畑は頭を上げ、ふと噴水を見上げると、水しぶきの中に小さな虹を見つけた。

ー 横浜市内某所 ー

11時15分

ガチャ。

柳田が倉庫のドアから外に出てきた。

「まぁだ、この場所に未練が?」

柳田が声のした方に振り向くと、タバコを咥えた秋吉が立っていた。

「またあなたですか。よくわかりましたね、ここにいることが。」

「…フッ、以前お会いした時に、ちょっと発信機をね。」

「…本当に、警察らしからぬことをしますね。」

柳田は動じることなく、ニコリと微笑んだ。

「なぁに、ちょっと聞きたいことがあって。呪いを掛けられた人間が死から逃れられる方法あんだろ?教えてくれないか。」

「…………。」

柳田は、無言で首を傾げた。

「池畑、それから研究所の先生は、呪いを掛けられてから一年半以上生きている。実は俺も昨日、呪いの餌食になってな。簡単に言うと、俺が死にたくはないって話だ。」

柳田は秋吉の目的を理解し、再びニコリと微笑んだ。

「…それは大変です。…写真や画像はどうぞ大切に。」

柳田がそう答えると、秋吉は満足したように頷き、帰る方向に歩き出した。

秋吉は、数歩歩くと立ち止まり、ポケットに手を突っ込んだまま言った。

「結局、呪いに関わった人間は皆不幸に陥ったな。呪いを組み込んだリムに関わった人間も含めてだ。…池畑だけは、何とか幸せになってもらわないとな。」

柳田は、秋吉の言葉に対し、何も言わずに倉庫を眺めていた。秋吉は、フッと鼻で笑うと、また帰り方向に歩き出し、ポケットからスマホを取り出し、石井に電話を掛けた。

「…もしもし、俺だ。鑑識に伝えてくれ。溝口から没収したスマホの俺の画像、絶対に消すなとな。あと、瀬古の机から府川先生の写真が出てきたらそれも同じく大切に保管してくれと。…理由??後で教えるよ。」

秋吉はそう言うと、電話を切った。

「ふぅ、あとは警察内部の闇をどうするか……か。」

ー 北条出版前 ー

11時35分

「山本編集長!」

荒木が、出版社の入口で山本を見掛けて呼び止めた。もっとも、荒木は山本が通り掛かるのを見越して待ち伏せしていた。

荒木の声に、山本は足を止めた。

「おぅ、荒木くん。どうした?」

荒木はゆっくり山本に近づき、周りに聞こえない声で、話し始めた。

「俺、村上の嫁さんが生き返ったという話を聞いて、独自で昨日調べまくったんですよ。…リムについてね。」

荒木の言葉に、山本の目の色が変わった。

「…ほぅ。それで?」

「これ。」

荒木が一枚の写真を山本に渡した。

「それ、リムの開発チームの前身の研究グループのようですね。人間の再生をテーマにした。そこに編集長も写っている。」

荒木が若き日の編集長を指差しながら言った。

「それが?」

「…編集長、眞鍋って奴に村上の嫁さんが死んだこと、そして葬儀場所の情報、教えたんじゃないですか?サンプルとして利用するため。」

荒木は、山本の目をじっと見つめ、威圧を掛けた。

「……私はリムとは無縁だ。妄想だよ、君の。」

山本はそう言うと、写真を荒木に返し、建物へと入っていった。荒木には、自動ドアのガラスに写る山本が、ニヤリと不敵な笑みを浮かべているように見えた。

数日後。

千里の件で大ごとになり、隠しきることを断念した政府はリムの存在を公表し、更に開発の中止も同時に発表した。

そして、リムの公表から数日後に、佐倉は、自身の意志で唯一のリムの被験者の生き残りとして発表した。
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