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第4章 父親と黒色
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夏音、彰との待ち合わせ時間よりも30分も早く、駅の改札前にいた。愛弓とのやり取りで、住所は知っているため、どの路線の電車で来るかは、想像が付いていた。
夏音は、頭の中で、自分としては最新の彰の顔を思い浮かべていた。最新と言っても数年前のものであり、姿を見て直ぐに分かる自信がなく、気持ちがずっとソワソワしていた。
たが、待ち合わせの時間まではまだ20分以上あり、緊張する気持ちを一旦落ち着かせようと、コンコース内にあるコンビニに行くため、後ろを振り返った。
すると、目の前に見たことがある男性が立っており、急に夏音が振り向いたので、驚いた表情をしていた。
「…夏音…だよな?」
「…父さん?」
夏音は、彰の姿を見て一目では彰だと分からなかった。それは、夏音の記憶の中の彰よりも、かなり痩せ細っていたからだった。
「来てくれて嬉しいよ。ほんとに。」
驚く夏音に対し、彰は満面の笑みで言った。だが、夏音は思った。
(笑った顔は、やっぱり父さんだ…。)
「父さん、痩せたよね?体調悪いの?」
夏音が心配して聞いた。
「…あぁ、ちょっと病気しちまってな…。けど、夏音の顔見たら元気になったよ。…どっか店入るか。」
すると、夏音は頷き、時々行く駅中のカフェに彰を連れてきた。
二人席に向き合うように座り、店員が注文したコーヒーを持ってくるまで、夏音は下を向き、彰もまたそんな夏音を気遣ってか、中々会話が始まらなかった。
コーヒーが席に届くと、夏音がミルクを入れている間に、彰がブラックで一口飲んだ。
「…美味いな。ここのコーヒー。」
彰のこの一言で会話が始まった。夏音は、彰がコーヒー好きだと知っていたので、本格的で評判の高いこの喫茶店を選んだのだ。
さっきまで緊張なのか不安なのか、よく分からない感情で、ずっと下を向いたままだった夏音は、彰がここのコーヒーを気に入ったことで、笑顔を取り戻した。
「でしょ!ここのコーヒー美味しいって評判でさ。私も父さんの影響で、小学生の時からコーヒー飲んでるから、コーヒーに関しては舌が肥えててね。それで…。」
「プッ。ハハハハハ。」
急に熱弁を始めた夏音に、彰は思わず吹き出して笑ってしまった。夏音も、彰が笑ってくれたことが嬉しくて、クスクスと笑った。
「いやぁ、流石父さんの子だ…。…この店、父さんが出ていく前には無かったよなぁ。」
彰は店内をグルリと見回しながら言った。
「…そうだね。ここは昔、小さな本屋さんだったスペースだよ。…ふぅ、ところで父さん。大丈夫なの?体調。」
夏音は、コーヒーを一口飲んでから、本題に入った。彰は、少し沈黙してからゆっくりと答えた。
「そのことだが…父さん、もう先が短いかもしれなくてな。」
夏音は、急な展開に言葉が出なかった。イロカゲを見たが、嘘を表すネズミ色はしておらず、オレンジ色をしていた。
「…オレンジ色…。」
嬉しい気持ち、楽しい気持ちを表すオレンジ色。夏音は、懐かしさと彰の告白の内容の衝撃で、静かに涙した。
「か、夏音!?」
急に泣き出した娘に、彰は少し慌てた様子で、ハンカチを差し出した。
「…すまん。急に変な事言って。でも、お前には伝えておきたかった。」
「…短いって、あとどれくらいなの?」
彰は右手でピースサインをした。
「二年。…医者にはもって二年って言われてるよ。」
実際に年数を伝えられると、急に現実味が帯びた気がして、夏音は溢れる涙を押さえるために、ハンカチで目元を隠した。
「…ぐすっ、…そ、それで…母さんや…姉ちゃんは、…ぐすっ…知ってるの…?」
夏音は言葉に詰まりながら彰に聞いた。
「…いや。母さんにはお前から伝えておいてくれないか。俺は母さんとは会わない約束をしてるんだ。あと、愛弓には…中々言い出せなくてな。」
彰が茜と、そんな約束をしているとは知らなかった夏音は、頭の中に、長年の疑問が再び蘇ってきた。
「…ねぇ、今さらなんだけど…父さんと母さんが別れた理由…って何だったの?」
彰は、漸くこの質問が来たかと思った。彰は、コーヒーを一口飲んでから、話し始めた。
【小田原警察署】
同時刻。
「内藤。ちょっといいか?」
課長の籔田が、曽我と話をしている内藤を手招きで呼び、会議室に座らせた。内藤は、何で呼ばれた分からず、目を泳がせていた。
籔田は、扉を閉めると、内藤の正面に座り、話し始めた。
「ちょっと小耳に挟んだ話があってな。例の朝倉先生の件で。」
籔田の言葉に、内藤は手帳を取り出し、メモを取る体勢を取った。
「私の知り合いで、朝倉先生の同級生がいてね。昨日夜に電話があったんだが。まぁ、電話の用件は、事件の内容についてだったんだが、私から朝倉先生の素性について聞いてみたんだ。」
「ありがとうございます。」
「で、知り合いの話だと、朝倉先生は未婚だが、どうやら高校生の子どもがいるらしい。しかも、その子どもの名前だが…カンナと言うらしい。」
「え!?カンナって…由比環奈?」
内藤はメモを取るために握っていたボールペンを落とすほど、動揺していた。
「由比環奈かどうかは分からない。ただ、可能性はあると思ってな。…これ以上深く知りたいようなら、由比環奈の母親に聞くのが一番だな。」
内藤は、直ぐに立ち上がり、一礼をして会議室を飛び出そうとした。
「内藤!ちょっと!」
籔田の言葉で、内藤は扉を開いたまま振り返った。
「…無理はするなよ。結果的に自殺という結論は変わらないかもしれない。母親は遺族だからな、言動には気をつけろ。」
「はい。」
内藤は一礼して、執務室に走っていった。会議室の籔田には、走りながら大声で曽我を呼ぶ、内藤の声がこだましていた。
「…そういうとこなんだけどな。」
籔田はぼそりと呟き、溜息をついた。
夏音は、頭の中で、自分としては最新の彰の顔を思い浮かべていた。最新と言っても数年前のものであり、姿を見て直ぐに分かる自信がなく、気持ちがずっとソワソワしていた。
たが、待ち合わせの時間まではまだ20分以上あり、緊張する気持ちを一旦落ち着かせようと、コンコース内にあるコンビニに行くため、後ろを振り返った。
すると、目の前に見たことがある男性が立っており、急に夏音が振り向いたので、驚いた表情をしていた。
「…夏音…だよな?」
「…父さん?」
夏音は、彰の姿を見て一目では彰だと分からなかった。それは、夏音の記憶の中の彰よりも、かなり痩せ細っていたからだった。
「来てくれて嬉しいよ。ほんとに。」
驚く夏音に対し、彰は満面の笑みで言った。だが、夏音は思った。
(笑った顔は、やっぱり父さんだ…。)
「父さん、痩せたよね?体調悪いの?」
夏音が心配して聞いた。
「…あぁ、ちょっと病気しちまってな…。けど、夏音の顔見たら元気になったよ。…どっか店入るか。」
すると、夏音は頷き、時々行く駅中のカフェに彰を連れてきた。
二人席に向き合うように座り、店員が注文したコーヒーを持ってくるまで、夏音は下を向き、彰もまたそんな夏音を気遣ってか、中々会話が始まらなかった。
コーヒーが席に届くと、夏音がミルクを入れている間に、彰がブラックで一口飲んだ。
「…美味いな。ここのコーヒー。」
彰のこの一言で会話が始まった。夏音は、彰がコーヒー好きだと知っていたので、本格的で評判の高いこの喫茶店を選んだのだ。
さっきまで緊張なのか不安なのか、よく分からない感情で、ずっと下を向いたままだった夏音は、彰がここのコーヒーを気に入ったことで、笑顔を取り戻した。
「でしょ!ここのコーヒー美味しいって評判でさ。私も父さんの影響で、小学生の時からコーヒー飲んでるから、コーヒーに関しては舌が肥えててね。それで…。」
「プッ。ハハハハハ。」
急に熱弁を始めた夏音に、彰は思わず吹き出して笑ってしまった。夏音も、彰が笑ってくれたことが嬉しくて、クスクスと笑った。
「いやぁ、流石父さんの子だ…。…この店、父さんが出ていく前には無かったよなぁ。」
彰は店内をグルリと見回しながら言った。
「…そうだね。ここは昔、小さな本屋さんだったスペースだよ。…ふぅ、ところで父さん。大丈夫なの?体調。」
夏音は、コーヒーを一口飲んでから、本題に入った。彰は、少し沈黙してからゆっくりと答えた。
「そのことだが…父さん、もう先が短いかもしれなくてな。」
夏音は、急な展開に言葉が出なかった。イロカゲを見たが、嘘を表すネズミ色はしておらず、オレンジ色をしていた。
「…オレンジ色…。」
嬉しい気持ち、楽しい気持ちを表すオレンジ色。夏音は、懐かしさと彰の告白の内容の衝撃で、静かに涙した。
「か、夏音!?」
急に泣き出した娘に、彰は少し慌てた様子で、ハンカチを差し出した。
「…すまん。急に変な事言って。でも、お前には伝えておきたかった。」
「…短いって、あとどれくらいなの?」
彰は右手でピースサインをした。
「二年。…医者にはもって二年って言われてるよ。」
実際に年数を伝えられると、急に現実味が帯びた気がして、夏音は溢れる涙を押さえるために、ハンカチで目元を隠した。
「…ぐすっ、…そ、それで…母さんや…姉ちゃんは、…ぐすっ…知ってるの…?」
夏音は言葉に詰まりながら彰に聞いた。
「…いや。母さんにはお前から伝えておいてくれないか。俺は母さんとは会わない約束をしてるんだ。あと、愛弓には…中々言い出せなくてな。」
彰が茜と、そんな約束をしているとは知らなかった夏音は、頭の中に、長年の疑問が再び蘇ってきた。
「…ねぇ、今さらなんだけど…父さんと母さんが別れた理由…って何だったの?」
彰は、漸くこの質問が来たかと思った。彰は、コーヒーを一口飲んでから、話し始めた。
【小田原警察署】
同時刻。
「内藤。ちょっといいか?」
課長の籔田が、曽我と話をしている内藤を手招きで呼び、会議室に座らせた。内藤は、何で呼ばれた分からず、目を泳がせていた。
籔田は、扉を閉めると、内藤の正面に座り、話し始めた。
「ちょっと小耳に挟んだ話があってな。例の朝倉先生の件で。」
籔田の言葉に、内藤は手帳を取り出し、メモを取る体勢を取った。
「私の知り合いで、朝倉先生の同級生がいてね。昨日夜に電話があったんだが。まぁ、電話の用件は、事件の内容についてだったんだが、私から朝倉先生の素性について聞いてみたんだ。」
「ありがとうございます。」
「で、知り合いの話だと、朝倉先生は未婚だが、どうやら高校生の子どもがいるらしい。しかも、その子どもの名前だが…カンナと言うらしい。」
「え!?カンナって…由比環奈?」
内藤はメモを取るために握っていたボールペンを落とすほど、動揺していた。
「由比環奈かどうかは分からない。ただ、可能性はあると思ってな。…これ以上深く知りたいようなら、由比環奈の母親に聞くのが一番だな。」
内藤は、直ぐに立ち上がり、一礼をして会議室を飛び出そうとした。
「内藤!ちょっと!」
籔田の言葉で、内藤は扉を開いたまま振り返った。
「…無理はするなよ。結果的に自殺という結論は変わらないかもしれない。母親は遺族だからな、言動には気をつけろ。」
「はい。」
内藤は一礼して、執務室に走っていった。会議室の籔田には、走りながら大声で曽我を呼ぶ、内藤の声がこだましていた。
「…そういうとこなんだけどな。」
籔田はぼそりと呟き、溜息をついた。
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