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春の予感
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「そうだね。じゃないと未来の恋人に愛想つかれちゃうかもしれないしね」
「は?」
不満を隠さない環に、相変わらずの笑みを浮かべた蒲田がそう言ってのける。火に油を注ぐとはこのことだと肝を冷やした。しかし、丁度いい。俺を通して環と親密になりたいという柳田の希望を叶えるのに絶好の機会。そこに舞い込んだ恋愛の話。上手く繋げることができれば、これまで話題に上がったこともない、環の好みを引き出すこともできるはずだ。
「そういう話聞かないよな、お前」
細めた目を蒲田へ向け、今にでも噛みつきそうな環の視界を遮るように、今度は俺が首を傾げた。こてん、と俺と同じ方向へ首を傾けなおした環が、肩に回していた手を俺の頬に添え、そのままむぎゅりと押しつぶす。
「そんなんあざみも一緒でしょー」
ふにふにと、自分の言葉に合わせて頬を潰す環に、今度は俺が不満を露にした。気を抜けばすぐこれだ、と内心で悪態をつく。俺の顔をスクイーズだとでも思っているか、とも。どうしても手が寂しいのであれば、中学に上がる少し前、お決まりの気まぐれにより揃いで買った本物のスクイーズがあるのだからそっちで勘弁してほしい。捨てたというのであれば、俺のおさがりを喜んでくれてやる。今となっては手垢で汚れ、柔らかな表面には無数のシワが寄っているが、男子高校生の頬よりは触り心地がいいことは確かだろう。
止まらない愚痴をぐっと飲み込み、頬を押す指を1つずつ外した。
「で、好きな人とかいないの? 好きなタイプ、でも、いいけど……」
意気揚々と問いかけたはいいが、羞恥心で尻すぼむ。
小学生の頃から共に過ごし、全てを共有してきたと言っても過言ではないが、その中に恋愛に関するものはなかった。隠していたわけではなく、俺自身にそういったイベントが訪れなかっただけで、その時がきたら話すだろうと考えていた。考えてはいたが、俺自身に訪れたというよりも、強制的に引きずり出された様な今の状況では覚悟が決まり切っておらず、真っすぐと俺を見つめる環の垂れた目から視線を逸らし右へ左へと瞳を揺らした。
先日の花の一件もあり、好きな人でもできたのか、とか。彼女が欲しいのか、とか。そういった見当違いの勘ぐりを環に入れられることに対する含羞や、いい流れだというのは自分の勘違いで不自然な流れに違和感を覚えられることに対する憂苦で俺の揺れる視線は段々と下っていく。それに同調するかの如く顔には熱が集まり、やがて暑さを言い訳にできない程まで赤く染まる。太陽に晒された俺の首筋をにまにまと顔を緩ませて見つめる環は、「んー」とわざとらしい声を上げた。
「まぁ、素直な子は好きかな」
「……素直?」
戯けた調子の返答が来るとばかり思っていた俺が遅れて聞き返すと、上目で見上げた先にある垂れ目が三日月を作った。
「そ。素直で分かりやすい子。あとはまぁ、同じ趣味があったら嬉しいよね」
「え、すっげーフツー」
「そんなもんでしょー?」
環の背中の向こう側で、柳田が両手を合わせて小さく頭を下げる。数分前に胸を占めていた疑念は杞憂に終わったようで、小さく息を吐いた。作戦は上手くいったらしい。環に疑われている様子もない。俺にできることがあるとすれば、あとは柳田と環が話す機会を設けることと、環の指す趣味を特定することくらいだ。そのたった2つの課題のうち、後者がとんでもなく難易度の高い物であるわけだが。
「まもなく、学年対抗玉入れが始まります。選手の方は――」
放送委員の芯の通った声がグラウンドに響く。それは、俺が参加する唯一の競技を知らせるもので、「あ」と声を上げた。首を傾ける環を押しやり、立ち上がって伸びをする。体の側面から聞こえる、ぱきぽきと弾けるような音に顔を顰め「出番」と一言伝えれば、柳田が「私も」と続く。
「えぇ何でぇ」
「何でも何も出番は出番だよ」
「あざみは出なくていいよ。実行委員の権限でよきに計らってあげる」
「そんな権力ねぇだろ」
「ないなら作りますぅ」と足に絡まりつく環を押しのける。
「あざみいないの寂しい。ちゃっちゃと終わらせて早く帰ってきてよね」
時間制限制の競技にちゃっちゃと終わらせる、が通用するわけないが、口先を尖らせ見上げる環が可愛く「あぁ」と短く返し、柔らかな髪に手の平を沈ませた。頭かき混ぜるように撫でれば、環の顔に滲み出ていた不満が霧散する。花でも飛ばしていそうな緩んだ環の顔を見て、分かりやすい子が好きと言っていたが自分も十分わかりやすい部類だろうに、と心の中で呟き背中を向けた。
「は?」
不満を隠さない環に、相変わらずの笑みを浮かべた蒲田がそう言ってのける。火に油を注ぐとはこのことだと肝を冷やした。しかし、丁度いい。俺を通して環と親密になりたいという柳田の希望を叶えるのに絶好の機会。そこに舞い込んだ恋愛の話。上手く繋げることができれば、これまで話題に上がったこともない、環の好みを引き出すこともできるはずだ。
「そういう話聞かないよな、お前」
細めた目を蒲田へ向け、今にでも噛みつきそうな環の視界を遮るように、今度は俺が首を傾げた。こてん、と俺と同じ方向へ首を傾けなおした環が、肩に回していた手を俺の頬に添え、そのままむぎゅりと押しつぶす。
「そんなんあざみも一緒でしょー」
ふにふにと、自分の言葉に合わせて頬を潰す環に、今度は俺が不満を露にした。気を抜けばすぐこれだ、と内心で悪態をつく。俺の顔をスクイーズだとでも思っているか、とも。どうしても手が寂しいのであれば、中学に上がる少し前、お決まりの気まぐれにより揃いで買った本物のスクイーズがあるのだからそっちで勘弁してほしい。捨てたというのであれば、俺のおさがりを喜んでくれてやる。今となっては手垢で汚れ、柔らかな表面には無数のシワが寄っているが、男子高校生の頬よりは触り心地がいいことは確かだろう。
止まらない愚痴をぐっと飲み込み、頬を押す指を1つずつ外した。
「で、好きな人とかいないの? 好きなタイプ、でも、いいけど……」
意気揚々と問いかけたはいいが、羞恥心で尻すぼむ。
小学生の頃から共に過ごし、全てを共有してきたと言っても過言ではないが、その中に恋愛に関するものはなかった。隠していたわけではなく、俺自身にそういったイベントが訪れなかっただけで、その時がきたら話すだろうと考えていた。考えてはいたが、俺自身に訪れたというよりも、強制的に引きずり出された様な今の状況では覚悟が決まり切っておらず、真っすぐと俺を見つめる環の垂れた目から視線を逸らし右へ左へと瞳を揺らした。
先日の花の一件もあり、好きな人でもできたのか、とか。彼女が欲しいのか、とか。そういった見当違いの勘ぐりを環に入れられることに対する含羞や、いい流れだというのは自分の勘違いで不自然な流れに違和感を覚えられることに対する憂苦で俺の揺れる視線は段々と下っていく。それに同調するかの如く顔には熱が集まり、やがて暑さを言い訳にできない程まで赤く染まる。太陽に晒された俺の首筋をにまにまと顔を緩ませて見つめる環は、「んー」とわざとらしい声を上げた。
「まぁ、素直な子は好きかな」
「……素直?」
戯けた調子の返答が来るとばかり思っていた俺が遅れて聞き返すと、上目で見上げた先にある垂れ目が三日月を作った。
「そ。素直で分かりやすい子。あとはまぁ、同じ趣味があったら嬉しいよね」
「え、すっげーフツー」
「そんなもんでしょー?」
環の背中の向こう側で、柳田が両手を合わせて小さく頭を下げる。数分前に胸を占めていた疑念は杞憂に終わったようで、小さく息を吐いた。作戦は上手くいったらしい。環に疑われている様子もない。俺にできることがあるとすれば、あとは柳田と環が話す機会を設けることと、環の指す趣味を特定することくらいだ。そのたった2つの課題のうち、後者がとんでもなく難易度の高い物であるわけだが。
「まもなく、学年対抗玉入れが始まります。選手の方は――」
放送委員の芯の通った声がグラウンドに響く。それは、俺が参加する唯一の競技を知らせるもので、「あ」と声を上げた。首を傾ける環を押しやり、立ち上がって伸びをする。体の側面から聞こえる、ぱきぽきと弾けるような音に顔を顰め「出番」と一言伝えれば、柳田が「私も」と続く。
「えぇ何でぇ」
「何でも何も出番は出番だよ」
「あざみは出なくていいよ。実行委員の権限でよきに計らってあげる」
「そんな権力ねぇだろ」
「ないなら作りますぅ」と足に絡まりつく環を押しのける。
「あざみいないの寂しい。ちゃっちゃと終わらせて早く帰ってきてよね」
時間制限制の競技にちゃっちゃと終わらせる、が通用するわけないが、口先を尖らせ見上げる環が可愛く「あぁ」と短く返し、柔らかな髪に手の平を沈ませた。頭かき混ぜるように撫でれば、環の顔に滲み出ていた不満が霧散する。花でも飛ばしていそうな緩んだ環の顔を見て、分かりやすい子が好きと言っていたが自分も十分わかりやすい部類だろうに、と心の中で呟き背中を向けた。
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