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第6話
しおりを挟むアベルとふたり、自宮への道のりを歩く。
背が高く、当然脚も長いアベルだが、さり気なくエミリアンと歩調を合わせてくれていた。
(ちゃんと気遣いができる人なんだな)
エミリアンは、ちらりとアベルの横顔を盗み見る。
何度見ても整いすぎた顔だ。
「殿下」
「は、はい!」
盗み見がバレたのかと思って肝を冷やしたが、どうやら違ったようだ。
「……先ほどの者たちが、今日のことをディオン殿下に告げ口するかもしれません」
「あぁ……」
もちろんその場合は当然事実を歪曲してだろう。エミリアンも考えなかった訳じゃない。
「正直、あのようなことは一度や二度ではありません」
アベルによると、第二騎士団はなにかにつけて第三騎士団に言いがかりをつけてくるそうだ。
「第一騎士団には?同じようにしているのですか」
「いえ、我ら第三騎士団のみです」
「そうですか」
長兄シルヴァンの第一騎士団には手を出さないあたり。ずる賢いディオンのやりそうなことだ。
なぜディオンが第一騎士団に手を出さないのか。
それはただ単に、自分がシルヴァンに敵わないことを知っているのと、兄弟間でいざこざを起こして父親の機嫌を損ねたくないのだろう。
シルヴァンは頭脳明晰なだけでなく、高い身体能力も兼ね備えている。そしてなにより王妃が産んだ唯一の王子だ。
それに比べディオンは、座学も剣も秀でたところがまるでなく、おまけに癇癪持ちで有名な第二妃の生んだ王子。
幼い頃より否が応でもシルヴァンと比較され、鬱憤を溜めていた。
おそらくそれを第三騎士団にぶつけることで解消しているのかもしれない。
アベルは口にはしないが、おそらくディオン本人も、なにかしら嫌がらせに加担しているはずだ。
直接的な指示はなくとも、常にシルヴァンへの劣等感に苛まれているディオンに感化された第二騎士団が、手っ取り早い憂さ晴らしの相手に第三騎士団を選ぶのもうなずける。
エミリアンならどうせなにも言わないだろうと、高を括っているのだ。
「私の無関心のせいで、みんなをつらい目にあわせてしまいましたね」
それだけじゃない。
これまでの三度の人生はもちろん、今生でも第三騎士団の来し方行く末など微塵も考えはしなかった。
エミリアンが処刑されたあと、彼らはどうなってしまったのだろう。
解散だけならまだいいが、もしエミリアンと同じく叛意を疑われて処刑なんてことになっていたら……
(そんこと、あってはならない)
生き残りたい。
けれど、生き残った先にはまだ見ぬ人生が続いている。
これまでのように自分のことだけを考えていては、いつかまた危機は訪れる。
残念だが生まれ落ちた場所が普通ではないのだ。
自分が生き残るために彼らを利用するのは間違っている。
(自分自身も、彼らの未来のためにすべてを差し出す覚悟をしなければ)
「フランクール団長。もしも今後同じことがあった場合、不当な言いがかりについては毅然とした態度で対処するよう団員に伝えてください」
「しかしそれでは──」
「すべての責任は私がとります」
言ってから、その言葉の重さが頼りない両肩にのしかかる。
それでもエミリアンには今目の前にある問題から目を逸らす訳にはいかない。
やるしかないのだ。
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