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しおりを挟む(なにがなんでも私を王妃にって、お父さまがゴネていたせいよね、きっと)
あの時父が素直に王命に従うなりしてくれれば、アルベールもサラから命を奪うまではしなかっただろうに。
だって六年も一緒にいたのだ。
サラはアルベールを愛していたが、彼が同じ気持ちでなかったのは明白だ。
その証拠に、彼がサラを見つめる目には、熱がこもっていなかった。
けれどマリに出会うまでのアルベールは、サラに対し家族に向けるのと同じか、それに近いくらいの情は持っていてくれたのではないだろうか。
(私がそう思いたいだけなのかもしれないけれど)
だからつらいけれど、今世はその『情』に思いっきりつけ込んで、なんとか婚約を解消してもらうしか生きる術はない。
そのためにはまず、一番の障害である父をなんとかしないと。
けれど、これといった理由もなしに父を説得することは不可能だ。
サラはとりあえずアルベールとの接触を控え、打開する方法を探ることにしたのだが──
「サラ、具合はどうだい?」
サラの気も知らず、今日もだだ漏れる美貌を垂れ流すアルベール。
しかしここは彼の美貌に耐性がある百戦錬磨の侍女たちが巣食う王宮とは違う。
サラの生家オースウィン侯爵家だ。
婚約解消に向けての第一歩として、体調不良を理由に月一のお茶会を断ったのだが、するとアルベールから見舞いに行きたいとの旨が記された手紙が届いた。
当然のことながら、王太子殿下の申し出を断るわけにもいかず、彼を迎えることになったのだが、その美しさに耐性のない使用人たちは出だしから大変な騒ぎだった。
古参の侍女はなんとか踏ん張ってくれているが、年若い娘は皆アルベールの輝きに目を奪われ仕事にならない。
なので現在部屋の中で給仕にいそしむのは年嵩の侍女ばかり。
「アルベール様にわざわざ我が家までお越しいただくなんて、ご心配おかけして申し訳ありません」
サラは、テーブルを挟んで対面のソファに座るアルベールに頭を下げた。
「そんなよそよそしいこと言わないで。心配するのは当然だろう?私たちは婚約者なんだから」
記憶がよみがえる前のサラなら、彼の訪問と気遣いの言葉に泣いて喜んだことだろう。
けれど今はアルベールと話せば話すほど過去の記憶がより鮮明となり、気分は急降下だ。
そう、例えば前世最後に見た彼の姿──いや、姿というか部分。
結婚すればいつかは拝むであろうそれを、サラは普通なら一生縁のない角度から見てしまったのだ。
この形容しがたいとんでもない気持ちがおわかりいただけるだろうか。
「サラ?」
俯いて黙り込んでしまったサラの顔をアルベールが心配そうに覗き込む。
なんて美しい肌なのだろう。
だから、あそこの色合いも美しかったのだろうか……
(はっっ!私ったらなんてことを……!!)
はからずも彼の局部(注 裏側)を思い出してしまったサラの頬は羞恥で真っ赤に染まった。
「サラ、やっぱりまだ熱があるんじゃ──」
アルベールは立ち上がると、サラの隣までやってきて腰掛けた。
すると大きな手が前髪をかき分け、アルベールの額がサラのそれに合わさった。
「ひゃあっ!!」
慌ててのけぞるサラの華奢な身体にアルベールの逞しい腕が回り、がっしりと抱え込んだ。
「急に後ろに下がったら危ないよ」
「す、すみません……」
「熱はないみたいだね」
息がかかるほどの至近距離にアルベールの顔があり、サラの胸が痛いほどに打ちつける。
(アルベールさまに聞こえちゃう……恥ずかしい)
「サラ、なにかあったの」
「えっ……?」
「この前の茶会の時も様子がおかしかった」
「それは……」
「もしも私に対し、心にため込んでいることがあるのなら話して欲しい」
言えない、そんなの。
ぽっと出のわけのわからない女にあなたを取られた上に、異様に綺麗な臀部と局部全体の裏側を見せられ人生を強制終了させられたなんて。
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