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百合
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昨日の強引な行為は環が果てたことで終わりを迎えた。これまで体を重ねた中で1番短かったはずだが、俺じゃなくてもいいという理由1つで、今までで1番長く、地獄のように感じた。
性器を抜かれた後孔から零れる白濁と赤くはれていた俺の目を見た環は、一瞬顔を歪めただけで何も言わずに部屋を出ていった。
環の中であの行為は謝罪に値しないのか、それとも俺がそうなのか。考えれば考える程心は重くなって、あらゆる気力を奪い去った。
それでも朝はやってくる。
日に日にひどくなっているらしい顔色に、昨日の早退も相まって両親から休むようにいわれたが、押し切って家を飛び出した。
静かな部屋で1人布団に包って悶々と頭を悩ませるよりも、話の絶えない蒔田がいる学校の方が気持ちが楽だと思って無理を突きとおした。
あまり自覚はなかったが、周囲に指摘されるように体調は芳しくないらしい。
駅のホームに立っているだけで、時折視界がぐるりと回る。その場で倒れるわけにもいかず、中央に設置されたベンチに腰を掛ける始末だ。巻きつけたマフラーに顔を埋め、身を縮ませた。
ホームに流れるアナウンスと電車に乗降する人々の足音がやけに頭に響いて、がんがんと痛みを訴える。
自分で行くといったくせに、こうもしんどいと、やはり休んでおくべきだったかと後悔したその時だ。
「何してんの」
頭上に落ちてきたその声にハッと顔を上げる。普段と変わらぬ様子で俺を見下ろす環に目を瞬かせた。
てっきり、今日は冷たく接せられるのかと思っていた。
体を重ねた日の翌日はいつもそうだったはずだ。何の気の迷いかと考えたが、いや違うかと思いなおす。
ここ最近は話すことすらなかったせいで感覚がバグっているのだ。別に優しくされてもない。
「別に。何も」
そっけなく返して再びマフラーに沈んだ。
「学校行くわけ?」
「そーだよ。それ以外ねぇだろ」
「……何で?」
「何で? なんでって、んなの……」
学校に行くのに理由なんてあるか。
何を聞かれているのか、何と答えるべきなのか口篭もっていると、「何か予定でもあるわけ」と言われ、「あぁ、そうだよ」と頷いたところで、タイミングよく電車が到着する。
ホームの人だかりが吸い込まれていくその波に乗ろうと立ち上がれば、それを阻むように腕を掴まれた。
「アイツに会いたいから?」
「アイツ……? 何の話か知らねぇけど早くしねぇと乗り遅れるぞ」
「自分の体調よりアイツのこと優先するの?」
「あーもーそうだよ! それでいいから早く乗るぞ……って、ぅわぁ!」
環の腕を掴んでいた手を突然引っ張られる。バランスを崩してたたらを踏む俺を気を配ることもなく進んでいく環の向かう先は、乗車予定の電車ではない。
細長く続くホームを真っ直ぐ進むその方向は、どう考えても改札へ続く階段だ。
「おい、電車! 学校どうすんだよ!」
「休む」
「何で!?」
「休むったら休む!」
「はぁ!?」
訳の分からない行動の理由を問いただそうとしたが、通勤通学ラッシュとも言えるこの時間帯だ。
周囲から突き刺さる好奇や呆れを含んだ視線に開きかけていた口を閉じ、大人しくついていく。
一体何を考えているのか検討もつかない。
ここ最近の環は急に怒ることが増えたように思う。
1週間前のあの日や昨日だってそうだ。突然へそを曲げ、理由も言わずに苛立ちをぶつけられる。そして、――。
足が止まる。階段の中腹で立ち止まった俺を振り返った環は、早くついてこいと視線で訴えかけてくる。
そうだ。突然怒りだして、かと思えば行為を迫ってきた。
1週間前も、昨日も。
たまった鬱憤をぶつけるように欲を吐き出して、満足したら帰っていく。
もしかすると、俺が気づいていないだけでずっと前から、性欲を解消するためだけだったとしたら……。
「何。何か言いたいことでもあるの」
「……なんでもない」
きっと勘違いだ。自分の悪い思い込みに違いない。体調に引っ張られてネガティブ思考になってしまっただけだ。
そんなわけないと否定しても、脳裏に過る環の目が、言葉がその事実を裏付けるように次々と蘇る。
その狭間で、嫌な音を立てる心臓に気が付かないふりをして、環の後を着いていった。
性器を抜かれた後孔から零れる白濁と赤くはれていた俺の目を見た環は、一瞬顔を歪めただけで何も言わずに部屋を出ていった。
環の中であの行為は謝罪に値しないのか、それとも俺がそうなのか。考えれば考える程心は重くなって、あらゆる気力を奪い去った。
それでも朝はやってくる。
日に日にひどくなっているらしい顔色に、昨日の早退も相まって両親から休むようにいわれたが、押し切って家を飛び出した。
静かな部屋で1人布団に包って悶々と頭を悩ませるよりも、話の絶えない蒔田がいる学校の方が気持ちが楽だと思って無理を突きとおした。
あまり自覚はなかったが、周囲に指摘されるように体調は芳しくないらしい。
駅のホームに立っているだけで、時折視界がぐるりと回る。その場で倒れるわけにもいかず、中央に設置されたベンチに腰を掛ける始末だ。巻きつけたマフラーに顔を埋め、身を縮ませた。
ホームに流れるアナウンスと電車に乗降する人々の足音がやけに頭に響いて、がんがんと痛みを訴える。
自分で行くといったくせに、こうもしんどいと、やはり休んでおくべきだったかと後悔したその時だ。
「何してんの」
頭上に落ちてきたその声にハッと顔を上げる。普段と変わらぬ様子で俺を見下ろす環に目を瞬かせた。
てっきり、今日は冷たく接せられるのかと思っていた。
体を重ねた日の翌日はいつもそうだったはずだ。何の気の迷いかと考えたが、いや違うかと思いなおす。
ここ最近は話すことすらなかったせいで感覚がバグっているのだ。別に優しくされてもない。
「別に。何も」
そっけなく返して再びマフラーに沈んだ。
「学校行くわけ?」
「そーだよ。それ以外ねぇだろ」
「……何で?」
「何で? なんでって、んなの……」
学校に行くのに理由なんてあるか。
何を聞かれているのか、何と答えるべきなのか口篭もっていると、「何か予定でもあるわけ」と言われ、「あぁ、そうだよ」と頷いたところで、タイミングよく電車が到着する。
ホームの人だかりが吸い込まれていくその波に乗ろうと立ち上がれば、それを阻むように腕を掴まれた。
「アイツに会いたいから?」
「アイツ……? 何の話か知らねぇけど早くしねぇと乗り遅れるぞ」
「自分の体調よりアイツのこと優先するの?」
「あーもーそうだよ! それでいいから早く乗るぞ……って、ぅわぁ!」
環の腕を掴んでいた手を突然引っ張られる。バランスを崩してたたらを踏む俺を気を配ることもなく進んでいく環の向かう先は、乗車予定の電車ではない。
細長く続くホームを真っ直ぐ進むその方向は、どう考えても改札へ続く階段だ。
「おい、電車! 学校どうすんだよ!」
「休む」
「何で!?」
「休むったら休む!」
「はぁ!?」
訳の分からない行動の理由を問いただそうとしたが、通勤通学ラッシュとも言えるこの時間帯だ。
周囲から突き刺さる好奇や呆れを含んだ視線に開きかけていた口を閉じ、大人しくついていく。
一体何を考えているのか検討もつかない。
ここ最近の環は急に怒ることが増えたように思う。
1週間前のあの日や昨日だってそうだ。突然へそを曲げ、理由も言わずに苛立ちをぶつけられる。そして、――。
足が止まる。階段の中腹で立ち止まった俺を振り返った環は、早くついてこいと視線で訴えかけてくる。
そうだ。突然怒りだして、かと思えば行為を迫ってきた。
1週間前も、昨日も。
たまった鬱憤をぶつけるように欲を吐き出して、満足したら帰っていく。
もしかすると、俺が気づいていないだけでずっと前から、性欲を解消するためだけだったとしたら……。
「何。何か言いたいことでもあるの」
「……なんでもない」
きっと勘違いだ。自分の悪い思い込みに違いない。体調に引っ張られてネガティブ思考になってしまっただけだ。
そんなわけないと否定しても、脳裏に過る環の目が、言葉がその事実を裏付けるように次々と蘇る。
その狭間で、嫌な音を立てる心臓に気が付かないふりをして、環の後を着いていった。
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