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第二章
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しおりを挟む「ローゼンガルドの王子が君に暴行を!?」
「ちょ、ちょっとサシャ様!もう少し声を小さく!!」
私は誤解させてしまったサシャ様に、ローゼンガルドとの関係が今のところ良好でない事(主にギャレットのせい)と、開国した直後でグレンドールでのサシャ様の安全を保証出来ない事を伝えてみた。
「確かにこんなに素晴らしい国であればよからぬ考えを持つ奴らもいるだろうね…。しかもグレンドールには最低限の武力しかない。武力を持たない事がモットーなのは素晴らしいのだけれど、周りからすれば都合がいいよね…。」
サシャ様は何やら難しい顔をしてしばらく考え込んでいた。
「…サシャ様が危険な目に遭うような事だけは嫌だわ。」
これは本当の気持ち。この国に来たせいで彼の命が危険に晒されるのだけは避けたい。
「エストリアとグレンドールが軍事同盟を締結する…って手もあるけれど…それだと逆にエストリアをよく思わない国からグレンドールまで被害を受けてしまうかも知れないしね…うーん。困ったね。」
でもこの国にいたいと彼は言う。
「サシャ様そんなにこの国の事を気に入ってくれたの?」
「うん…。この国もそうだけど…。」
「けど?」
「…ううん。何でもないよ。…ここにいれば自分の容姿を気にせず自由に生きていける気がするんだ。この国での僕の身の安全は自分で何とかするから大丈夫。それと…グレンドールの安全についても父上達と話し合ってみる。何か良い案が浮かぶかもしれない。」
「ありがとうサシャ様。とっても心強いわ!」
***
サシャ様の用事が済んだ後、私は同じ魔道具の工房で先日依頼していた魔力を封じる道具が完成したと知らせが来たため、それを見せて貰っていた。
だが…やはりと言うべきなのか、力を封じるための腕輪は五分と持たずバリバリと割れていった。
「おぉぉぉぉぉぅ……!!」
鍛治職人が声にならない悲鳴をあげて膝から崩れ落ちる。
「ご、ごめん…悪気はないの。力がありすぎるだけなの……。」
しかし困ってしまった。これではファルサに近付く事も出来ない。
「姫様…こんな事もあろうかともうひとつだけ用意があります。」
なぬ!?最悪の事態を考えてもう一つの代替案を用意するとはさすが王家お抱えの鍛冶職人!頼りになるわ!
そして鍛冶職人は工房の奥からなにやら巨大なものを引っ張り出してきた。
「…なに…これ……」
…前言撤回だわ…。
満を持して私の目の前に現れたのはモフモフの巨大な猫の着ぐるみだった。
「どうです姫様!?」
鍛冶職人は満面の笑みで聞いてくる。どうやら相当な自信作のようだ。
「ど、どうもこうも…一体何なの?この着ぐるみ。」
「ご自分の存在と魔力を隠すためにと仰ってらしたので作ってみました!見て下さいここ!」
そう言って鍛冶職人は裏地を見せてくれた。
「こ、これは……!!」
「そうです!裏地には魔力封じの呪文を特別に力を込めて紡いだ糸で刺繍し、更にはその威力を上げるために贅沢にもこんなに魔石を縫い付けてあります!!」
我が国の優秀な魔法使い達が力を込めた魔石がふんだんに使用され、呪いかと思うほどに何回も綴られた呪文。
“ぜひ入ってみて下さい!!”と言われ、恐る恐る足を入れ、私は巨大な猫となった。
「すごい…!!魔力が漏れずに内側に貯まって行くのがわかる!!完っ璧だわ……でも何で猫?」
「あぁそれは、姫様が最近猫を飼われたと聞いたもんで!どうです?可愛いでしょう?これなら置物としても通せます!隠れるのにバッチリ!」
…飼いたくて飼った訳ではないのだが…。
私が微妙な面持ちでいると彼は“でも一つだけ問題が…”と難しい顔をする。
「問題?何が問題なの?」
「…これは魔力を内側に封じた状態で、貯まった魔力の逃げ場がありません。なので時間が経てば経つほど内部の魔力濃度が上がっていきます。あまり長い時間着用すると魔力酔いを起こしてしまう可能性が高いです。」
「なるほど…私の魔力ならどれくらい持つと思う?」
「…うーん…おそらく二十分が限度と言ったところでしょうか…。」
「二十分か…わかったわ!ありがとう!」
そして私は今宵巨大な猫になりアンリ様の元へ飛んだのだった。
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