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12 三か月前の真実① エミル

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 三か月前。
 それは国境沿いの砦へと、馬車で視察に向かう途中。
 ヤノシュ伯爵領を通過しようという時だった。
 地鳴りのような重低音と共に、御者の悲鳴を聞いたのが最後。
 凄まじい衝撃が車体に襲いかかり、全身を激しく打ち付けた私は意識を失った。


 「っう……!」

 身体中突き刺さるような激しい痛みに目を覚ますと、薄暗い部屋の天井が目に入った。
 光の差し込まない部屋はじめじめとしていて、澱んだ空気が室内を満たしている。
 (ここはどこだ)
 痛む頭で記憶を総動員し、不測の事態に巻き込まれた事だけは思い出した。
 従者たちはどこにいるのだろう。
 痛みをこらえながら首を動かし、周辺を見るが、人の気配はない。
 しばらくそうしていると、少し離れた所から扉の開く音がした。

 「お、お目覚めでございますか?」

 声のする方へ視線を向けると、そこには見慣れない顔の男が立っていた。
 朦朧としていたせいもあり、それがヤノシュ伯爵だと気付くのに少しの時間を要した。
 だがそこで、事故に遭ったのがヤノシュ伯爵領付近であったことを思い出した。
 私はすぐさま、事故の詳細と部下の安否を尋ねた。
 ヤノシュ伯爵によると、我々は落石事故に巻き込まれたのだという。
 領民から知らせを受けた彼が急いで現場に駆け付けると、そこは目を覆いたくなるほど凄惨な状況だったそうだ。
 部下の大半は巨大な落石の下敷きとなり、私は乗っていた馬車の車体に守られ運よく助かったらしい。
 他にも生き残った者は数名いて、現在別室で手当てを受けているとのこと。

 「それは……すまなかったな。迷惑をかけた」

 「そんな!帝国の若き太陽をお救いすることができただけで、大変名誉なことにございます。粗末な我が家ではございますが、お身体が回復されるまで、どうぞごゆるりとお寛ぎください」
 
 この時の私は襲い来る痛みから気を逸らすことが精一杯で、自分の置かれた状況にまったく気付いていなかった。


 (粗末と言うが……これを粗末と呼んだら本当に粗末な家が可哀想だろう)
 それが、次に目を覚ました時最初に思ったことだった。
 ヤノシュ伯爵領は確かに豊かとは言えないが、貴族としての体面を保つために必要な、最低限の収入くらいはあるはずだと記憶している。
 (いくら困窮してても普通窓くらいあるだろ……)
 エミルの部屋は一面壁で、窓らしきものや、壁に取り付けられたカーテンも見当たらない。
 (まさか……ここは地下なのか?)
 部屋としての体裁はかろうじて保ってはいるものの、空気の流動が感じられないのは、おそらく窓の有無のせいではないだろう。
 まずいことになった。
 確証はないが、嫌な予感はほぼ的中だろう。
 だがそれと同時に、この状況下で熟睡していた私は、自分の生命がいかに危機的状況だったのか思い知る。
 しかし今のところヤノシュ伯爵が私に手出しをする様子はなく、治療も適切に行われている。
 ただヤノシュ伯爵は、最初に挨拶をしたきり、この部屋に姿を見せていない。
 (まだだ)
 とりあえず、何も気付いていないふりをしてやり過ごそう。
 すべては身体が動くようになってからだ。






 
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