colors -イロカゲ -

雨木良

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最終章 先生と透明

(12)

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【小田原市立病院 佐藤病室】

同時刻。

「…良かった。本当に、目が覚めて。」

来の母親が、来の頬を撫でながら、微笑んだ。

「…心配かけてごめん。」

来も、ゆっくりとした口調で微笑んだ。

「今日様子を見て、大丈夫なようでしたら、明日には退院できますよ。」

医師が両親にそう言うと同時に、首から下げている携帯の着信音が鳴った。

「ちょっと失礼。…はい、私だ。…え?まさか!…わかった。」

医師が慌てた様子で電話をしていると、入口付近で立っていた内藤たち三人のうち、内藤と神谷のスマホが、ほぼ同時に鳴った。

「はい、内藤です。…え?…はい、わかりました。」
「はい、神谷です。…はい、病院です。…本当ですか、わかりました。」

二人は、ほぼ同時に電話を終えた。

「籔田課長からだった。」
「三橋係長からでした。」

二人はまた同時に報告し、神谷は、同じ案件だと察し、内藤に言葉を譲った。この間、医師は慌てた様子で病室を出ていった。

内藤は、一人着信がなくいじけている曽我に言った。

「小田原駅付近で大きな爆発。負傷者多数の情報だって!行くよ!」

内藤はそう言って、来の両親らに一礼し、病室を出ていった。

「ったく、何で俺じゃなくて神谷に電話がくるんだ!?」

「まぁまぁ、たまたまですって!」

神谷は曽我の手を引っ張り、病室を出ていった。

やり取りを聞いていた来の両親と片倉は、急いで病室の窓から小田原駅方面を眺めた。すると、もくもくと黒い煙が上がっているのが見えた。

【小田原駅前現場】

同時刻。

朝倉に付いていく様に、夏音も駅の外に出てみると、さっきまでとは全く違う景色に言葉を失った。

どうやら、ロータリー沿いにあるビルで爆発事故があったようだ。現場と思われるビル周辺は、割れた窓や、爆風で吹き飛んだ壁や木材などが散乱し、何人もの人が倒れ、血を流し、うめき声をあげているのが確認できた。中には、全く動かない人もおり、助けを求める声が何重にも響いていた。

ビルからは火の手が上がり、煙の量もみるみる増していた。

「危ないから下がって!!」
「そっちの人、下がって下がって!」

さっき交番で夏音を対応してくれた警官たちが、野次馬の整理に努めていた。

更に、夏音の視線の先には、警官に注意されながら写真を撮る森末の姿があった。

「夏音!」

夏音の背後から声がし、振り返ると愛弓がいた。

「良かった、無事で。…ガス爆発かな。」

夏音は何も答えず、メラメラと燃え続けるビルを見つめていた。

すると、夏音よりビルに近い場所にいる朝倉が振り返って夏音に言った。

「今こそイロカゲの出番だろ。負傷者の重症度を見ろ。あと、ビルの状態もな。生き物以外の寿命も見れるだろ?」

愛弓は、朝倉の存在を知らなかったが、朝倉の言葉に興味を湧かせた。

「生き物以外の寿命って…本当なの?夏音。」

愛弓の問いかけに夏音は頷いた。物に対しても、人間のイロカゲの下半身と同じように、命のイロカゲを見ることができる。例えば、壊れかけのテレビは、黒に近い紫色のイロカゲが見えるのだ。だが、理由はわからないが、生き物と生き物以外では、イロカゲを見る感覚が異なり、同時に見ることは出来なかった。なので、夏音は普段、生き物以外のイロカゲを見ることはあまりなかった。

ピーポー!ピーポー!
ウゥゥゥゥゥゥ!

幾重にも重なるように、けたたましいサイレンとともに、何台ものパトカーと救急車、消防車がどんどんとロータリー内に入ってきた。

すぐに規制が張られ、ビルのほぼ真下で撮影していた森末は、警官たちにつまみ出されるように、規制するテープより外に出された。森末は、そのまま夏音たちの所に舌打ちしながらやってきた。

「ビッグニュースだ、良い写真が撮れたぜ。…しかし、こりゃ大惨事だな。」

森末の言葉通り、規制するテープの内側には、数えきれない数の人が血を流して倒れていた。正に地獄絵図だった。

何十人もの警察官や救急隊員が怪我人の救助に当たり、これまた何十人もの消防士が火災の消火に当たり始めていた。

上空ではヘリコプターが飛んでいた。

「…マスコミか。早いな。」

森末が空を見ながら呟いた。

【横浜市内某出版社】

同時刻。

「速報です。小田原駅近くのビルで大規模な爆発があり、多数の死者、怪我人が出ている模様です。現場から中継です。」

「何!?小田原で爆発!?」

付けっぱなしのテレビから流れていたニュースを見て、編集長の小澤が大きな声で話すと、執務室内がざわつき、皆がテレビに釘付けになった。係長の早野と向井もテレビの前にいた。

「…こちら上空からの現場です。我々は別の取材で近くを飛行中、偶然現場に遭遇しました。まだ、他局の報道の姿は見えません。えー、現場ですが、ご覧の通り、もの凄い煙と炎が上がり、ビル付近には多くの人が倒れている様子が伺えます。えー、何人もの怪我人が…。」

「なぁ、小田原って…。」

「はい、愛弓が行ってます。お父さんの不幸で。」

早野と向井は、愛弓の安否を心配した。

【小田原駅前現場】

同時刻。

「夏音!早く来い!」

朝倉が、強い口調で夏音を手招きした。

「ちょっと、夏音。あの人何なの?」

愛弓は朝倉の態度が気に食わずに、夏音に聞いた。すると、夏音が答える前に愛弓が手に持っていたスマホに着信があり、愛弓は電話に出た。向井からの電話だった。

夏音は、愛弓が電話をしている間に、朝倉の元へと近づいた。

「よし。今救急隊員が怪我人の怪我の状態を見てる。命のイロカゲで、死にそうな人を教えるんだ。出来るな?」

朝倉の言葉に夏音は、力強く頷いた。目の前でこんなにも苦しむ人を見たのは初めての夏音は、恐怖する気持ちも勿論あったが、ここで何もしなければ、後で絶対後悔するという思いが勝り、決意した。

朝倉は、夏音の表情を見て微笑むと、視線を怪我人たちに戻した。

「行くぞ。」
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