colors -イロカゲ -

雨木良

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第4章 父親と黒色

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【横浜市内某出版社】

同時刻。

愛弓は、誰も居ない女子更衣室のベンチに座り、丸めてグシャグシャにした企画書を握り、項垂れていた。

「…思ってたのと違うなぁ。私、駄目かな…。」

ブーッ、ブーッ。 

ベンチの上に置いたスマホが着信を伝えた。愛弓は、面倒くさそうにスマホを手にとり、誰からかも気にせずに電話に出た。

「…もしもし、父さんだ。今大丈夫か?」

「珍しいじゃない、仕事中に。どうしたの?」

愛弓は、本当は今一人で時間を過ごしたいところだったが、やむ無く事情を聞いた。

「…何か元気ないな。大丈夫か?」

「……………私のことはいいからさ。何?」

愛弓は長めの沈黙の後、面倒くさそうに聞き直した。

「今日は、夜遅いか?お前に話したいことがあって。」

「…何よ改まって。午後気になって仕事にならないじゃん。今言ってよ。」

「…いや、お前の顔を見て、ちゃんと話したいんだ。待ってるからな。仕事中にすまなかった。」

プツン。 

彰は言いたい事を告げると、一方的に電話を切った。

「ちょっ!………もう!!」

愛弓は、仕事で悩んでる中、また余計に考え事が増えたことに苛立ちが限界となり、スマホを地面に思い切り投げ捨てた。 

一方、執務室では、早野が愛弓を探していた。

「係長、愛弓ならさっき廊下歩いてるの見ましたよ。」

早野の様子を気にして、向井が言った。

「そうか、ありがとう。」

早野はそう言って、執務室を出ていった。すると、調度廊下の奥の方にある女子更衣室から、愛弓が出てきたところだった。

「あ、いた。おーい!長谷川ぁ!」

早野は、まだ遠くに見える愛弓に向かって、手を振って呼び掛けた。愛弓は、直ぐに気が付き、早野の元に駆け寄った。

「探したぞ、長谷川。さっきの企画書の件だけどな…。」

「あ、あれはもういいんです。」

もう企画書のことを忘れたい愛弓は、早野の言葉を途中で遮った。すると、早野はニコリとした笑顔で、長谷川の両肩を掴んで話し出した。

「違うんだ!編集長が、長谷川の企画にゴーを出したんだよ!」

「…へ!?」

愛弓は、早野の言葉を直ぐに理解できずにいた。

「予定してた企画が一つオジャンになっちまったらしくてな。まぁ、穴埋めと言えば穴埋めだが、この企画が上手くいけば、編集長の中のお前の株が上がるぞ!」

愛弓は、サッと早野の手をすり抜け、執務室に向かって走り出した。早野は何事かと、愛弓を目で追った。

「お、おい!どうしたんだ、長谷川!?」

「だって、早くやらなきゃいけないじゃないですか!時間は待ってはくれないですから!」

愛弓は笑顔で振り返り、そう言って執務室に入っていった。

「ったく。…ま、頑張れよ、新人記者。」

早野は上司として、嬉しそうに呟いた。

【小田原駅】

同時刻。

「…じゃ、また!」

「はい。また、明日部活で。」

夏音は、小島を笑顔を見送り、小島は手を振りながら改札の中へと入っていった。

まだ昼間だが、小島がこの後、別のバイトが入っている都合で、デートはお開きになったのだ。

夏音は、小島が見えなくなるまで手を振り続け、小島もまた、時折振り返っては満面の笑みで手を振っていた。やがて、小島がホームへ下りる階段によって姿が見えなくなると、夏音はゆっくり手を下ろした。

何故だか、今まで経験したことがないような悲しい気持ちを覚えたが、夏音自身は、度重なるショックな出来事による心身の疲れだと考えた。

夏音は、小島といる間、無意識に我慢していたトイレへと駆け込み、用を済ませて、洗面台で手を洗いながら、何気なく鏡を見た。

彰の件で泣いていた夏音の目は、まだ少し赤かった。

その時、トイレにブツブツと何か文句を言いながら入ってきた、四十代の女性が入ってきた。驚いた夏音は、無意識にその女性のイロカゲを見て、怒りを表すイロカゲを確認すると、早くこの場を立ち去ろうと、洗面台から離れた瞬間に、これまた無意識に鏡に写る自分のイロカゲが見えた。

「…濃い…ピンク色…?」

夏音は、当然このイロカゲの意味を知っていた。その瞬間、夏音は顔を真っ赤にしてトイレから走って出ていった。

【久保寺宅前】

同時刻。

久保寺の自宅前では、奏が落ち着かない様子でウロウロしていた。神楽の事が心配で、様子を見に来た訳だが、どうにもインターホンを押す勇気がなく、メッセージアプリを送っても既読にならず、どうしたもんかと、奏は悩んでいた。

とりあえず、勇気を出してインターホンに指を伸ばした時、背後から声を掛けられた。

「小林さん?」

振り向くと、来が立っていた。

「え?佐藤くん。…どうしたの?」

奏は思いを寄せている来に会えた事を嬉しく思うと同時に、何で神楽の家に来たのかという不安も感じた。

対して、来は奏が来ている理由が自分と同じだろうと察していた。

「久保寺さんが心配だったから。…あと、確認したいことがあってさ。」

来はそう言うと、躊躇いもなく、インターホンを押した。
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