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第一章
6 別れ
しおりを挟む皇宮に着くと父は様子を見てくるから私に馬車の中で待つように言った。けれどしばらく経っても父は戻って来ない。
雨が車体を打つ音に混じり人の足音が近付いてくるのが聞こえた。
「お父様?」
窓を開けるとそこには数名の騎士。
「クローネ侯爵令嬢アマリール様ですね?ルーベル殿下がお待ちです。どうぞこちらへ。」
何故私が来たことがバレているのだろう。
まさかお父様が捕まって……?
「…父はどこですか?」
私の質問に騎士の一人が答える。
「クローネ侯爵はこちらで丁重におもてなしさせていただいております。どうぞご心配なさらずに。」
おもてなし…。それが言葉の通りでありますようにと祈る事しか出来なかった。
***
「…久しぶりだな。」
その金色の瞳は相変わらず冷たい。
「…ハニエル様はどちらですか…?今日殿下に呼ばれ皇宮へ向かわれたと父から聞きました。」
「ハニエルの事はお前には関係ない。それとも…あるのか?関係が。」
「…ハニエル様は傷付いた私を保護して下さったのです…!恩人の身を心配する事はそんなにおかしな事でしょうか?」
ルーベル殿下は黙ったまま私を見ていた。心の中でも見透かそうとしているのだろうか。
「…ハニエルは牢に繋いだ。」
何ですって!?ハニエル様を牢に繋いだ!?
「何故です?何故ハニエル様が牢に繋がれなくてはならないのです殿下!!」
「何故…だと?あいつは人のものに手を出したんだ。しかも次期皇帝たるこの俺のものにな。当然の報いだろう?」
そんな…それに俺のものって…私の事を言っているの?私は誰のものでもない、私のものなのに。
「挙げ句お前と結婚するから俺に手を引けなどとぬかしたんだ。立派な反逆罪だ。そうだろう?アマリール。」
「ハニエル様……!!」
そこまで…そこまで私との事を考えていて下さったの…?
…もう十分だ…私にはハニエル様のその気持ちだけでもう…。
「……殿下……」
「何だ。奴の命乞いなら聞かんぞ。」
「…これをご覧下さい。」
私は人払いをお願いした後、彼の前で靴を脱ぎ、ストッキングを外した。
「あの日…殿下が私の事をお求めになったあの日、私は突然の事で悲しくて悲しくて部屋を飛び出しました。靴が見当たらなかったために裸足で…。」
彼は私の足の裏に残る生々しい傷痕を見て眉間に皺を寄せた。
「ハニエル様はその日、マデラン侯爵家のシャロン様とのご婚約が内定された事を陛下に報告するために皇宮を訪れていらっしゃいました。姉のように思う私が庭園で血だらけになって泣いているのを見て、放っておけなかったのでしょう。…昔から誰にでも平等にお優しい方です。」
ハニエル様とシャロン様の婚約内定の話は知っているのだろう。彼は何も言わず黙って私の話を聞いていた。
「その後は…幼い日々、昔よく二人で遊んだ公爵邸で心の傷を癒すよう計らって下さいました。」
半信半疑で聞いているのだろう。成人した男女が二人きりで過ごしていたのだ。何もないと言うのは考えられない。しかし彼にはほんの少し耳を傾ける余地があるのだ。それは私達が本当の姉弟のように仲が良かったのを彼はずっと間近で見てきたから。
「私達の間に殿下が疑われるような事など何もありません。ですから…ですからどうか…!!ハニエル様をお許し下さい!!」
私は彼の前で跪き、必死で頭を垂れた。
そしてしばらくの沈黙の後彼は口を開いた。
「…お前の言うことが本当だと言うのならここで誓え。」
「…誓う…?」
「そうだ。私の妃となり、もう二度とハニエルには会わないと。」
「もう…二度と……?」
彼の目は恐ろしいほどに真剣だ。
きっと私が断れば、ハニエル様を殺すつもりなのだろう。
「せめて最後に一目だけ…お別れだけでもさせていただけませんか…?」
最後にあの美しいエメラルドグリーンの瞳を、ふわふわの金の髪を、優しい微笑みを目に焼き付けたい。
「駄目だ。」
しかし彼は無情にも瞬き一つせず却下する。
「誓え。生涯私だけを愛すると。ハニエルとはもう会わないと。」
ハニエル様………!!
処刑台に向かう罪人はこんな気持ちなのだろうか。
力の入らない身体を引きずるようにして一歩ずつ前へと進む私にルーベル殿下はその手のひらを差し出した。
泣いちゃ駄目だ…どんなに辛くても泣いたらハニエル様が殺される…。
私は跪き、その手のひらに口付け誓った。
「…わかりました…誓います。生涯この心と身体はルーベル殿下だけのもの…。私のすべてをあなたに捧げます…。」
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