鳥籠姫は夢を見る

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第二章

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    呪い殺されたように……。
    ノエリア様の従者の話しだと呪殺はシャグランの民の得意とするもの。

    「エルフィリア。シャグランの民の事はこちらで調べてみる。何かの手掛かりになるかもしれないしね。」

    「アンリ様お願いだから危険な事だけはしないでね。」

    いくらファルサの執着で守られているとはいえ、そんな事をしていたとバレればただでは済まないはずだ。

    「あなたもだよ。」

    「私?」

    「そう。エルフィリアはどんな時も恐れずに行動する。素晴らしい事だけどそれは時に危険だ。」

    「わかってる。必ずアンリ様の元へ帰れるように気を付けて行動するわ。」

    「うん…。忘れないでエルフィリア。私とあなたはひとつのものだよ。」

    アンリ様はとても真剣な顔で言う。
    ひとつのもの?
    まだひとつじゃないわ。だって命の契りを交わしていないもの。

    「ううん。もうあなたの存在は私の命そのもの…あなたに何かあれば私は生きて行けない。だから絶対に無茶だけはしないで。」

    「わかったわ。」

    私の命は私のもの。けれどアンリ様のものでもある。そう思うと自分の命に対して今まで感じた事のない愛しさが湧いてくる。
    抱き合ってアンリ様の胸に耳をあてると規則正しい心臓の音。

    「アンリ様の存在も私の命そのものよ…」

    彼は返事をする代わりにぎゅうっと私を抱き締めた。



       ***



    「本当にいいの?アンリ様…。」

    「いいよ。大切に預かるから心配いらないよ。」

    翌朝グレンドールへと帰ろうと二匹を抱くと、スルリと腕から抜け出てアンリ様から離れなくなってしまった。

    「ぶにゃっ!!」
    「ぶにゃにゃっ!!」

    シャーッと逆毛まで立てられて、飼い主の威厳丸潰れである。

    「もう…アンリ様に迷惑かけちゃ駄目よ!アンリ様…よろしくお願いします。」

    「うん。行ってらっしゃい。」

    アンリ様の唇にキスを一つ落として私は飛んだ。



         ***




    そして私はノエリア様の部屋で悩んでいた。

    「うーん…やっぱり長期戦になりそうね…」

    弱った身体に一気に力を入れるのは良くない。けれどノエリア様の力の器は相当なものなのだろう。まだ二日目だからという事もあるが、その器には全然力が貯まった感じがしない。
     (…それにしてもサニーはどうして出て来ないのかしら。)
    サニーに聞きたい事がある。アンリ様の匂いが一体何だと言うのか。確かにアンリ様はとってもいい匂いだ。それは間違いない。あの二匹だって一発で虜になるほどの……ん?
    そうだ…あの子達もアンリ様の匂いを激しく嗅いでいた。
    
    ・・・動物に、好かれる匂い・・・?

    絶対違う!しっかりしろエルフィリア!そんな訳あるか。

    「…ノエリア様の目が醒めればきっともっと何かがわかるのに…。」

    しかしノエリア様の目は固く閉じられたまま動かない。

    「また、明日来ますね。どうか良い夢を…」

    私はノエリア様の手を擦り、部屋を後にした。


       ***


    「やぁ、エルフィリア。」

    「サシャ様、おはようございます!」

    サシャ様は今日は特別な眼鏡の調整だ。
    普通の眼鏡では思うような視力が得られないサシャ様のために、魔力の込められたレンズが入った特注品だ。

    「うわぁ…凄い!!」

    眼鏡をかけた途端、サシャ様から感嘆の声が出た。
    
    「あんな遠くまで見えるよ!凄いや!」

    美しい瞳を驚きと好奇心で目一杯開いてはしゃぐサシャ様に自然とこちらも笑顔になる。

    「エルフィリアの顔もよく見える!すごく綺麗だよエルフィリア!」
    
    「えっ!?」

    「あっ…いやその…僕になんて褒められても嬉しくないよね…はは。」

    サシャ様はいつも発言が後ろ向きだ。
    男の人に褒められて嬉しくない女の子なんていないと思う。でもサシャ様は…私から見たら素晴らしく美しい容姿だけど、エストリアでは奇異の目で見られてきた。嫌な思いをたくさんされたせいでご自分に自信が持てないのね、きっと…。    

    「サシャ様、ありがとうございます。ちょっと照れ臭いけど、褒めてもらえてとっても嬉しいわ。」

    「エルフィリア…ううん。だって本当に綺麗だから…。」

    「うふふ。城の皆もサシャ様は王子様なのにとっても腰が低くて皆に気を遣って下さってるって言ってた。サシャ様は優しくてとても素敵な人だわ。」

    「…そんな風に言われたの初めてだよ…。ありがとう…エルフィリア。」

    辛い思いをたくさんしてきた人だから誰よりも優しいのかもしれない。アンリ様もそうだ。あんなに優しい人を私は知らない。

    「この国はとても居心地がいい…。僕のこの姿を見ても誰も変な目で見ない。皆が笑顔で普通に接してくれるんだ。初めてだよ、知らない人達とこんなに話したりできたの。」

    「あらサシャ様、グレンドールには変わった人なんてたくさんいるんだから当たり前よ?」

    「変わった人?」

    「えぇ。巨大な火の玉を周辺諸国へ飛ばしまくる大馬鹿者もいれば、変身魔法を失敗して何年も元の姿に戻れない人もいるわ。顔だけクマなの。」

    「クマ!?」

    「ええ。でもクマって縁起のいい動物だから皆も喜んでるの。周りだけね。本人は死にそうなくらい落ち込んでるわ。」

    「ははははは!何それ!?なんで治してあげないの?」

    「自分でかけた魔法の失敗は自分に返ってきちゃうの。しかも厄介なのは自分でしか治せないところなの。私の見立てだとその人あと数年はクマのままね。」

    サシャ様は“そんなに!?”と言ってまた笑う。

    「いいなぁ…ここは幸せの国だよ。緑もたくさんでとても美しい。僕もここに暮らしたい。」

    「あら、ならそうしたらいいんじゃない?」

    「えっ!?」

    「もちろんずっとここにいたらお父様やお母様が淋しがるだろうから、年に何回か行き来するとかすれば大丈夫じゃないかしら。」

    「でっ、でもそんなの本当に良いの!?」

    サシャ様は信じられないとでも言いたそうだ。

    「…私、サシャ様に必要なのは魔道具もそうだけど、自由に生きる練習だと思うわ。」

    「自由に生きる…練習?」

    「サシャ様は今までたくさん辛い思いをしたから我慢が上手になりすぎたんじゃないかしら。たくさんの人にいつも気を遣って…それはとても素晴らしい事だけど、そればかりじゃ疲れてしまうわ。」

    「エルフィリア…。」

    「グレンドールはね、何よりも心の在り方を大切にする国なの。見た目や人種なんて誰も見てないし気にしてない。だからサシャ様がこの国を気に入ったのならここで暮らして大丈夫よ。だって私達、もう友好国でしょ?」

    「うん。そう聞いてる。こんな僕を両親は溺愛してるもんだから…恥ずかしいけどね。だからエストリアは何があってもグレンドールの力になるよ、きっと。」

    サシャ様なんて優しいの!!今のグレンドールにそれはとてもありがたい言葉だ。
    …でもちょっと待てよ…サシャ様に簡単に“この国にいれば?”とか言っちゃったけど、もし私がローゼンガルドの侵攻回避に大失敗した場合、この優しいサシャ様を巻き添えにしちゃうって事よね……ん!?
    それまずいよ!!しかもサシャ様両親に溺愛されてるって言ったよね!?そしたらサシャ様人質とかに取られちゃってエストリア大ピンチ!!最悪サシャ様殺されちゃうんじゃない!?

    「だ、駄目ーーーー!!!」

    「エルフィリア!?どうしたの!?」

    「サ、サシャ様!!やっぱりよく考えた方がいいかも!」

    「えっ!?」

    「私あんまり考えないでものを言っちゃう悪い癖があるの!そのせいでよくお父様にも叱られてて!!だからサシャ様もご両親に相談してから決めたらいいと思うわ!!」

    一気に捲し立てる私をサシャ様は目も口も大きく開いて見てる

    「…無理しなくていいよエルフィリア…。やっぱり僕みたいなのがこの国にいたら迷惑かけちゃうよね……」

    「ちちちちちち違ーーう!!!サシャ様それは違うの!!」

    「いいんだ…慣れてるから大丈夫だよ。」

    切なげに微笑んでる!!駄目だ!!完璧に誤解してる!!どうする!?どうする私!?
    そうだ!!ちょっぴり嘘だけどちょっぴり本当の事を話せばいいんじゃないかしら!?
    幸い極悪非道な奴が滞在中だし……!きっとサシャ様なら黙っていてくれるだろう。


    「あのねサシャ様…実はね………」


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