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ジュリアン③
しおりを挟む青褪めるロニーを無視し、シエラは事の経緯を語り始めた。ありがたいほど簡潔に。
「あなたを献身的に支える姿に惚れたの。あとは単純に顔が好み」
「アトラス国王──お父上はなんて言ってるの」
「私が決めた男なら反対しないって。あといい知らせがひとつ」
「何?」
「私を嫁がせるのなら、同盟を結ばなきゃって」
「本当に!?」
アトラスとの関係はこれまでも悪くはなかったが、同盟となるとあちら側の腰が重かった。
だがアトラス国王も人の親。
重い腰を上げるくらい、シエラの事を愛しているのだろう。
「でも……」
ジュリアンは再びロニーの方を見た。
今にも倒れそうな顔色は変わらない。
ロニーがどう思っているのか、聞いてみないとわからないが、相手が王女では何も言えないだろう。
「私としてはロニーの気持ちも大事にしたいんだけど……実のところ、ふたりの仲はどうなってるの?」
「今は私のひとりよがりってところね。でも大丈夫。絶対に幸せになる。私がね」
「いや、そりゃ君は幸せかもしれないけどさ……それに、ふたりはだいぶ年が離れてるけど」
確かロニーはジュリアンよりひと回り年上だったはず。
とすれば、シエラとの年の差は相当だ。
「あなたたちだってそうじゃない。年の差、気になる?」
「なる。なるよ」
これまでその事でどれくらい悩んだか。
「大丈夫よ。私、ロニーなら、しわくちゃになっちゃっても、その皺ひとつひとつ大切に愛せるわ。あなたは違うの?」
「アンジェリクなら、その皺も美しいに決まってる」
「でも、相手はそうは思わないでしょうね。きっと、自分よりも若い私たちを見てはため息をつくはず」
そういえば……鏡を見るアンジェリクは、いつもほんの少しだけ憂鬱そうだった。
「だから、誰よりも何よりも、まず私たちが幸せである事が大切なのよ。心から幸せそうな私たちが、もっともっとと欲張って、毎日毎日愛を乞えば、自分の見た目なんて気にしてる暇なくなるわ」
「もっともっとって……そんな事したら嫌われないか」
「まあ、匙加減は大事よね」
ロニーを無視して恋に悩む若者たちの座談会は続く。
シエラはいきなりの嫁入りではなく、しばらくこの国で暮らしてみたいという。
文化や思想の違いについて、座学だけではなく実際に見て学んでからロニーの妻になりたいのだと。
これまでは、シエラをぶっ飛んだ思考の持ち主だとばかり思っていたし、実際そうなのだが、意外に真面目でしっかりしていると感心した。
(それだけロニーに惚れているんだろうな)
ジュリアンは、シエラに婚儀まで王宮に滞在する事を提案した。
王宮であれば警備費もさほどかからないし、何よりロニーの日常を間近で見れる。
シエラはジュリアンの提案を非常に喜んだが、次に出た言葉には盛大に顔を顰めた。
「ロニーとの結婚云々については、まだ内密にしておこう」
「どうして」
「もしかしたら、君の気持ちが変わるかもしれないだろう?」
「私、そんな軽薄な人間じゃないわ」
「わかってるよ。だから怒らないで聞いて欲しい。ロニーは私にとって大切な側近なんだ。だから、彼にも逃げ道を用意しておいてやりたい」
どんなにシエラがロニーを想っていたとしても、結婚はふたりの気持ちが伴わなければ切ない思いをするだけだ。
実際、ジュリアンもそれで悩んでいる。
シエラはそんなジュリアンの思いを察したのか、最終的には了承してくれた。
「同盟のための使者も来るのだろうから、シエラが来る日に歓迎の宴を開く事にしよう」
「それはありがたいわ。アンジェリク様も祝ってくれるかしら」
「当たり前だ。アンジェリクもきっと我が事のように喜んでくれるさ」
シエラとロニーの関係が、自分たちにも良い影響を与えてくれるかもしれない。
この時のジュリアンは、そんな淡い期待を胸に抱いていた。
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