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屋上の彼
六、
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「今年初の暖房だ」
そこそこ良い部屋に、先生は住んでいた。普段から使っていないことが判る、埃がかぶったエアコンのリモコン。
「初、ですか。いままでこの寒さをどうやって凌いでたんですか」
「酒、かな」
「ダメな大人ですね」
「まあね」
褒めていないのに、と言いかけた俺の口に、冷たいものが押し込まれた。冷たさを通り越して、痛い。
「!」
「溶けちゃうから。暖房入れたし。早く食べな」
先生も同じようにチョコレート味のアイスを食べていた。棒状で、120円のアイス。
「君はこの部屋に来るの初めてだっけ」
「そう、です」
齧って強引に飲み込んで、返答する。
「いつもは教室で、だったもんねぇ」
先生は俺の持つアイスと、自分のアイスを交換してきた。
「同じ味でしょ、なにしてるんですか」
先生はなにも言わず、ただニヤリとして俺が食べていたアイスを頬張った。
***
「クリスマスだからさ」
先生の肌は上気していた。細い身体が、やわらかくて大きなベッドに沈んでいる。俺は、その上にまたがっている。枕元の照明だけの、薄暗い部屋。
「寒くないんですか」
「暖房が効いてるでしょ」
先生の冷たい手が、俺の背中をなぞる。
「俺は寒いです」
俺も負けじと先生の背に手をまわしてみるが、熱くて、俺が氷だったら解けて水になってしまっただろう、というほど熱を帯びていた。手は冷たいのに。
「僕が暖めてあげるから」
「そんな、ベタな、せりふ」
先生と初めて身体をつなげたとき、先生はすぐに俺の弱いところを見つけた。そのときは、生活係の教室だった。
「宮下とさ、僕をさ、重ねてみたりするの?」
「まさか、そうしたら、俺は、先生のポジションですもん」
「そうなんだ」
小さな笑いを含みながら、先生は熟知した俺の身体を思いのままに抱く。
「それに、俺は‥‥。先生のことが、すき、ですし‥‥」
息を飲むのに必死で、うまく言葉にできない。
「そう、だったね」
先生は俺を引き寄せると、いま自分が横になっていたベッドへ押し倒した。
「先生こそ、どうなんですか‥‥あの、橋本‥‥」
そこで、先生の動きがとまる。先生の表情が見えない。
「いいよ、もう。僕にはさ、君がいるから。僕みたいな中年がさ、君みたいな若い子とさ‥‥それだけで‥‥」
「若ければ誰でもいいんですか。あいつの代わりになるような、若い相手なら」
「違うよ‥‥そんなこと言ってないでしょ‥‥僕は、君がいいんだ」
先生は、俺の名前を呼ぼうとしない。いつも〝君〟で済ませる。
「男の俺なら、女と違って孕まないですしね」
「!」
先生が怒ったのが判った。それでも、先生は怒鳴りもせず、殴りもせず、俺を見おろしたままでいる。
なにも言わない、どんな表情をしているのか判らない、なにを思ってどんな表情をしているのかを考えたら、俺の身体は熱くなった。
先生、なにを考えているの。
俺のほうこそ、捨てられたっておかしくないのに。
「やっぱりサンタさんの格好してもらえばよかったかも」
「いまさら厭ですよ」
俺がすこし顔をしかめると、先生は一瞬、哀しそうな表情を浮かべた。
そしてそのまま俺の髪にキスをする。
「君は、いつもイイ匂いがするね」
「ただのシャンプーの香りでしょ」
「いいなぁ、イイ匂いだなぁ。僕も同じやつにしようかな」
俺の髪に指をもぐらせ、耳朶をいじってくる。
先生の冷たい指が、俺の弱いところに触れている。
息が漏れそうになるのを堪え、それを誤魔化すように俺も先生の髪に手を伸ばす。
「判りやすいね、君は」
ほうっと身体が熱くなり、俺への言葉をこぼす先生の唇に触れたくなった。
「せんせい‥‥」
「いいよ」
小さく頷くと先生は、俺の唇が触れそうで触れない距離まで顔を近づけ、焦らしてくる。
「かわいいよ君は」
先生の顔と、色白の胸板と、吐息が近くなり俺はもう我慢できなくなる。
先生は俺の表情を楽しげに見ながら、冷たい手で俺の身体を撫でる。
胸の突起、へそ、腰骨、もっと、もっと奥のほうにも触れてほしいのに。
「先生は、ずるい」
我慢できなくなって俺が口づけをすると、それが引き金になったように先生は俺のモノをきつく握った。
「もう、いい?」
先生の吐息に艶が混じる。
「‥‥はやく‥‥っ」
右も左も、天も地も、一気に判らなくなり先生のことしか考えられなくなる。
素直に求めることができなくて、急かすような言葉しか出てこない。
自分の熱で、先生の手の冷たさが際立って感じられる。
手だけじゃなく、しっとりとした先生の舌が俺の身体を這う。
俺よりも歳上で、子どもっぽくて、たまになにを考えているか判らなくて、煙草くさくて、髪に白いものが混じっていて、笑った顔が可愛くて。
先生の熱いモノが俺の身体を穿ったとき、頭のなかでぐるぐると考えていたことが、すべて弾け飛んだ。
――先生の冷たい手が、俺の背中をなぞる。
そこそこ良い部屋に、先生は住んでいた。普段から使っていないことが判る、埃がかぶったエアコンのリモコン。
「初、ですか。いままでこの寒さをどうやって凌いでたんですか」
「酒、かな」
「ダメな大人ですね」
「まあね」
褒めていないのに、と言いかけた俺の口に、冷たいものが押し込まれた。冷たさを通り越して、痛い。
「!」
「溶けちゃうから。暖房入れたし。早く食べな」
先生も同じようにチョコレート味のアイスを食べていた。棒状で、120円のアイス。
「君はこの部屋に来るの初めてだっけ」
「そう、です」
齧って強引に飲み込んで、返答する。
「いつもは教室で、だったもんねぇ」
先生は俺の持つアイスと、自分のアイスを交換してきた。
「同じ味でしょ、なにしてるんですか」
先生はなにも言わず、ただニヤリとして俺が食べていたアイスを頬張った。
***
「クリスマスだからさ」
先生の肌は上気していた。細い身体が、やわらかくて大きなベッドに沈んでいる。俺は、その上にまたがっている。枕元の照明だけの、薄暗い部屋。
「寒くないんですか」
「暖房が効いてるでしょ」
先生の冷たい手が、俺の背中をなぞる。
「俺は寒いです」
俺も負けじと先生の背に手をまわしてみるが、熱くて、俺が氷だったら解けて水になってしまっただろう、というほど熱を帯びていた。手は冷たいのに。
「僕が暖めてあげるから」
「そんな、ベタな、せりふ」
先生と初めて身体をつなげたとき、先生はすぐに俺の弱いところを見つけた。そのときは、生活係の教室だった。
「宮下とさ、僕をさ、重ねてみたりするの?」
「まさか、そうしたら、俺は、先生のポジションですもん」
「そうなんだ」
小さな笑いを含みながら、先生は熟知した俺の身体を思いのままに抱く。
「それに、俺は‥‥。先生のことが、すき、ですし‥‥」
息を飲むのに必死で、うまく言葉にできない。
「そう、だったね」
先生は俺を引き寄せると、いま自分が横になっていたベッドへ押し倒した。
「先生こそ、どうなんですか‥‥あの、橋本‥‥」
そこで、先生の動きがとまる。先生の表情が見えない。
「いいよ、もう。僕にはさ、君がいるから。僕みたいな中年がさ、君みたいな若い子とさ‥‥それだけで‥‥」
「若ければ誰でもいいんですか。あいつの代わりになるような、若い相手なら」
「違うよ‥‥そんなこと言ってないでしょ‥‥僕は、君がいいんだ」
先生は、俺の名前を呼ぼうとしない。いつも〝君〟で済ませる。
「男の俺なら、女と違って孕まないですしね」
「!」
先生が怒ったのが判った。それでも、先生は怒鳴りもせず、殴りもせず、俺を見おろしたままでいる。
なにも言わない、どんな表情をしているのか判らない、なにを思ってどんな表情をしているのかを考えたら、俺の身体は熱くなった。
先生、なにを考えているの。
俺のほうこそ、捨てられたっておかしくないのに。
「やっぱりサンタさんの格好してもらえばよかったかも」
「いまさら厭ですよ」
俺がすこし顔をしかめると、先生は一瞬、哀しそうな表情を浮かべた。
そしてそのまま俺の髪にキスをする。
「君は、いつもイイ匂いがするね」
「ただのシャンプーの香りでしょ」
「いいなぁ、イイ匂いだなぁ。僕も同じやつにしようかな」
俺の髪に指をもぐらせ、耳朶をいじってくる。
先生の冷たい指が、俺の弱いところに触れている。
息が漏れそうになるのを堪え、それを誤魔化すように俺も先生の髪に手を伸ばす。
「判りやすいね、君は」
ほうっと身体が熱くなり、俺への言葉をこぼす先生の唇に触れたくなった。
「せんせい‥‥」
「いいよ」
小さく頷くと先生は、俺の唇が触れそうで触れない距離まで顔を近づけ、焦らしてくる。
「かわいいよ君は」
先生の顔と、色白の胸板と、吐息が近くなり俺はもう我慢できなくなる。
先生は俺の表情を楽しげに見ながら、冷たい手で俺の身体を撫でる。
胸の突起、へそ、腰骨、もっと、もっと奥のほうにも触れてほしいのに。
「先生は、ずるい」
我慢できなくなって俺が口づけをすると、それが引き金になったように先生は俺のモノをきつく握った。
「もう、いい?」
先生の吐息に艶が混じる。
「‥‥はやく‥‥っ」
右も左も、天も地も、一気に判らなくなり先生のことしか考えられなくなる。
素直に求めることができなくて、急かすような言葉しか出てこない。
自分の熱で、先生の手の冷たさが際立って感じられる。
手だけじゃなく、しっとりとした先生の舌が俺の身体を這う。
俺よりも歳上で、子どもっぽくて、たまになにを考えているか判らなくて、煙草くさくて、髪に白いものが混じっていて、笑った顔が可愛くて。
先生の熱いモノが俺の身体を穿ったとき、頭のなかでぐるぐると考えていたことが、すべて弾け飛んだ。
――先生の冷たい手が、俺の背中をなぞる。
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