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第二章
15
しおりを挟むアンリ様は私の言葉に驚き顔を赤らめた。けれどすぐに真剣な顔で私を見つめ言った。
「…嫌だなんて思わないよ。でもねエルフィリア、あなたとそういう関係になるのなら、どうか私の身体の事は考えないで欲しい。」
身体の事は考えない…どうしてなんだろう。
「でもアンリ様はいつか私と結婚してくれるのでしょう?それなら早い方が…」
アンリ様の身体が自由になれたらもっともっとたくさんの可能性が広がる。未来を変えるのには不可欠な事だとも思う。それにアンリ様とそういう事をするのは嫌じゃない。恥ずかしいし少し怖いけど。
「エルフィリア。私は…あなたと愛し合いたいんだ。」
「?愛してるわアンリ様。私達もう愛し合ってるでしょう?」
けれどアンリ様は困ったような顔をする。
何で?私、何か変な事を言った?
彼は何かを考え込んでいるようだ。
「アンリ様教えて?何がいけないの?」
アンリ様は私をもっと自分に引き寄せ耳元で囁く。
「…本当に教えて欲しいの?」
優しく耳の中に木霊する声に肌がぞわりと粟立つ。
好きなのになんだか怖い。アンリ様が少しだけ違う人みたい。でも…
「教えて欲しい。」
私がそう言うとアンリ様はゆっくりとクッションの上に私の身体を倒した。
切なそうな顔…。何でだろう。もしかしたら嫌なのかな…。
「違うよ…。止められるか心配なんだ。」
「止める?どうして止めちゃうの?」
「エルフィリアが嫌がるかもしれない。」
「嫌がったりしないわ。アンリ様のする事なら。」
アンリ様はしばらく私の頬を優しく撫でていた。とても心地よくて目を閉じてその感触を味わっていると、閉じた目の向こう側が暗くなり、アンリ様の唇がゆっくりと重なった。
いつものキス。だけどいつものじゃない。
初めてアンリ様と結ばれる前のキスはこれが最初で最後。たった一度しかない瞬間の、とても神聖なものに感じる。
お互いの温もりを交換し終えた唇は柔らかに溶け、熱を帯び色づいた。額に、頬に、順番に柔らかな唇が押し当てられ、首筋に下りてくる。顔を埋められ薄く肉付くそこを食まれると腰に痺れるような刺激が走る。
滑る舌にまるで味見するようになぞられて、嫌な気分どころか信じられないくらい気持ちいい。
(…まるでアンリ様に食べられちゃうみたい。頭がフワフワする…。)
唇は鎖骨へと下り、シュミーズとの境目で止まる。
(…………?)
止まったままアンリ様は動かない。視線を向けると彼は真っ赤な顔で私を見下ろしている。
「……アンリ様?どうしたの……?」
「…っエルフィリア…!何て顔をしてるの…!」
何て顔?一体どんな顔をしていると言うのだろう。ただ心地よさに身を任せていただけなのに。
エルフィリアの顔はとろんと溶けて瞳は潤み、それが上気した頬と相まってなんとも艶かしいものだった。
(落ち着け!まだ彼女は十三だぞ!!身体だってこれから成熟していく大事な時なのに無理にこんな……!!)
アンリはエルフィリアの身体を何より考えていた。もうすぐ二十を迎える自分の身体と十三のエルフィリアでは、必ずエルフィリアに無理を強いる事になる。
(……でもこんな…こんな顔をしてくれるなんて……)
「…嫌じゃないのエルフィリア?」
アンリの問いにエルフィリアは溶けた表情のまま答える。
「…嫌…?どうして?こんなに気持ちいいのに……。アンリ様、早く…」
“続きをして?”
そう言うようにエルフィリアはアンリの背中に手を伸ばす。
「だ、駄目だ!やっぱり駄目!エルフィリア!一旦止めよう?ね?」
「…どうして…?」
エルフィリアの顔が切なく揺れる。
「どうしてって……エルフィリアの身体も心も本当に私を欲しがってくれるまで待ちたいんだ…だから今日はもう…」
「嫌!」
「えぇっ!?」
エルフィリアは元気よく起き上がる。
「だってすごく気持ちよかったもの。夢の中にいるみたいだった…。アンリ様がもっと欲しいの!だから止めちゃうの嫌!!」
「ええぇっ!?ちょ、ちょっと待ってエルフィリア!!エルフィ……うわっ!!」
ボスッとアンリは後ろに倒された。もちろん鼻息荒いエルフィリアに。
そしてエルフィリアはアンリに力を与える事もギャレットの出自について聞くことも忘れ、この後しばらくアンリと格闘する事となった。
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