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 ララとの旅は楽しかった。外の世界を知らなかったララはなにをするにも見るにも目をキラキラと輝かせて、前世の彼女とは違って自分に自身がなくて弱々しいし、少し幼い感じがしたけど、俺はそんなララを知れば知るほど好きになっていった。
 俺のパーティーたちも最初はララの色彩に驚いていたけど、比較的すんなり受け入れた。
 たぶんそれはララの容姿が色彩と相まって神秘的で人形のように愛らしかったからと、ララが実年齢よりもだいぶ幼く見えたから。
 貴族の世界では容姿というものは大切で、美しければ美しいほど人が群がる。ララの場合は珍しい色彩だし、それが似合っていたから余計だろう。
 ララの年齢は十八だった。それを知ったのは旅立つ前。ララの両親だという人間が浅ましくも「ララは幼く見えるも十八の処女だから、充分楽しめると思います」と言ってきた。ララを連れて行こうとすると渋る両親に金を渡したせいだろう。
 その情報が嬉しくないわけではなかったが、ララを奴隷扱いする人間たちに殺意が湧いた。殺してやりたいとも思った。
 けど、なにもしなくともあの村は勝手に滅ぶ。
 あの村に魔物が滅多に来なかった訳がわかった。
 ララだ。ララの結界魔法のおかげ。そのおかげで村は守られていた。
 それがなくなってしまえばどうなるか、火を見るよりも明らかだろ?

 ララとの道中は本当に楽しかった。
 魔王を倒したら、きっと二人きりで暮らそう。今度はララを殺させない。
 誰にもララは奪わせない。

 俺の、ララ。

 けど、俺は自分の執着を見せるわけにはいかなかった。
 リックは俺を監視している。まだなんの準備もしてない状況で、俺が特別な女を作ったらどうなるかわからない。それも相手は平民。
 ましてや俺には婚約者がいる。まだ隣国との協定は結ばれておらず、婚約破棄をするにも難しい状況らしい。
 早く自由になってララと一緒になりたかった。
 幸いララは村から連れ出した俺に恩を感じているのか、俺には特に懐いてくれている。それがララの恋へと変わるまではすぐだった。
 俺を色っぽい目で見るララを何度抱き締めたくなったか。何度口付けたくなったか。


 前日から体調を崩したララを宿に置いて、冒険者ギルドの討伐クエストに出かけた。
 ここ最近のララは元気がなく、昨日なんて突然倒れてそのまま寝込んでしまうので心配で心配で仕方がなかった。

「今日は気合入ってんね、ローラン」
「ああ。ララが心配だ」
「あのちびっ子ねー。まるで兄貴みたいだな」

 ケラケラと笑うリックに否定せずに最後の魔物を断ち切る。
 兄貴? ララの兄だなんて冗談じゃない。俺は近親相姦になってもいいとはいえ、そうなれば常識的なララはきっと俺を否定する。そうなったら心中してしまいそうだ。
 それに俺はララを性的な目で見てる。
 そんなやつが兄貴だなんて、少し、笑える。

「まさか幼女趣味なんて……ないよな?」
「はは、俺はちゃんと成人女性が好きだよ」
「だよなぁ」
「ま、好きな女がロリになっても受け入れられるけど」
「ろり? なんだそれ」

 ララが本当に幼女だったらロリコンになるのだろうけど。
 そう思いながら言ってしまった言葉にリックが首をかしげる。ああ、ロリなんて言葉はこの世界にはないんだった。しまったな、と思いつつ適当に「ロバになっても、って言いたかったんだよ」と言い訳する。我ながらロバってなんだよ、と思ったけどリックはすんなり受け入れてくれた。こういう扱いやすいところがリックのいいところだと思う。

「ローラン様、わたくしたちは少し買い物をしてから帰ろうと思いますの。勇者様もいかがです? ぜひわたくしに似合うドレスを選んでほしいの」
「ちょっと! ぬけがけとかやめてよね!」
「ドレスなんかよりローラン、武器を見に行かないかい? そろそろ新しいのが欲しいんだ」

 勝手にしろよ。
 群がる女たちにその気持ちを一切悟られないように強引に笑みを作る。

「体調崩したララが心配だから先に戻るよ。ララの体調を見たら、そっちと合流する」

 最後にリックに「美しい花が咲いてれば虫が群がるかもしれないから護衛よろしくな」と声をかけて、あいつらと別れる。
 これくらいのリップサービスぐらいしとかないと、俺についてくるかもしれない。それでなくとも最近は暗い雰囲気のララと二人きりになれなかったんだから、今日は二人きりになりたい。
 自然と宿へと向かう足が速くなる。
 ララが心配だ。きっと慣れない旅に疲れが溜まっていたのだろう。それにララは人に囲まれて過ごすのは物心ついてから始めてだと言っていた。それも気疲れの原因だったのかもしれない。
 俺と二人きりの旅ならそんなこともなかったのに。

「ララ、ただい……」

 宿の部屋の鍵を開けて、すぐに違和感を感じた。人の気配が全くしない。
 ララが寝ているはずのベッドへと視線を向ける。

『パーティーから抜けさせていただきます。お世話になりました。さようなら』

 そんな手紙をテーブルの上に見つけた。
 ああ、文字が書けるようになったんだな。聖女に教わってたもんな。そんなどうでもいいことを思いながら、手の中にある手紙をぐしゃりと潰す。

 よく俺から逃げれると思ったなぁ。
 宿から出て、今までいた方角とは正反対の方角へと歩き出す。

 前世の俺とは違うところはたくさんある。俺は前世の俺ほど優しくない。そしてまともじゃない。それは一度彼女を失った代償か、それとも魔物の血を浴び続けた狂気なのか。
 前世の俺は悪くいえば日和見だった。いつかは彼女は俺といてくれるから、と彼女が男といてもそれを邪魔するだけで彼女になにかしようなんて思わなかっただろう。
 俺は違う。
 ララが他の男を選ぼうとするなら、その男はこの世から消す。ララは閉じ込めて、俺以外を見せないようにする。そうして俺だけに依存すればいい。
 ララに害を与えても、俺はララを手に入れる。

「どこに行くのかな、ララ」

 優しい言葉を出したつもりだ。ララの気持ちを変えるために。
 それでもララの意志は変わらなくて、それどころか俺から逃げたから俺も意志を固めることにした。

 俺を許さなくてもいいよ、ララ。
 ただ俺に依存して、俺だけを認識して、狂ったように笑っていてもいい。

 俺はどんなララも愛してるから。
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