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山下鷹花③
しおりを挟むがらり。
襖を開けた。今度は何もいわずに。
部屋には、窓の外の夜空を見つめる少年の背中があった。
「…坊っちゃん。先程は申し訳ございませんでした。貴方にお怪我をおわせた上、大変驚かせてしまい…。」
「…俺はただのかすり傷だ。
それにお前のせいじゃないだろ。」
鷹花は額を冷たい木の床にあてふせた。
「いいえ。全て私の責任です。
なぜなら私は厄災者だからです。
親に捨てられ、人を呆れさせ、迷惑をかける、災いをもってくる人間なのです。
生まれた時からそういう運命だったのです。
それに、あろうことか坊っちゃんを巻き込んでしまいました。私が全て悪いのです。どうかお心を痛めないでください。」
床板を見て、返事を待った。
「……聞こえないな。」
その言葉が耳に入るなり、鷹花は落胆した。精一杯の謝罪だった。
『慈悲をくれ』と言っているように聞こえただろうか。そのつもりはなかった。なぜなら坊っちゃんに最後にこう話した後、自分はこの屋敷からは消えると心に決めていたからだ。
「俺にはそんな人間いるとは思わないし、
少なくとも俺はお前がそうだと思わない。」
鷹花が顔を上げると、
少年は此方を向き、鷹花をじっと見ていた。
12歳とは思えない程しっかりとした言葉だった。
「明日、勉強の合間の菓子は
黒蜜がいいと七屋に伝えてくれ。」
「…え?」
「そしてお前がもってこい。3時丁度だ。遅れたらまた逃げ出すからな。返事は?」
「は、はい。」
「もう、下がっていい。」
鷹花は襖をしめると月明かりに照らされる廊下を歩いて自室に戻った。
戻ってしまった。
ーーーーー
「黒蜜…」
誰もいない薄暗い部屋でそう呟いた。
坊っちゃんは、鷹花が去ろうとしているのを見透かしたのだろうか。鷹花には分からなかった。ただ余りにも一日に多くの事が有りすぎて、白く柔らかい布団に横になると、そのまま泥のように眠ってしまった。
薄暗い部屋に、窓から月明かりが静かに差し込んで、小さく寝息をたてる鷹花を照らしていた。
ーーーーー
次の日、坊っちゃんは朝から黙々と机に向かい、勉強をしていた。
それを見た夫婦は鷹華に「お給金2倍にするわ!」と感謝し、
屋敷の使用人達は「熱があるのでは?」と困惑していた。
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