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第一章
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しおりを挟む「…う………んん…………?」
いつもより空気がひんやりとしてるせいで毛布の暖かさがとても気持ちいい。
でも毛布だけじゃないわ。とっても滑らかで気持ちいいお肌………スリスリ……いい匂い……。頬を擦り付ける私の頭に大きな手が優しく添えられて、額に柔らかなものが触れた。
ん?
肌?誰の?誰のだよ?
慌てて目を開けるとはだけた胸元が見える。しかもこれは男性の。
「ふぇっ!?」
しっかりと抱かれているため顔しか動かせない。首を反らせて見上げると、深海のように青く美しい瞳が私を見つめていて、びっくりしすぎて変な声が出てしまった。
「おはよう…エルフィリア。」
「アンリ様!?」
気のせいだろうか。とても残念そうな顔をしている。しかし何で?何なのこの状況?
昨夜は確かアンリ様と横になって魔力をあげて…ナデナデされて…気持ちよくて…そうか、あのまま寝ちゃったのね!ていうか今何時!?
「アンリ様今何時ですか!?」
窓は厚いカーテンに遮られていて時間がよくわからないが隙間から光が漏れている。間違いなく朝は来ている。アンリ様は枕元に置いてある時計を指差す。
「お、お昼過ぎてる!ひどいアンリ様!!目が覚めていたなら何で私を起こしてくれなかったの!?」
アンリ様は拗ねたようにして目を逸らす。
「アンリ様?」
「…だって……もう少しあなたと一緒にいたかったから……。」
なぬ!?もう少し一緒にいたかった!?
そうか…今のアンリ様には寄り添ってくれる人が誰もいないから……寂しかったのね。人恋しいってやつね。
いやでも起こすよね普通!?
「うー!!どうしよう!きっと今頃城中大騒ぎだわ!!」
頭を抱えて突っ伏す私の背をアンリ様が撫でる。
「大丈夫。私も一緒に謝るから。」
「……は?…」
謝る?謝るって誰に?
「君のお父上に。」
「は!?」
「一緒に連れて行ってくれる?」
連れて行くって…アンリ様をグレンドールの父のところに?冗談でしょ?
「あなたには何度も往復させてしまって申し訳ないけれど…でも私が直接説明すればお父上もあなたに起こった事を信じてくれるんじゃないかな?」
……確かに。今のローゼンガルドの状態を第一王子であるアンリ様の口から直接聞けば、さすがにお父様も信じてくれるとは思う。……思うけどさ!?いきなり朝帰りどころか昼帰りした上に、その相手の男を連れて行くなんて有り得なくない!?
「でもエルフィリア、これから毎晩会いに来てくれるんでしょう?そしたら今日のような事がまた起こるかもしれない。なら最初からしっかり伝えておいた方がいい。私のところへ来ていると知っておいて貰った方が何かあった時も安心だ。」
ま、毎晩!?
確かに今夜また来るって約束したけど毎晩?毎晩来るの?
「……来てくれないの……?」
うっっ!
アンリ様は捨てられた子犬のように私を見る。何だか頭に耳が生えてるような錯覚まで!でもまぁアンリ様の身体を考えれば毎晩の方が安心なのは確かだ。それにまだ教えて貰いたい事は山ほどあって時間も足りない。
「毎晩私が来て色々聞いてもアンリ様は嫌じゃない?」
「嫌じゃない。むしろもっとあなたと話したい。あなたの知りたい事も全て教えてあげたい。」
アンリ様の瞳は真っ直ぐ私を見ている。
「…すっごく怒られるかも。お父様、私の事溺愛してるから。」
「うん、わかってる。覚悟はできてるよ。」
「もうアンリ様と関わるなって言われちゃうかもしれない……。」
「わかって貰えるまで何度だって説明する。」
「それに………」
「それに?」
「…アンリ様は辛くない?私の家族と会って…またここへ戻って来るの…。」
両親を亡くしたアンリ様が私の家族と会ってその幸せな光景を目にして、またこの冷たく広いひとりぼっちの部屋へ帰ってくるのだ。平気な訳がない……。
「……あなたは本当に優しいねエルフィリア。誰よりも辛い思いをしたのはあなたの方なのに。」
確かに辛い思いはしたけれど私は戻ってくる事ができた。でもアンリ様は幸せだった頃には戻れない…。
「確かに戻る事はできないけれど、私の元へはあなたが来てくれた。その事に何よりも感謝しているんだ。」
「私が来たことが…?本当に…?」
もしかしたらそれがあなたの身に災いをもたらすかもしれないのに?
「……本当だよ。今まで苦しかったけど…生きていて良かったと思えるほどにね。」
アンリ様は優しく微笑む。
「…わかった。じゃあ一緒に来てアンリ様。でも本当に大丈夫?お部屋に誰か来たらどうするの?」
「誰もこの宮に入れないよう伝えておけば大丈夫。ただ限度はあるけどね。」
そう言ってアンリ様はベッドから降りた。
「アンリ様?」
「ふふ。さすがにこの格好でグレンドール国王にお会いする訳にはいかないからね。」
アンリ様は“少し待っていて” と言い残し部屋を出た。しばらくして戻ってきた彼は正装だった。
いつも寝間着姿しか見たことがなかったから驚いた。髪を後ろに撫で付け、濃紺の上下に身を包んだ彼はさっきまでベッドで横になっていたあの人とはまるで別人だ。
何でだろう…とても胸が騒がしい。それが何故なのか自分の事なのにわからない。
「待たせてごめんね…エルフィリア?」
アンリ様が不思議そうに覗き込んでくる。
きっと私がアンリ様のいつもと違うその姿に驚いて、口を開けたままずっと凝視していたからだろう。
「は、はい!ごめんなさい!」
「私の準備は出来たから、エルフィリアの心の準備が整ったら…行こう。」
二人でグレンドールへ。
私は深呼吸してアンリ様の手を取った。
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