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異変①
しおりを挟むアトラスからの使者を迎え、広間では歓待の宴が開かれていた。
今夜はジュリアンの計らいで、出席者に上下の別をつけぬよう、円卓が使用された。
アトラス国王が娘の幸せを願い、同盟を申し出てくれたことへ対するせめてもの礼だった。
ジュリアンは、シエラ王女とアトラスからの使者、そしてロニーとともに円卓を囲み、グラスを傾けていた。
長年支え続けてくれた側近への感謝の気持ちも込め、卓上に並ぶ酒食は贅を凝らした一級品ばかり。
「随分奮発してくれたのね。結婚はまだ先なのに」
「アトラスとの同盟と、これまで献身的に尽くし、支えてくれたロニーの忠義に対する感謝でもある。これくらいしても罰は当たらないだろう」
浪費は民衆の反感を買うが、今日ばかりは歴史的な出来事に国民もお祭り騒ぎだ。
こういった宴の準備はいつもアンジェリクに頼りきりだったが、体調の悪い彼女に代わり、ジュリアン自ら行ったことで、国家としての体面を保ちつつ、国民の反感を買わぬよう切り盛りする事の難しさを知った。
(本当に、アンジェリクには感謝してもしきれないな)
「ねえ、アンジェリク様はまだいらっしゃらないの?」
隣に座るシエラが、ジュリアンの隣の空席を気にする。
「まだ体調が思わしくないみたいでね。宴への参加もゆっくりでいいと伝えてある」
「それはあらかじめ聞いてるからわかっているのだけれど……それにしても遅くないかしら?」
シエラは首を傾げた。
言われて見れば、各々酒も食事もだいぶ進んでいる。
いくらゆっくりでいいと伝えてあるからといっても、真面目で几帳面なアンジェリクが、額面通りに受け取るなんて考えにくい。
いつもの彼女なら、無理を押してでも早く出席しようとするだろう。
──何かあったのだろうか
「すまないが、アンジェリクの様子を見てきてくれないか」
ジュリアンは、側に控えていた侍従に耳打ちする。
きっとまだ体調が優れないだけだ。
心配する事はない。
しかし、少しして戻ってきた侍従の表情は硬い。
「対応した侍女の話によりますと、アンジェリク様は体調が悪く、部屋から出てこられないそうです」
「そんなに酷いのか」
「それが……誰も寝室に入るなと仰られたそうで……侍女たちもどうしたら良いのかと困惑しておりました」
……この違和感はなんだろう。
こんな風に彼女の行動に疑問を抱くのは、八年一緒にいて初めての事だった。
一度考え始めると止まらず、妙な胸騒ぎに襲われる。
悩むジュリアンの背を、シエラが押した。
「ここは任せて。行って」
その表情はとても真剣だった。
「すまない。すぐ戻る」
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