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第二章
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しおりを挟む「いくら未来の自分だからといってどうしてそんな事までわかるの?」
アンリ様が戦おうとしているなんて今の状況からじゃとても考えられない。それなのにまるでアンリ様は間違いないと確信しているように見える。
「…私にもまったく味方がいない訳ではないんだ。父上の信頼していた臣下達は今でも陰ながら私の身を案じてくれている。それに…」
「それに?」
「最近ではギャレットの非道に耐えられなくなった者達が反旗を翻す機会を狙っている。」
「…非道?」
「……とても女性に聞かせられる話ではないよ。」
こんなに眉間に皺を寄せるアンリ様を見るのは初めてだ。グレンドールの王女である私にさえ初対面であんな態度を取った男だ。それが臣下相手と言うならば、どれほど酷い行いをしたのかは想像に難くない。
「…息子や娘を惨殺された者も多い。現王家…叔父上とギャレットを排したい者を秘かにこちら側へつくよう話をしている。」
「それってアンリ様も…今のアンリ様も戦おうとしているって言う事?」
だから未来の自分もそうなのだと?
「まだ時が来ていない。十分な備えも出来ていないからね。でもいずれはそうなる。」
「いや…嫌よ!お願いだから戦うなんてやめてアンリ様!だってローゼンガルドはグレンドールをたった一夜で滅ぼすほどの恐ろしさなのよ!?私はそれを止めるために今こうやって頑張ってるけど…でも…でも!」
今はアンリ様という大切な人ができてしまった。こんなにも大好きな人が。それなのに…!
「アンリ様を失ったら私…どうやって生きていけばいいの…?」
私には素直に口から出た言葉だった。
でもそれはアンリ様にとってはとても重く大切な言葉だったようだ。
「…エルフィリアにとって私は…私はそれほど価値のある人間なの…?」
「どうしてそんな事を言うの?当たり前じゃない……。」
何もかも取り上げられた今の自分には、まるで何の価値もないと思っているかのよう。
「アンリ様は私の気持ちが今だけのものだと思ってる?」
普通ではあり得ない出会い方をした。
共通の敵がいて、アンリ様の命は私が繋いでいる。毎夜のキスで情が移ったとでも思われているのかしら。
「私には他の王子が持つような輝かしいものは何一つない。身体でさえ愛するあなたに負担をかけながら生き永らえている。」
「自分の事そんな言い方しないで。だってそれはアンリ様のせいじゃない。」
「いつかあなたの瞳に私が色褪せて見える時が来るんじゃないかとそう思うことがある。……とても怖いよ。」
どうして?
どうしてなんだろう。
二人でいるのにアンリ様はひとりぼっちのような顔をする。
「…ごめんね、少し話がずれてしまったね。エルフィリア、私はこの王家に生まれた者としてこの国をあるべき姿に戻さなければならない。何よりも民がそれを望んでいる。いつか戦いに身を置くことになるだろう。けれど何の勝算も無しに動いたりはしない。だから心配しないでくれ。」
心配するなと言われてもそんなの無理だ。
大切な人の命が失われるかもしれないと言うのに。
「それと…未来の私があなたを祖国へ帰してあげるつもりだと思ったのは、私ならそうすると思うから。奪われたものを返してあげたいと。」
「じゃあ未来のアンリ様は私のためにファルサとあんな事を………?」
あれほどに拒んでいたファルサを…すべては私のために…?
「愛しているんだ。自分の事などどうでもいいと思えるくらいにあなたを…。」
「どうしてなの…私は…未来での私はずっとアンリ様を拒絶してた…。私が連れて来られた理由も知らないくせにって思ってた。なのになぜ……」
「…本当は全部知っていたはずだよ。信頼できる者は少ないが側近もいる。」
「そんな……それじゃ私がアンリ様を拒絶する理由も全部知っててそれなのに私を……?」
「きっと、何とかしようと水面下でもがいていたんだろうね。けれど間に合わなかったのだろう。」
「どうして…どうして……?」
どうしてそんなにも私の事を?
あの頃の私は今とはまるで違う。ボロボロだった。
「エルフィリアは美しい。それはあなたの心が何よりも澄んでいて綺麗だから。きっと未来の私も今の私と同じように出会った瞬間に恋に落ちたんだ。間違いない。」
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