14 / 30
異変②
しおりを挟む歩き慣れた回廊が、果てのない暗闇のように感じられる。
(彼女の部屋は、こんなに遠かっただろうか)
共寝をしなくなってからしばらくして、アンジェリクは夫婦の寝室を出て、自室で眠るようになった。
時折見せる訴えかけるような視線に耐えられなくて、理由も告げずに逃げてしまってからもう随分と経つ。
男として見て欲しかった。
だから政務にも精を出し、並行して身体も鍛えた。
幸いな事に体格には恵まれていて、ジュリアンは彼女の背を直ぐに追い越し、身体には程よい厚みもついてきた。
けれど、アンジェリクが自分に向ける瞳には、いつまで経っても熱が籠もる事はなかった。
いっそ夫婦の寝室に呼び出して、心のままに抱いてしまおうか。
男として見てもらえていなくとも、アンジェリクはジュリアンを嫌ってはいないはず。
そんな事を何度も考えては止めてを繰り返した。
愛してほしい、恋してほしい。
ジュリアンを想い、身を焦がすような夜を過ごして欲しい。
これまでずっと、拗ねた子どものように意地を張ってしまった。
自分の口から伝えればいいことくらい分かっていた。
けれどアンジェリクは優しいから、ジュリアンを傷付けるような言葉は絶対に口にしない。
本心とは違っても、ジュリアンの望む言葉をくれるに決まってる。
それがわかっているからこそ、何もできなかった。
アンジェリクの部屋につくと、部屋の隅に控えていた侍女たちは、ジュリアンを見るなり息を呑んだ。
室内には妙な緊張感が漂っている。
「アンジェリクはどこだ」
「寝室におられます」
俯く侍女頭の顔色は悪い。
ジュリアンは部屋の奥へと足を進めた。
「アンジェリク、私だ。具合いはどうだ?」
続き部屋の寝室の扉越しに声をかけるが、返事はない。
眠っているのだろうか。
無断で入る事に抵抗はあるが、無事な姿を確認したい。ジュリアンは躊躇いがちにドアノブに手をかけた。
カーテンが閉め切られた部屋の中は暗く、隙間から僅かに差す茜色の光を頼りに寝台の側へと寄った。
天蓋から垂れ下がるレースの向こう側に、盛り上がる毛布が見えた。寒気があってくるまっているのだろうか。
「アンジェリク」
声をかけるが、やはり返事は返ってこない。
目を凝らし、耳を澄ませて注意深く観察する。
すると、アンジェリクと思わしき膨らみには、呼吸の際に生じる呼吸音と、それに伴う上下運動も見受けられない。
ジュリアンはレースをかき分けて寝台の上に乗ると、盛り上がる毛布に手をかけた。
すると、毛布の下から現れたのは、人の形に象られた大小様々のクッションだった。
1,253
あなたにおすすめの小説
【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。
しかし、仲が良かったのも今は昔。
レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。
いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。
それでも、フィーは信じていた。
レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。
しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。
そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。
国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。
旦那様の愛が重い
おきょう
恋愛
マリーナの旦那様は愛情表現がはげしい。
毎朝毎晩「愛してる」と耳元でささやき、隣にいれば腰を抱き寄せてくる。
他人は大切にされていて羨ましいと言うけれど、マリーナには怖いばかり。
甘いばかりの言葉も、優しい視線も、どうにも嘘くさいと思ってしまう。
本心の分からない人の心を、一体どうやって信じればいいのだろう。
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
【完結】離婚を切り出したら私に不干渉だったはずの夫が激甘に豹変しました
雨宮羽那
恋愛
結婚して5年。リディアは悩んでいた。
夫のレナードが仕事で忙しく、夫婦らしいことが何一つないことに。
ある日「私、離婚しようと思うの」と義妹に相談すると、とある薬を渡される。
どうやらそれは、『ちょーっとだけ本音がでちゃう薬』のよう。
そうしてやってきた離婚の話を告げる場で、リディアはつい好奇心に負けて、夫へ薬を飲ませてしまう。
すると、あら不思議。
いつもは浮ついた言葉なんて口にしない夫が、とんでもなく甘い言葉を口にしはじめたのだ。
「どうか離婚だなんて言わないでください。私のスイートハニーは君だけなんです」
(誰ですかあなた)
◇◇◇◇
※全3話。
※コメディ重視のお話です。深く考えちゃダメです!少しでも笑っていただけますと幸いです(*_ _))*゜
【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」
そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。
彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・
産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。
----
初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。
終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。
お読みいただきありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる