42 / 59
第二章
12
しおりを挟む「未来のアンリ様が私の事を……?」
そんな…そんな訳ない。
だって私達には何にもなかった。
今みたいになんでも話し合ったり、キスしたり、愛を育むような時間なんて何も…。
「それでもわかるんだ。自分の事だからね。」
「そんなものなの?」
「うん。とりあえず涙を拭こうか。」
用意がいい。まるで私が大泣きするのがわかっていたかのように懐からサッと布を取り出す。
「キスする前に拭いてあげれば良かったね。でもどうしてもキスしたかったんだ。ごめん。」
「ううん、アンリ様からして貰えて嬉しい。だから謝らないで?」
アンリ様は頬を赤く染めて笑う。
「エルフィリア…私はエルフィリア以外と肌を合わせる事は無いよ。だから安心して。」
でも夢の中のアンリ様はファルサと…
「未来の私も泣いていたんでしょう?きっと、死ぬより辛かったんだろうね…愛する人の命を奪った張本人を抱かなければならなかったんだ。」
「アンリ様はそんな事をしてまで一体何をしようとしているのかしら…」
命の契りを交わせばアンリ様の身体は自由になる。ファルサが生きている限りはその力を共有するのだ。神殿が聖女と呼ぶほどのファルサの力を。でももし…もしもその聖女がいなくなれば神殿の力は確実に弱まる……
「まさか……!まさかそんな事……!!」
「どうしたのエルフィリア!?」
「命の契りには掟があるの!契りを交わして命を分けて貰った者は決して自ら命を絶つような事をしてはいけない。何故なら…」
「何故なら?」
「その命は術者のものだから。命を共有するものが命を絶つという事は術者も死ぬと言う事。もしかしたらアンリ様は…未来のアンリ様は自分の命を絶つ事でファルサを……どうしようアンリ様!アンリ様が死んじゃう…!!」
取り乱す私をアンリ様は落ち着くよう諭す。
けれどとても冷静になんてなれない。未来のアンリ様は今のアンリ様と違うけど同じ人。死んでなんて欲しくない。生きて幸せな人生を歩んで欲しい。
「よく考えてエルフィリア。未来の私はゼノというグレンドールの魔法使いと行動を共にしていたんだよね?そして棺の中のあなたに“必ず帰してあげる”そう言ったんだよね?」
「そうよ。そしてゼノは使えないはずの回復魔法を使って死んだはずの私の身体を治療したわ。アンリ様はどうしてゼノと一緒にいたの?そしてゼノはあの日…ローゼンガルドがグレンドールへ侵攻してきたあの日、どうやって生き延びる事が出来たの?どうして回復魔法を…」
駄目だ。考えても考えてもわからない。
私があの鳥籠に囚われている間に外の世界では何が起こっていたのだろう。
「確かに今の私達には情報が無さすぎる。でもね、ひとつだけ私にもわかることがある。」
「ひとつだけわかること?」
「うん。おそらく未来の私は自死するつもりではない。自由な身体を手に入れて叔父上やギャレット、そしてファルサを擁する神殿と戦うつもりなんだと思う。そして、“帰してあげる”とはきっと…あなたを祖国へ帰すという事だと思う。」
23
あなたにおすすめの小説
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。
あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。
宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。
対極のような二人は姉妹。母親の違う。
お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。
そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。
天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。
生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。
両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。
だが……。運命とは残酷である。
ルビアの元に死神から知らせが届く。
十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。
美しい愛しているルビア。
失いたくない。殺されてなるものか。
それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。
生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。
これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる