もう、追いかけない

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 「え?きゃあっ!!」

 頼むからそんなに可愛い悲鳴を上げないでくれ。
 このままそこにある寝台に下ろし、組み敷いて永遠に啼かせたくなる。
 少し力を加えたら、折れてしまいそうなほど華奢な腰。
 それなのに、布越しにもはっきりと伝わる柔らかで豊かな感触。
 バクバクとうるさい心臓の音が、鼓膜にまで響いてくる。

 部屋を出ると、廊下には既に殺されていたコートニー侯爵家の騎士に加え、ラデクが相手をしていた元部下の遺体が横たわっていた。
 ラデクの腕なら生かして捕らえることは十分可能だったはず。
 それなのにこうなったということは、相手は徹底抗戦の構えを見せたのだろう。
 捕まればどのみち命はない。
 それならば例え万が一だとしても、逃げおおせる可能性に賭けたはずだ。
 
 聞かせたくはなかったが、ラデクからルツィエルと顔馴染みの店主夫妻も殺されていたと報告が。
 その瞬間、ルツィエルの身体に力が入り、固まってしまった。
 (夫妻の人柄を随分気に入っていたようだから……当然だな)
 周囲の人間の命がこんな風に奪われるなんて、ルツィエルには初めての経験だ。
 さぞかしつらいだろう。
 けれど乗り越えてもらわなければならない。
 君の夫になる男は、こんな出来事など日常茶飯事だ。
 幼い頃から命も貞操も、星の数に勝るほど狙われてきた。
 二十八になり、ようやく幸せを掴めると思った。
 それも心から望んだ女性ルツィエルと。
 これからは何事にも真摯に取り組まねばと、少しだけ心を改めて視察に出掛けたら、巨大な岩は落とされるし、偽物に取って代わられた。

 「私を殺そうとしていた者たちの正体を知っているのですか?」

 「……(知ってるなんてもんじゃない。でも君は知らなくていい。もうすぐこの世から消える奴らだから)」

 「あなたは一体誰なの?」

 「……(君が選んだ君だけの妖精だ)」

 ルツィエルを抱えたまま宿を出ると、置いてきた残りの仲間も到着していた。
 私は名残惜しい気持ちを必死で抑え、ルツィエルを馬車に乗せた。
 踵を返した瞬間、ルツィエルの縋るような叫びが辺りに響いた。
 
 「ま、待って!お願いだから帝都に帰らせてください」

 (まだ諦めていないのか)
 自分の命が狙われた理由をそんなに知りたいものだろうか。
 これまでだって、些細な嫌がらせ程度なら受けたことがあるだろうに。
 コートニー侯爵家は名家だ。
 政敵だって少なくはない。
 それに加えルツィエルは私の婚約者に内定していたのだ。
 例え婚約が白紙になったとはいえ、皇太子妃の可能性を有している事に変わりはない。
 狙われる理由を理解するにはそれで十分だと思うのだが。
 不思議に思った私は、ルツィエルに聞いてみることにした。
 
 「なぜ?」

 「な、なぜって……」

 「お前を殺そうとした者たちは帝都から来たんだぞ。また同じ目に遭うとは思わないのか」

 ルツィエルは、私の言葉でさっきの出来事を思い出したのか、黙ってしまった。
 (まだ十八だ。怖くて当たり前だ)
 これ以上の問答は酷なだけ。
 未練が残らないよう、振り返らないまま前へ踏み出そうとしたその時だった。

 「この命よりも大切に想う方がいるのです!!」

 ルツィエルの発した一言が、私の足を止めたのだ。








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