colors -イロカゲ -

雨木良

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第4章 父親と黒色

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ほどなくして、愛弓は向井と執務室にそっと戻り、自席に座ってパソコンを開いた。すると、それを見た早野が愛弓の席にそっと近づいて聞いた。

「長谷川さん。さっきの企画書、僕にも見せて。」

また怒られると思った愛弓は、早野の意外な言葉に、答えることなく、手に持っていた企画書を渡した。早野は、企画書を受け取り、そのまま立ちながらペラペラと中身を見始めた。 

早野は、まだ全てを見終わる前に企画書を閉じて言った。

「ふーん、なるほど。こりゃ編集長も怒るよ、内容が非現実的過ぎるもの。『人の寿命が見える女子高生』って、そもそも、このイニシャルで伏せてる主役の女子高生って誰なの?」

「…うとです。」

ぼそりと答えた愛弓。早野は、その言葉を聞き取れず、近づいてもう一度聞いた。

「…もうとです。」

「ん?誰?」

「い、妹です!私の。」

愛弓の答えに、早野は目を丸くした。

【由比家前】

同時刻。

「先輩、自分こういうの苦手なんで、先輩お願いします。」

曽我が頼み込むように言った。

「こういうのって、遺族に事情聞くってこと?そんなの私だって一緒よ。」

内藤がふくれ面で答えた。とりあえず、先輩として、由比家のインターホンを押した。

「…はい。どなた様ですか?」

力ない声で、恐らく母親だと思われる人物が出た。

「突然すみません。小田原警察署の内藤という者ですが、環奈さんの件でお話し伺えないかと思いまして。」

「…昨日既に別の方にお話ししてます。あれ以上の話はありませんし、今はそっとしといていただけますか?すみません。」

プツン。 

「あ、あの…。」

内藤が会話を続けようとするが、インターホンの反応はなかった。

「…先輩、失敗。」

曽我の余計な一言に、内藤が曽我に回し蹴りを喰らわせた。腰に強打を受けた曽我は、その場で倒れ込んだ。

「イッテェェ!ちょ、先輩酷いっすよ!」

「うっさいわ!」

内藤はそう言うと、曽我をその場に残して、車を停めている場所まで歩き出した。

曽我が慌てて起き上がり、腰を押さえながら内藤に追い付くと、内藤の顔色を伺いながら聞いた。

「…イタタタ。で、でも昨日聞き込みに来たのって誰ですかね?自分たちが担当の筈ですよ、この事件。」

「…聞き込みにきたのは、本当に警察かしら。」

「え?」

曽我が首を傾げた。

【小田原城址公園】

同時刻。

夏音と小島は、天守閣を堪能し、出口からゆっくり石段を下り始めていた。

「久々にゆっくり見たなぁ。歴史は全くわかんないけど。」

小島が笑いながら言った。夏音は、その顔を見て、幸せな気持ちになった。

(小島先輩って、こんな笑顔もするんだ。)

夏音はそう心の中で思うと同時に、無意識に小島のイロカゲを見ていた。小島のイロカゲは、オレンジ色をしていた。

「…あれ、夏音ちゃん。…泣いてるの?」

小島が心配そうに聞いてきた。夏音は、小島の言葉の意味がわからず、右手で瞳を拭ってみると、指に滴が光っていた。

「…あれ?何でだろ…。」

夏音は小島に言われるまで、自分が涙していることに気が付かなかった。

「…俺、なんかしちゃった…かな?」

小島も状況が呑み込めず、不安で泣きそうな表情になっていた。

「ち、違うんです。…その、嬉しくて。…先輩が家族みたいに思えて…。」

涙を拭いながら言った夏音の言葉。小島は、意味をしっかり理解したわけじゃないが、嬉しいという言葉の印象が強く、安堵した表情を浮かべた。余程の不安を抱いていたのか、緊張が解けた小島も、そっと涙を流した。

「おい、君たち。こんなところに立ち止まって話されちゃ困るよ。」

二人は男性の声がした方に振り向くと、天守閣から下りてくる人が数人列を作っていた。二人は、数十段ある石段の中腹で、立ち止まって涙していることに気が付いた。

「「す、すみません!」」

二人は慌てて、石段を駆け降りていった。声を掛けた男性は、振り向いた二人が涙を流していたことにびっくりし、石段の上で考え込んでしまっていた。

「そんなにキツく言ったかなぁ…。」 

急いで天守閣から離れた場所まで駆けた二人は、息を切らしながらゆっくり立ち止まった。

「ハァハァ、な、なんか今日はよく怒られるなぁ。」

「そうですね。ハァハァ…それによく走りますし!…ハァハァ。…プッ、ハハハハハハハ。」

濃密な出来事に終われる二日間の中で、緊張が解けたこの時間が、何だかとても楽しく思えて、夏音は心から笑ってしまった。

そんな夏音を、小島はじっと見つめていた。

「…夏音ちゃんが笑うと、俺も嬉しいよ。」

その小島の言葉に、夏音はドキッと胸の鼓動を覚えた。昔から大好きだった、幸せな家族を象徴するオレンジ色。小島にその色を感じれた夏音は、何とも表現できない感情だった。

初めての恋だった。

だが、夏音自身は、この感情の意味をしっかりとは理解出来ないでいた。

「…先輩。またしましょうか。…デート。」

夏音は、そっと右手を差し出した。小島は、予想外の展開に満面の笑みで頷き、夏音の右手を両手で握った。

夏の容赦ない日射しが、二人の汗に反射して、二人を眩しく輝かせていた。
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