colors -イロカゲ -

雨木良

文字の大きさ
33 / 55
第4章 父親と黒色

(6)

しおりを挟む
最初に彰のイロカゲを見た時は、感情を表す部分のオレンジ色が嬉しくて感情が高ぶってしまい、下半分の真っ黒なイロカゲを気に止めることがなかった。だが、改札から遠ざかっていく彰の後ろ姿のイロカゲは、まだイロカゲの操作が出来ない時期に、大型病院で救急搬送されてきた患者をたまたま見かけたり、同じく偶然、道端で倒れた人を見た時と、全く同じ印象だった。

そして、真っ黒なイロカゲをしていた人たちは、それから遠くない内に亡くなってしまったことも、夏音は知っていた。きっと、紫色になる一歩手前の色なんだろうと夏音は考えていた。

そのイロカゲが、自分の父親に現れたのだ。夏音は、この現実を受け止めたくはなかった。

夏音の視界から彰が消えるまでの間、彰は一切夏音には振り返らることはなかった。それは、彰の反省の表れだった。

「…一番言わなければならないことが、言えなかった。」

彰は、夏音には一切聞こえることのない呟きとともに、夏音の視界から消えていった。

夏音は涙を拭い、とりあえず家に帰るため、彰とは違う路線の改札へと向かった。

夏音の頭の中では、次は母親の茜のことが過っていた。

幸せだった四人家族を真っ二つにした原因は、茜にあったことを知った今、家に帰って、仕事から帰ってきた茜と普通に接することが出来るのか、自分で自分が不安だった。

しかし、茜は今日、自分が彰に会うことを知っているようだったし、彰から離婚の原因を聞いているんだと、端から思っているかもしれない。…勿論、そうじゃないかもしれない。

等々、結論が一切出ない無駄な悩みが脳内を駆け巡り、少し気晴らししてから帰ろうと、改札の前で方向転換し、駅の外へと歩き出した。

夏音は、宛てもなく、とりあえず目印に小田原城を目指して歩き始めた。夏音は、漸く涙は止まったが、真っ赤な目を人に見られたくはなく、ハンカチで顔を隠しながら歩いていた。

「…夏音ちゃん?」

対向者とすれ違い様に声を掛けられ、夏音はビクッとして恐る恐る振り向いた。

「やっぱり!何でハンカチで…あ、あれ?何かあったのか?」

「…小島先輩。」

小島は、夏音が泣いていることに気が付き、心配そうに聞いた。今、一番知り合いに会いたくなかった夏音は、自分の運の無さに落胆した。

「…大丈夫?」

小島がしつこく、顔を覗き込むように聞いてきた。

「だ、大丈夫です。ちょっと、目に…ゴミが…入って。」

安易な嘘で誤魔化そうとした夏音。そんな夏音を察し、小島はこれ以上、目の腫れについては聞かなかった。

「そ、そっか、そりゃ大変だぁ!」

小島の演技も大根だった。夏音は、思わず笑いそうになってしまったが、自分の為に演技してくれてると思い、表情には出さないように頑張った。

「…ところで、何してるの?」

小島の言葉に、夏音は一瞬詰まり、そう言う小島も何をしているのか推測するために、小島の足元から頭の先まで、格好を見て答えた。

「…ちょっと家族と会ってて、今から小田原城に行こう…かと。先輩は…これからお出掛けですか?」

家族と会ってて小田原城に、のくだりがよく理解出来ない小島だったが、会話を続けた。

「いや、今日は急遽学校休みになったもんだから、早朝のコンビニバイト行っててさ、今帰りなんだ。…家族は今から会うの?」

「…あ、いえ。もう会ってきて。なんか気持ち落ち着けたくなって、一人で散歩っていうか…。」

「つまりは、一人で、今は暇?」

グイグイ迫り来る小島に、夏音は呆気をとられながらも、首を縦に振った。すると、小島は満面の笑みで言った。

「俺も行っていい?小田原城!」

「ふぇ!?」

夏音はまた一瞬固まってしまったが、やはり小島の勢いに押され、首を縦に振った。

ここから小田原城への道中。10分間もない中で、また夏音にとって衝撃なことが起きることになる。

小田原城へと通じる広めの歩道を並んで歩き出した二人。平日ということもあり、通行人はそこまで多くは無かったが、夏音は知り合いに見られたら、良からぬ誤解を与えそうで、少し心配していた。

そんな夏音とは裏腹に、小島は嬉しそうな表情で言った。

「急にごめんね。邪魔だったかな?」

夏音は、確かに一人になりたかったのだが、先輩に対して真っ正直に、邪魔ですとは言えずに、首を横に振った。

「あ、それと昨日はありがとうね。急に呼び出しちゃった上、情けない話しちゃって。三嶽さんのお陰で、気持ちが少し落ち着いたよ。」

夏音は、小島の言葉で、片倉の妊娠の件を思い出したが、小島に聞けるわけもなく、もう一つ抱いていた疑問をぶつけた。

「…あの、昨日のって、何で私だったんですか?奏の方が良かったんじゃ…あ、いや、迷惑だったとかじゃなくて、奏の方が環奈とは仲が良かったんで…。」

「…………。」

さっきまで威勢の良かった小島が急に黙ってしまい、驚いた夏音は、小島の表情を伺った。

夏音の視線に気が付いた小島は、立ち止まり、夏音の顔を見つめた。

「ふぇ!?」

夏音は不思議そうな表情を浮かべ、小島に合わせて立ち止まった。二人は歩道の真ん中で立ち止まっていたため、通行人は左右に枝分かれして二人を避けて通っていた。

「…あの…どうしました?……先輩?」

小島は一瞬目を反らし、下を向くと、何かを決意したかのように、顔を上げ、再び夏音の目を見つめた。夏音は、さっきと違う小島の眼差しに、少しドキっとした。

「…それは…夏音ちゃん、君に来て欲しかった。…君に話を聞いて欲しかった……君の顔が見たかった。………好き…なんだ、君が。」

小島は、言葉を紡ぐうちに、遠回しな言い方じゃ伝わらないと思い、最後にストレートな言葉を伝えた。

「…………ふぇ!?」

夏音は、思いも寄らない展開に、顔を真っ赤にしてまた固まってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 

設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀ 結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。 結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。 それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて しなかった。 呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。 それなのに、私と別れたくないなんて信じられない 世迷言を言ってくる夫。 だめだめ、信用できないからね~。 さようなら。 *******.✿..✿.******* ◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才   会社員 ◇ 日比野ひまり 32才 ◇ 石田唯    29才          滉星の同僚 ◇新堂冬也    25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社) 2025.4.11 完結 25649字 

処理中です...