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第一章
11 受け継がれる恨み
しおりを挟むルーベルが自宮にクローネ侯爵令嬢を招き、そのまま滞在させているという話はあっという間に社交界を駆け巡った。
今まで国内外から山のように届く縁談を頑なに断ってきた血の皇太子のクローネ侯爵令嬢への寵愛が明らかなものとなり、エレンディール国内は二人の恋の物語の憶測に大いに沸いた。
「やっとやりおったかルーベルめ!!なんとめでたい!そう思わんかマデリーン!?」
「えぇ陛下、やっとですわ。ルーベルも頼もしくなったものです。」
この日皇帝アヴァロンは上機嫌だった。
朝の拝謁の時間には妃達を呼び、息子である皇太子の話に顔を綻ばせていた。
「お膳立てしてやろうにもあいつが許さんからヤキモキして見ておったが…どうやらうまくやったようだな。なんでもアマリールを自分の寝所に閉じ込めて外に出さぬと…まったくあいつは…そんなに惚れているのならもっと早く手を打てば良かったものを。」
アヴァロンは幾度となくルーベルにアマリールとの婚姻を後押しする提案をしてきたが、ルーベルは決してそれを許さなかった。
「ルーベルの頑ななところは陛下にそっくりですわ。それに欲しいものは必ず自分の手で手に入れるところなんて特に…うふふ。」
皇后マデリーンも上機嫌だ。次期皇帝たる息子。その妻の生家の財力は多ければ多いほど自分にも利がある。
「アマリールは聡明な子だ。必ずやルーベルを支える良き皇后となろう。そうだ、二人の婚儀が済み次第ローザ、お前の結婚も考えねばな。」
急に予想もしていなかった話を振られたローザと第三皇妃のシェリダンは焦りの色を顔に浮かべた。
「ま、まぁ陛下ったら!ローザはまだまだ子供ですわ。嫁ぐにしてももう少し勉強させませんとお相手にご迷惑が…。」
「あら、でもローザ様はもう十五歳でしょう?ご婚約の相手くらいは決められた方が…ねぇ陛下?」
シェリダンは皇后マデリーンの言葉に心の中で舌打ちをした。ローザは皇女とはいえシェリダンの連れ子。皇家の血を引いていない彼女の嫁ぎ先は他の皇女殿下方のような王族譜に名を連ねる先ではなく、有力な臣下あたりが妥当なところだ。
「御心配ありがとうございますマデリーン様…。けれど今は何よりルーベル殿下の事が先でございますから。この話はまた今度でよろしいですか陛下?」
「おお、そうだったな。今は何よりルーベルの方が先だ。よし、まずは国民へルーベルとアマリールとの婚約を発表する場を設けよう。ロイド!ルーベルを…いや、あいつは今頃アマリールの側にいるだろうからゲイルを呼べ!日程を調整するぞ!」
アヴァロンは長年側近を務めるロイドにルーベルの側近ゲイルを呼ぶよう命じた。そしてその場にいた者達には公式の行事となるので準備をしておくようにと告げ、朝の謁見を終わりにした。
***
「…まったく何をやっているのローザ!!」
シェリダンが乱暴に放った扇がバチンと音を立ててローザに当たった。
「ごっ、ごめんなさいお母様…!!でも、でもあの泥棒猫が!!」
「黙りなさい!!皇女たるものが“泥棒猫”だなんて…何て下品な言葉遣いなの!?」
シェリダンはこうやって気楽な末端貴族の暮らしが抜けないローザを事あるごとに折檻していた。それもこれも自慢の美しさのみで入宮してきた自分達を“これだから下賎の出は…”と罵ってきた王の一族と妃達のせいだ。
「なんでもっとしっかり殿下の心を掴んでおかないの!!このままじゃ私達はこの皇宮で一生蔑まれて終わるのよ!そうならないためにはあなたが殿下の心を射止めるしかないって何度言ったらわかるの!?」
ローザは母の言葉に悔しそうに口を噛み締める。
「でもお母様!あの女…いつもお義兄様の気を引こうとして私の邪魔ばかりするのよ!!お義兄様は私のことを何よりも想って大切にしてくれてるのに…!!」
「それなら身体でも何でも使えるものは使って早くモノにしてきなさい!いい?あなたが殿下と結婚すれば私みたいに下賎な皇妃と蔑まれる事もないわ。皇后よ!皇后になれるのよ!?わかったなら早くなさい!!」
「…わかりましたお母様……!!」
【お前がローザか。】
初めて会った日を今でも忘れない。
透き通る黄金色の瞳と日の光を受けて艶やかに光る漆黒の髪。
慣れない皇宮でバカにされていた私にいつも声をかけてくれた優しい人。
猫のようにしなやかなのに見た瞬間芯が疼くほどに美しく逞しいその身体。いつかその腕に抱かれる日を夢見て生きてきた。
「お義兄様は絶対に渡さないわ…アマリール…!!」
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