【本編完結】片恋の王妃

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異変②

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 歩き慣れた回廊が、果てのない暗闇のように感じられる。
 (彼女の部屋は、こんなに遠かっただろうか) 
 共寝をしなくなってからしばらくして、アンジェリクは夫婦の寝室を出て、自室で眠るようになった。
 時折見せる訴えかけるような視線に耐えられなくて、理由も告げずに逃げてしまってからもう随分と経つ。
 
 男として見て欲しかった。
 だから政務にも精を出し、並行して身体も鍛えた。
 幸いな事に体格には恵まれていて、ジュリアンは彼女の背を直ぐに追い越し、身体には程よい厚みもついてきた。
 けれど、アンジェリクが自分に向ける瞳には、いつまで経っても熱が籠もる事はなかった。

 いっそ夫婦の寝室に呼び出して、心のままに抱いてしまおうか。
 男として見てもらえていなくとも、アンジェリクはジュリアンを嫌ってはいないはず。

 そんな事を何度も考えては止めてを繰り返した。

 愛してほしい、恋してほしい。
 ジュリアンを想い、身を焦がすような夜を過ごして欲しい。
 これまでずっと、拗ねた子どものように意地を張ってしまった。
 自分の口から伝えればいいことくらい分かっていた。
 けれどアンジェリクは優しいから、ジュリアンを傷付けるような言葉は絶対に口にしない。
 本心とは違っても、ジュリアンの望む言葉をくれるに決まってる。
 それがわかっているからこそ、何もできなかった。

 アンジェリクの部屋につくと、部屋の隅に控えていた侍女たちは、ジュリアンを見るなり息を呑んだ。
 室内には妙な緊張感が漂っている。

 「アンジェリクはどこだ」

 「寝室におられます」

 俯く侍女頭の顔色は悪い。
 ジュリアンは部屋の奥へと足を進めた。

 「アンジェリク、私だ。具合いはどうだ?」

 続き部屋の寝室の扉越しに声をかけるが、返事はない。
 眠っているのだろうか。
 無断で入る事に抵抗はあるが、無事な姿を確認したい。ジュリアンは躊躇いがちにドアノブに手をかけた。

 カーテンが閉め切られた部屋の中は暗く、隙間から僅かに差す茜色の光を頼りに寝台の側へと寄った。
 天蓋から垂れ下がるレースの向こう側に、盛り上がる毛布が見えた。寒気があってくるまっているのだろうか。

 「アンジェリク」

 声をかけるが、やはり返事は返ってこない。
 目を凝らし、耳を澄ませて注意深く観察する。
 すると、アンジェリクと思わしき膨らみには、呼吸の際に生じる呼吸音と、それに伴う上下運動も見受けられない。
 ジュリアンはレースをかき分けて寝台の上に乗ると、盛り上がる毛布に手をかけた。
 すると、毛布の下から現れたのは、人の形に象られた大小様々のクッションだった。

 
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