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ハーレム【harem】とは。
ハレムとも呼ばれていて、一人の男性が複数の女性を侍らせる場所、またはその様。
昨今、ハーレム系小説やアニメ、漫画などの創作話は多々ある。逆ハーレムもしかり。
けれど私はそういった類の話はあまり好きではない。
一対一の純情がいい……などという理由ではなくて、ただ単純に自分の好きな人を他人と共有するという感情が理解できないから。好きな人が他の人と仲良くしている様を見るということが耐えられない私にはハーレム系の物語はことごとく無理だった。
だって、好きな人がいるのに他の女にデレデレする主人公の気持ちもわからないし、自分がいるのに他の女にデレデレする男を好きなハーレム要員の気持ちもわからない。
ハーレム系小説は私の地雷だった。
──いいえ、地雷です。今でも。
「というわけで、パーティーから抜けさせていただきます。さようなら」
生まれ変わったらハーレム要員の一人だった、ってなにそれ。需要ある?
特になんの説明もせず、ただ手紙を一つ置いて終わり。
ハーレムパーティーなんだから、一人くらい抜けたって構わないでしょう。ええ、構いません。私が断言します。
ハーレムで言ったら弱虫なロリ白魔法使い系だった私。ちなみに白魔法使いとは補助系魔法が得意な魔法使いのこと。このパーティーには強気勝気系色っぽお姉さんな攻撃系魔法使いの赤魔法使いがいるし、おっとりのほほん系おっぱいな聖女さんもいる。
あれ、私ってよくこのパーティー入れたね。
やっぱり第一条件、勇者が好きに合格できたからかな。チョロインばんざい?
私、ララ・ソルは前世を思い出した。
私の前世は物語が好きな平凡な女の子。ただし幼馴染が素でハーレム野郎だったこともあって、ハーレム系の物語はことごとく地雷だったという女の子だった。
ララ・ソルである現世の私は自分に自信のないちょっと弱虫な女の子。
真っ白な肌に真っ白な髪。真っ赤な赤い瞳を生まれ持った私は両親から忌み嫌われて、食事も満足にもらえなかったせいで身体があまり成長せず、また両親から蔑まれて育ったせいで私は自分に自信を失くして必要以上に謝ってばかりだった。
そんな私を初めて受け入れてくれたのが、ハーレム勇者ことローレンスだった。
ローレンス……ローランは勇者で、それから当然のようにパーティーは女だらけだった。ローランとその親友だという騎士であるリックだけが男性。
パーティーの人間は一番幼い見た目である私に優しかった。
でもその実、ローランを仲間内で取り合っていたことを知ってる。ローランはその誰も選んでいないようだったけど。
だからといって、ハーレムであるこの状態が許せるか許せないかでいうと、生理的に無理というのが私の答え。許す許さないじゃなくて、生理的に無理なのだから、どうしようもない。
たとえローランのことが好きだとしても、ハーレムを築いてるという時点で生理的嫌悪が来る。
前世を思い出したおかげか、自分にまるっきり自信がないわけではなくなった。
私の魔法使いとしての腕はとてもいいほうだと思う。
両親から隠れるために発動した私の魔力は補助魔法、その中でも結界魔法に特化している。今までは守るため、隠れるために使うことしか考えてなかったけど、結界はきっと戦いにも役に立つ。
一人でも生きていける。
どうせあのパーティーにいてもほとんど役立たずのまま終わっていただろう。それなら独り立ちしたほうが絶対にいい。
私の未来は明るい。
「どこに行くのかな、ララ」
──はずだ。
はてさて、どうしてここにローランがいるのだろう。
置き手紙を残して離れること数時間。私はローランたちが討伐のクエストを受けてる間に出てきた。もちろん討伐クエストをしている場所とは正反対の場所へと向かって。
時間的に見ても、今ここにローランがいるはずがないのだけど。
「ローランはどうしてここにいるの?」
「ララを探しに来たんだ」
「私を?」
黒いローブの下で首をかしげる。ハーレム要員が減るのは困るのか、それとも私の結界は役に立っていたのか。もしくは、純粋に私が心配で。
ハーレム勇者であるローランならあり得そうな気もするけど、迷惑な話だと思う。
私はもうハーレム要員でいたくないのだから。
「ええ、と。ごめんね。私、もう独り立ちしようと思うの。ローランには今までお世話になったけど、そろそろ潮時かなって」
「それで、一人でどうやって? ララは幼いんだから、一人で行くのは危険じゃない?」
じりじりと近づいてくるローランになんだか冷や汗をかきながら少しずつ後退する。
なるほど、ローランは私が幼いと思っているから、心配なんだ。なら、その勘違いを正さないと。
「私、こんな身なりだけど成人してるから平気だよ。心配しないで」
「成人してることは知ってるよ」
「……は?」
思わず呆けた声が出てしまった。今まで誰も私が成人してることは知らないと思っていたのだけど。
だって、成人してる女の子にお菓子あげたり、頭ナデナデしたり、高い高いしたりしないでしょ、普通。私自身、成人してると知られてないと思っていたから、あんなことされてもおとなしくしていた。
「ララを連れ出す前にね、ララの両親と話したんだ。そしたら行き遅れの娘なんてどうにでもしてくれ、って言ってたよ」
「そう、なんだ……」
確かにこの世界では十五が成人で、私の村では女子の婚姻は十七までにされるのが普通。今年十八の私は行き遅れだった。そもそもあの村でアルビノという性質を持った異端な私が結婚できるか否かでいうと否だろう。
でも、だからといって見知らぬ人に私が成人済みであることを言うなんて。私の身が危険になるとは思わなかったのだろうか。
いや、おそらくあの人たちは私の身に危険が迫ってもどうでもよかったのだろう。両親にとって私は重い荷物でしかなかったのだから。
「それなら、わかってるでしょう? 一人でも平気だよ」
「ああ、ごめん。ララにははっきり言わなきゃわかんないよね」
なんのことだろう。そう思って顔を上げて、驚いた。
まだ遠くにいたはずのローランが目と鼻の先にいた。比喩とかじゃなくて、そのままの意味で。驚いて身体を引こうとすると、ローランに腕を取られて、抱き締められる。
なに、なんなの、これ。
「っ、やだ、やめて……っ!」
「好きだよ、ララ。ずっと俺と一緒にいて」
最初、わきあがったのは歓喜。けれどすぐに嫌悪が私の身体を這いずりまわった。
「きもちわるいっ!」
「──へぇ」
今まで誰も選ばなかったくせに、突然私を好きだなんて。気持ち悪い以外なにものでもない。
そう思ってローランの腕の中から抜けようともがくと、パチンと音がして首が窮屈になった。
「な、に……」
「残念。ララは俺のこと好きでいてくれてると思ったのに」
「なにこれ……なに、したのっ!」
首が窮屈になったのと同時にローランの腕が私を解放する。木に寄りかかりながら、ローランを睨みつけた。
私がローランのことが好きなのは間違いではない。でも、それはただのローランが好きなだけ。女侍らせてニヤニヤしてる男なんてごめんなのである。
逃げ出すために結界を張ろうと魔力を練る。そこで、違和感に気づいた。
おかしい、おかしい。なんなの、これ。魔力が上手く練れない。練ったそばから、魔力が霧散していく気がする。
「好き、って言ったのは嘘だよ、ララ」
「っ!」
「本当はね、愛してるんだ」
ずきりと胸が痛んだのは一瞬。続いた言葉にハッと目を見開いてローランを見つめる。
「ララのこと世界で一番愛してる。一目見たときからララのことぐちゃぐちゃに犯したくて、俺のことだけを見るようにしてやりたくて、ララと出逢ってからずっとララのことしか考えられない。魔王なんてどうでもいい。勇者なんてものがララを独り占めにできない枷になるなら、そんな称号は捨ててもいい。ララ、ララ、ララ。ずっと、俺と一緒にいてくれるよね?」
逃げなくちゃ。
とっさに出たのはそんなこと。ローランは頭がおかしい。穏やかに微笑んでいるようで、その目は獰猛な野生の獣と一緒。
どうして今まで一緒にいたのに、私はローランの異常さに気付かなかったんだろう。どうして誰もローランの異端さを指摘しなかったのだろう。
わからない。そんなのわからないけど、今は逃げなくちゃ。
ローランとギリギリまで目を逸らさず、じりじりと後退して、バッと脱兎のごとく走り始める。どこに逃げれば良いとか、どこに隠れればいいとかわからない。ただ逃げなくちゃいけない、その直感を信じて走り始める。
「ララ、逃げるの? そんなの無駄なのに。ああ、でもウサギみたいに野を駆け回るララを追いかけるのは楽しそうだ」
あははははははは! 十数えたら捕まえに行くよ!
背後からローランの楽しそうな笑い声が聞こえた。
ハレムとも呼ばれていて、一人の男性が複数の女性を侍らせる場所、またはその様。
昨今、ハーレム系小説やアニメ、漫画などの創作話は多々ある。逆ハーレムもしかり。
けれど私はそういった類の話はあまり好きではない。
一対一の純情がいい……などという理由ではなくて、ただ単純に自分の好きな人を他人と共有するという感情が理解できないから。好きな人が他の人と仲良くしている様を見るということが耐えられない私にはハーレム系の物語はことごとく無理だった。
だって、好きな人がいるのに他の女にデレデレする主人公の気持ちもわからないし、自分がいるのに他の女にデレデレする男を好きなハーレム要員の気持ちもわからない。
ハーレム系小説は私の地雷だった。
──いいえ、地雷です。今でも。
「というわけで、パーティーから抜けさせていただきます。さようなら」
生まれ変わったらハーレム要員の一人だった、ってなにそれ。需要ある?
特になんの説明もせず、ただ手紙を一つ置いて終わり。
ハーレムパーティーなんだから、一人くらい抜けたって構わないでしょう。ええ、構いません。私が断言します。
ハーレムで言ったら弱虫なロリ白魔法使い系だった私。ちなみに白魔法使いとは補助系魔法が得意な魔法使いのこと。このパーティーには強気勝気系色っぽお姉さんな攻撃系魔法使いの赤魔法使いがいるし、おっとりのほほん系おっぱいな聖女さんもいる。
あれ、私ってよくこのパーティー入れたね。
やっぱり第一条件、勇者が好きに合格できたからかな。チョロインばんざい?
私、ララ・ソルは前世を思い出した。
私の前世は物語が好きな平凡な女の子。ただし幼馴染が素でハーレム野郎だったこともあって、ハーレム系の物語はことごとく地雷だったという女の子だった。
ララ・ソルである現世の私は自分に自信のないちょっと弱虫な女の子。
真っ白な肌に真っ白な髪。真っ赤な赤い瞳を生まれ持った私は両親から忌み嫌われて、食事も満足にもらえなかったせいで身体があまり成長せず、また両親から蔑まれて育ったせいで私は自分に自信を失くして必要以上に謝ってばかりだった。
そんな私を初めて受け入れてくれたのが、ハーレム勇者ことローレンスだった。
ローレンス……ローランは勇者で、それから当然のようにパーティーは女だらけだった。ローランとその親友だという騎士であるリックだけが男性。
パーティーの人間は一番幼い見た目である私に優しかった。
でもその実、ローランを仲間内で取り合っていたことを知ってる。ローランはその誰も選んでいないようだったけど。
だからといって、ハーレムであるこの状態が許せるか許せないかでいうと、生理的に無理というのが私の答え。許す許さないじゃなくて、生理的に無理なのだから、どうしようもない。
たとえローランのことが好きだとしても、ハーレムを築いてるという時点で生理的嫌悪が来る。
前世を思い出したおかげか、自分にまるっきり自信がないわけではなくなった。
私の魔法使いとしての腕はとてもいいほうだと思う。
両親から隠れるために発動した私の魔力は補助魔法、その中でも結界魔法に特化している。今までは守るため、隠れるために使うことしか考えてなかったけど、結界はきっと戦いにも役に立つ。
一人でも生きていける。
どうせあのパーティーにいてもほとんど役立たずのまま終わっていただろう。それなら独り立ちしたほうが絶対にいい。
私の未来は明るい。
「どこに行くのかな、ララ」
──はずだ。
はてさて、どうしてここにローランがいるのだろう。
置き手紙を残して離れること数時間。私はローランたちが討伐のクエストを受けてる間に出てきた。もちろん討伐クエストをしている場所とは正反対の場所へと向かって。
時間的に見ても、今ここにローランがいるはずがないのだけど。
「ローランはどうしてここにいるの?」
「ララを探しに来たんだ」
「私を?」
黒いローブの下で首をかしげる。ハーレム要員が減るのは困るのか、それとも私の結界は役に立っていたのか。もしくは、純粋に私が心配で。
ハーレム勇者であるローランならあり得そうな気もするけど、迷惑な話だと思う。
私はもうハーレム要員でいたくないのだから。
「ええ、と。ごめんね。私、もう独り立ちしようと思うの。ローランには今までお世話になったけど、そろそろ潮時かなって」
「それで、一人でどうやって? ララは幼いんだから、一人で行くのは危険じゃない?」
じりじりと近づいてくるローランになんだか冷や汗をかきながら少しずつ後退する。
なるほど、ローランは私が幼いと思っているから、心配なんだ。なら、その勘違いを正さないと。
「私、こんな身なりだけど成人してるから平気だよ。心配しないで」
「成人してることは知ってるよ」
「……は?」
思わず呆けた声が出てしまった。今まで誰も私が成人してることは知らないと思っていたのだけど。
だって、成人してる女の子にお菓子あげたり、頭ナデナデしたり、高い高いしたりしないでしょ、普通。私自身、成人してると知られてないと思っていたから、あんなことされてもおとなしくしていた。
「ララを連れ出す前にね、ララの両親と話したんだ。そしたら行き遅れの娘なんてどうにでもしてくれ、って言ってたよ」
「そう、なんだ……」
確かにこの世界では十五が成人で、私の村では女子の婚姻は十七までにされるのが普通。今年十八の私は行き遅れだった。そもそもあの村でアルビノという性質を持った異端な私が結婚できるか否かでいうと否だろう。
でも、だからといって見知らぬ人に私が成人済みであることを言うなんて。私の身が危険になるとは思わなかったのだろうか。
いや、おそらくあの人たちは私の身に危険が迫ってもどうでもよかったのだろう。両親にとって私は重い荷物でしかなかったのだから。
「それなら、わかってるでしょう? 一人でも平気だよ」
「ああ、ごめん。ララにははっきり言わなきゃわかんないよね」
なんのことだろう。そう思って顔を上げて、驚いた。
まだ遠くにいたはずのローランが目と鼻の先にいた。比喩とかじゃなくて、そのままの意味で。驚いて身体を引こうとすると、ローランに腕を取られて、抱き締められる。
なに、なんなの、これ。
「っ、やだ、やめて……っ!」
「好きだよ、ララ。ずっと俺と一緒にいて」
最初、わきあがったのは歓喜。けれどすぐに嫌悪が私の身体を這いずりまわった。
「きもちわるいっ!」
「──へぇ」
今まで誰も選ばなかったくせに、突然私を好きだなんて。気持ち悪い以外なにものでもない。
そう思ってローランの腕の中から抜けようともがくと、パチンと音がして首が窮屈になった。
「な、に……」
「残念。ララは俺のこと好きでいてくれてると思ったのに」
「なにこれ……なに、したのっ!」
首が窮屈になったのと同時にローランの腕が私を解放する。木に寄りかかりながら、ローランを睨みつけた。
私がローランのことが好きなのは間違いではない。でも、それはただのローランが好きなだけ。女侍らせてニヤニヤしてる男なんてごめんなのである。
逃げ出すために結界を張ろうと魔力を練る。そこで、違和感に気づいた。
おかしい、おかしい。なんなの、これ。魔力が上手く練れない。練ったそばから、魔力が霧散していく気がする。
「好き、って言ったのは嘘だよ、ララ」
「っ!」
「本当はね、愛してるんだ」
ずきりと胸が痛んだのは一瞬。続いた言葉にハッと目を見開いてローランを見つめる。
「ララのこと世界で一番愛してる。一目見たときからララのことぐちゃぐちゃに犯したくて、俺のことだけを見るようにしてやりたくて、ララと出逢ってからずっとララのことしか考えられない。魔王なんてどうでもいい。勇者なんてものがララを独り占めにできない枷になるなら、そんな称号は捨ててもいい。ララ、ララ、ララ。ずっと、俺と一緒にいてくれるよね?」
逃げなくちゃ。
とっさに出たのはそんなこと。ローランは頭がおかしい。穏やかに微笑んでいるようで、その目は獰猛な野生の獣と一緒。
どうして今まで一緒にいたのに、私はローランの異常さに気付かなかったんだろう。どうして誰もローランの異端さを指摘しなかったのだろう。
わからない。そんなのわからないけど、今は逃げなくちゃ。
ローランとギリギリまで目を逸らさず、じりじりと後退して、バッと脱兎のごとく走り始める。どこに逃げれば良いとか、どこに隠れればいいとかわからない。ただ逃げなくちゃいけない、その直感を信じて走り始める。
「ララ、逃げるの? そんなの無駄なのに。ああ、でもウサギみたいに野を駆け回るララを追いかけるのは楽しそうだ」
あははははははは! 十数えたら捕まえに行くよ!
背後からローランの楽しそうな笑い声が聞こえた。
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