colors -イロカゲ -

雨木良

文字の大きさ
31 / 55
第4章 父親と黒色

(4)

しおりを挟む
夏音、彰との待ち合わせ時間よりも30分も早く、駅の改札前にいた。愛弓とのやり取りで、住所は知っているため、どの路線の電車で来るかは、想像が付いていた。

夏音は、頭の中で、自分としては最新の彰の顔を思い浮かべていた。最新と言っても数年前のものであり、姿を見て直ぐに分かる自信がなく、気持ちがずっとソワソワしていた。

たが、待ち合わせの時間まではまだ20分以上あり、緊張する気持ちを一旦落ち着かせようと、コンコース内にあるコンビニに行くため、後ろを振り返った。

すると、目の前に見たことがある男性が立っており、急に夏音が振り向いたので、驚いた表情をしていた。

「…夏音…だよな?」

「…父さん?」

夏音は、彰の姿を見て一目では彰だと分からなかった。それは、夏音の記憶の中の彰よりも、かなり痩せ細っていたからだった。

「来てくれて嬉しいよ。ほんとに。」

驚く夏音に対し、彰は満面の笑みで言った。だが、夏音は思った。

(笑った顔は、やっぱり父さんだ…。)

「父さん、痩せたよね?体調悪いの?」

夏音が心配して聞いた。

「…あぁ、ちょっと病気しちまってな…。けど、夏音の顔見たら元気になったよ。…どっか店入るか。」

すると、夏音は頷き、時々行く駅中のカフェに彰を連れてきた。

二人席に向き合うように座り、店員が注文したコーヒーを持ってくるまで、夏音は下を向き、彰もまたそんな夏音を気遣ってか、中々会話が始まらなかった。

コーヒーが席に届くと、夏音がミルクを入れている間に、彰がブラックで一口飲んだ。

「…美味いな。ここのコーヒー。」

彰のこの一言で会話が始まった。夏音は、彰がコーヒー好きだと知っていたので、本格的で評判の高いこの喫茶店を選んだのだ。

さっきまで緊張なのか不安なのか、よく分からない感情で、ずっと下を向いたままだった夏音は、彰がここのコーヒーを気に入ったことで、笑顔を取り戻した。

「でしょ!ここのコーヒー美味しいって評判でさ。私も父さんの影響で、小学生の時からコーヒー飲んでるから、コーヒーに関しては舌が肥えててね。それで…。」

「プッ。ハハハハハ。」

急に熱弁を始めた夏音に、彰は思わず吹き出して笑ってしまった。夏音も、彰が笑ってくれたことが嬉しくて、クスクスと笑った。

「いやぁ、流石父さんの子だ…。…この店、父さんが出ていく前には無かったよなぁ。」

彰は店内をグルリと見回しながら言った。

「…そうだね。ここは昔、小さな本屋さんだったスペースだよ。…ふぅ、ところで父さん。大丈夫なの?体調。」

夏音は、コーヒーを一口飲んでから、本題に入った。彰は、少し沈黙してからゆっくりと答えた。

「そのことだが…父さん、もう先が短いかもしれなくてな。」

夏音は、急な展開に言葉が出なかった。イロカゲを見たが、嘘を表すネズミ色はしておらず、オレンジ色をしていた。

「…オレンジ色…。」

嬉しい気持ち、楽しい気持ちを表すオレンジ色。夏音は、懐かしさと彰の告白の内容の衝撃で、静かに涙した。

「か、夏音!?」

急に泣き出した娘に、彰は少し慌てた様子で、ハンカチを差し出した。

「…すまん。急に変な事言って。でも、お前には伝えておきたかった。」

「…短いって、あとどれくらいなの?」

彰は右手でピースサインをした。

「二年。…医者にはもって二年って言われてるよ。」

実際に年数を伝えられると、急に現実味が帯びた気がして、夏音は溢れる涙を押さえるために、ハンカチで目元を隠した。

「…ぐすっ、…そ、それで…母さんや…姉ちゃんは、…ぐすっ…知ってるの…?」

夏音は言葉に詰まりながら彰に聞いた。

「…いや。母さんにはお前から伝えておいてくれないか。俺は母さんとは会わない約束をしてるんだ。あと、愛弓には…中々言い出せなくてな。」

彰が茜と、そんな約束をしているとは知らなかった夏音は、頭の中に、長年の疑問が再び蘇ってきた。

「…ねぇ、今さらなんだけど…父さんと母さんが別れた理由…って何だったの?」

彰は、漸くこの質問が来たかと思った。彰は、コーヒーを一口飲んでから、話し始めた。

【小田原警察署】

同時刻。

「内藤。ちょっといいか?」

課長の籔田が、曽我と話をしている内藤を手招きで呼び、会議室に座らせた。内藤は、何で呼ばれた分からず、目を泳がせていた。

籔田は、扉を閉めると、内藤の正面に座り、話し始めた。

「ちょっと小耳に挟んだ話があってな。例の朝倉先生の件で。」

籔田の言葉に、内藤は手帳を取り出し、メモを取る体勢を取った。

「私の知り合いで、朝倉先生の同級生がいてね。昨日夜に電話があったんだが。まぁ、電話の用件は、事件の内容についてだったんだが、私から朝倉先生の素性について聞いてみたんだ。」

「ありがとうございます。」

「で、知り合いの話だと、朝倉先生は未婚だが、どうやら高校生の子どもがいるらしい。しかも、その子どもの名前だが…カンナと言うらしい。」

「え!?カンナって…由比環奈?」

内藤はメモを取るために握っていたボールペンを落とすほど、動揺していた。

「由比環奈かどうかは分からない。ただ、可能性はあると思ってな。…これ以上深く知りたいようなら、由比環奈の母親に聞くのが一番だな。」

内藤は、直ぐに立ち上がり、一礼をして会議室を飛び出そうとした。

「内藤!ちょっと!」

籔田の言葉で、内藤は扉を開いたまま振り返った。

「…無理はするなよ。結果的に自殺という結論は変わらないかもしれない。母親は遺族だからな、言動には気をつけろ。」

「はい。」

内藤は一礼して、執務室に走っていった。会議室の籔田には、走りながら大声で曽我を呼ぶ、内藤の声がこだましていた。

「…そういうとこなんだけどな。」

籔田はぼそりと呟き、溜息をついた。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 

設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀ 結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。 結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。 それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて しなかった。 呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。 それなのに、私と別れたくないなんて信じられない 世迷言を言ってくる夫。 だめだめ、信用できないからね~。 さようなら。 *******.✿..✿.******* ◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才   会社員 ◇ 日比野ひまり 32才 ◇ 石田唯    29才          滉星の同僚 ◇新堂冬也    25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社) 2025.4.11 完結 25649字 

処理中です...