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勇者幽閉

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無事に逃げおおせた神官は、赤備えの皇女と無事に合流し、敗残兵を指揮している軍師に門をふさいだことと賢者を置いて一人逃げてきたことを正直に報告した。
「仕方ないわ。あなただけでも無事なら」
「ですが、賢者様を置き去りにした事実は変わりません」
「なら、二人揃って逃げられる余裕があったの? 二人とも逃げられたのに賢者様を置き去りにしたのなら私はあなたを軽蔑しますが、仕方なかったのでしょ? なら、責める道理はありません。違う?」
「ありがとうございます」
神官は軍師に頭を下げた。
「それより、やることがたくさんあります。手伝ってくれますね」
「はい」
人間界に逃げ込んできた者たちはボロボロで、無傷で自力で祖国に帰れる者は稀であり、まずは、人間界側の門の近くに野戦病院のような野営地を作り、負傷者の手当を行い、食事を与えていた。魔界遠征軍は帝国を中心とした寄せ集めの軍であり、その中心たる帝国兵は、先に撤収していてほとんどいない。各国に負傷兵の引き取り救援など、伝令を軍師は出していた。この遠征の主体たる帝国にも救援の要請を出したが、近くの砦などは人手を出してくれたが、帝国本国は敗残兵に対して興味がないという感じで、軍師の祖国だけが、真面目に救援の人手を出してくれた。
負傷兵を手当てしながら神官は、賢者の聖女的な行為を無視して、ひとりで逃げ出したことをずっと後悔していた。
あのとき、賢者を手伝って魔界に残っていたら、二人そろって逃げ出す機会もあったかもという後悔が、どうしてもぬぐい切れない。あの状態では、本当にひとりで逃げるので精一杯だった。味方は全員門の向こうに撤収していたし後ろを振り返らずに一目散に門への逃走は間違いではないと思い込もうとすればするほど、心が痛んだ。そんな神官の心情が顔に出ていたのか、皇女が優しく声をかける。
「仕方なかったのでしょう。なら、卑下することはありません。それより、今は自分のやれることを頑張りなさい」
「はい・・・」
「それに、我々は負けました。しかし生き残りました。世の中、何か大きな失敗があったとき、誰かの責任にするものです。疑わしいだけで相手を糾弾したがるクズはいます。すでに、勇者たちは皇帝に呼び出されて帝都に向かったまま、帰って来ていません、たぶん幽閉され、今回の戦いの責任を取らされようとしているのでしょう」
「まさか、そんなことは?」
「そういう男なのですよ、我が父は」
皇女は苦笑していた。
「魔界遠征の大号令を発した父は、自分に非難が向けられるのを回避するため、すべての責を勇者に負わせるつもりでしょう」
「まさか、そんなのあり得ない」
だが、現皇帝は、自身の帝位継承権死守のために他の兄弟たちを謀殺したという噂のある人物である。そういう父と知っているから、皇女は父親から離れるため、自分で道を切り開けられるように剣を覚え、この遠征にも自主的に参加したのだ。
つまり、現皇帝は、保身のため何でもやる小心者なのだ。
「とにかく、魔界からの多くの未帰還者を出しました。その戦死者に対するケジメとして、誰かを更迭しなければならない。誰も責任を取らない独裁よりマシだと思うほかありません。それに皇帝といえど、魔王を討った功労者である勇者を、そう簡単には処刑できぬはず」
「ですが、勇者様を幽閉とは、多くの者が納得しないでしょう」
「もちろんです。わたしも、明日、帝都に向かい、父上に勇者様の解放をお願いするつもりです」
「そ、それは・・・」
「ここのことは、あなたに任せます。軍師とともにお願いしますね」
「は、はい・・・」
皇女の願いに神官は頷いた。
「ですか、大丈夫ですか、王女様おひとりで」
「わかっています。ですが、勇者様を見捨てることはできません。この身に代えても勇者様をお救いするつもりです」
「ですが、それでは、ご自身の身が」
「そうですね、最悪、帝国の転覆を計画していたなどという逆賊の汚名を着せられるかもしれません」
「実の父が、そこまでしますか」
「今の皇帝は、そういう男です。それに勇者様は、大衆に尊敬される英雄です。皇帝としても、自分より民の人気のある存在が目障りなのかもしれない。本当は、それが幽閉の一番の理由かもしれません」
「そんな、理不尽ではないですか」
「仕方ありません。現在の皇帝陛下が、そこまで心の狭い男ということです。だから、私が、勇者様を救いに行くのです」
「これなら、自ら前線に出て戦う魔界の魔王の方が、何倍もマシじゃないですか」
「魔王の方がマシですか。確かにそうかもしれませんね。とにかく、ここはお願いします」
そうして、皇女は皇帝のいる帝都に向い、勇者と同じように幽閉された。
そんな皇帝の行動に小さな軍師も、次は私かと警戒していた。皇帝の狙いは、このさい自分の地位を脅かすような存在を根絶やしにしたいのではと。


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