侯爵令嬢は前世で冷酷夫だった皇太子に挿入られている最中に思い出す

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第一章

13 婚約

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    ルーベル皇太子とクローネ侯爵令嬢アマリールが国民の前で婚約を発表するという知らせが国中を駆け回る中、ここアルザス公爵邸にも式典への招待状が届けられていた。

    「アマリールがルーベルと婚約!?何かの冗談でしょう父上!?」

    息子の剣幕が何故なのかよく理解しているアルザス公爵リシャールは深い溜め息をついた。

    「ハニエル…お前は一時だが投獄されたんだぞ。これ以上クローネ侯爵令嬢には関わるな。忠告ではない、命令だ。」

    今回は運良く助かったが気性の激しい血の皇太子に二度目は無いだろう。加えてルーベルのクローネ侯爵令嬢への寵愛は今や国中の人間の知るところとなった。これ以上関わればアルザス公爵家が醜聞にまみれる。

    「僕とアマリールはもう身も心も結ばれた仲なんだ!僕の妻は彼女以外にいない!!父上だって僕の気持ちをずっと昔から知っているでしょう!?」

    「これはそんな簡単な問題じゃないんだ!お前一人の身勝手で家族の命まで危険に晒す気か!?頭を冷やせ!」

    いくらリシャールが皇帝アヴァロンの実弟だとはいえ、息子であるハニエルが皇帝の溺愛する皇太子の婚約者を寝取ったとなれば息子の命を取られるだけでは決して済まない。一族郎党に重い処分が下されるだろう。
    “家族の命”という父の言葉に頭に血が上っていたハニエルも冷静になる。

    「…式典にお前は招待されていない。その日は私一人で出席する。お前は屋敷にいろ。わかったなハニエル。」

    ハニエルは悔しそうに下を向いたまま返事をしなかった。



   ***



    「…こんなに豪華なドレス…本当にいいのかしら…。」

    アマリールは鏡に映る自分の姿に戸惑いを隠せなかった。
    クリーム色の上質な生地にルーベルの瞳の色と同じ金糸で全体に刺繍がほどこされたドレスはとてもこの短期間で仕上げたとは思えない出来だ。

    「お綺麗ですわアマリール様!きっと殿下もアマリール様の美しさに見惚れてしまう事でしょう!」

    侍女はそう言ってこれまた豪奢ごうしゃなイヤリングを耳につけた。
    (こんな大粒の石…値段を考えただけで緊張してしまう…)
    けれど彼の見立ては間違ってはいない。そう思えるほど今日の私は美しかった。
    
    「殿下がお見えです。」

    支度が終わるのを見計らったようにやって来た彼は、私と色味を合わせたのだろう白の上下に身を包み、それに艶やかな黒髪がよく映えていた。

    「…美しいな。」

    少しだけ微笑む彼を見た侍女達は私に“ほらね”と言うように笑顔を向ける。

    「殿…ルーも素敵です。」

    お世辞じゃない。閨での彼とも血の皇太子とも違う素の彼は、気品に満ち溢れていて眩しい。

    「式典の打ち合わせがあるから先に行く。お前は侍女に手を引いて貰って来い。」

    (……?今って言った……?)
    もしかして私が子供の頃皇宮の庭園で転んだ事を言っているのだろうか。でもなぜ彼がその事を……?
    ぽかんとする私に彼は少し淋しそうに笑いながら部屋を出て入った。
    
    
 
   ***   


    
    侍女に案内され着いた先は婚約式の行われる大広間の前だった。中は既に招待された貴族達で溢れ返っている。

    「殿下は式典の打ち合わせが終わり次第すぐ戻られるそうなので、一緒にお待ち致しましょうね。」

    少し年嵩としかさの侍女は名をタミヤと言い、殿下が幼い頃より仕えているのだと以前話してくれた。とても気さくな優しい人柄で、味方のいない私にとってこの皇宮で唯一頼れる女性だ。
    二人で殿下を待っていると後ろから声を掛けられる。


    「あらぁ、誰かと思ったら泥棒猫じゃない。」

    パチンと扇を鳴らす音。嫌みなこの口調も相変わらずだ。しかし声のする方を振り返って私もタミヤも絶句した。
    声の主であるローザのドレスはクリーム色の生地に金糸の刺繍。金の金具のイヤリングまで全て私と同じ色の物を身に纏っている。

    「まぁあなた、私の真似がしたくて探らせたのね!?よりにもよってこんな日に私と同じ色を身に纏うなんてどうかしてるわ!!」

    この国は公式行事において身分の高い者とドレスの色が被るのはタブーとされている。
    しかし探るなんてとんでもない。これは正真正銘殿下が選んだものだ。私は受け取るまでドレスの色すら知らなかった。

    「この恥知らず!早く着替えてらっしゃい!さぁ早く!!」

    ローザの声は大広間の中の貴族達にまで聞こえてしまったようだ。先ほどまでのざわめきは消え、皆が耳をこちらへと傾けている。

    「お言葉でございますがローザ様、こちらはルーベル殿下がお選びになったもので…」

    タミヤは慌てて私を庇うがローザはタミヤに向かって扇を投げつけた。タミヤの頬に当たった扇は派手な音を立てて下へ落ちる。

    「タミヤ!!」

    タミヤの頬は切れて血が垂れている。
    私が咄嗟にその頬に手を当てるとタミヤは驚き自分の血が滲んでしまった私の手袋を見て顔を歪めた。 

    「いけませんアマリール様!せっかくのお衣装が…!!」

    タミヤは私の手を離すがその頬の血はまだ止まらない。

    「手袋など替えれば良いのです!それよりもその血を止めないと!」

    「血なんてどうでもいいのよ!!」

    私達の様子を見ていたローザは痺れを切らしたのか怒鳴り散らした。

    「さっさと着替え直して来なさいよ!皇女たる私と同じ色を身に纏うなんて許されないわ!身の程をわきまえなさいこの泥棒猫!!」

    そんな…もうすぐ式典が始まってしまうのに今から着替え直すなんて無理だ。今この場を去れば逃げ出したと思われる。
    会場の扉はいつの間にか開け放たれており、中から貴族達が面白げにこちらの様子を見ている。
    どうしよう…誰か…誰か助けて……!!


    「何事だ!?」

    その時だった。低く通る声にざわめきが瞬時に収まった。

    「お義兄様!!」

    (…殿下……。)
    この騒ぎを聞き付けたのだろう。険しい顔でやって来た彼はタミヤの頬を押さえる私を見て眉間に皺を寄せた。

    「何があった?」

    「それが…「お義兄様聞いて!!」

    しかし私の声を遮るようにしてローザは殿下に駆け寄った。

    「あの女がわざと私と同じ色のドレスを選んだのよ…!!お義兄様の晴れの日のために私…私が一生懸命考えた装いなのに…!!」

    ローザの目にはうっすらと涙まで浮かんでいた。さっきまでとは打って変わったその様子に私もタミヤも驚きを通り越して呆れてしまった。
    
    「着替えてこい。」

    ルーベルからその言葉が出た瞬間ローザは勝ったと言わんばかりの顔で込み上げる笑いを堪えた。

    「ほら!!さっさと着替えてらっしゃ「違うアマリールじゃない。お前だローザ。」

    「えっっ!?」

    殿下はローザから離れ私達の方へ歩いて来る。

    「大丈夫か?」

    「申し訳ございません殿下…!私のせいでアマリール様にご迷惑をおかけしてしまいました!!」

    タミヤは泣きながら謝るが殿下は何も言わずに私を見た。

    「申し訳ありません…でもタミヤは私を庇ったためにこんな怪我を…。」

    床に落ちていたローザの扇を殿下は拾い上げた。

    「これはお前のものかローザ。」

    「は、はい!」

    殿下の目は冷たくローザを映している。

    「お前は今日の式に出なくていい。下がれ。」

    その瞬間広間の中は一斉にざわついた。
    ローザがルーベルの怒りを買ったのだ。貴族達は皆好奇の目をローザへと向けた。

    「な、何故…何故ですかお義兄様!?悪いのはその女の方でしょう!?ドレスの色が被るのはタブーだって事はお義兄様だってご存知のはず!」

    「知っている。自分より身分の高い者と同じ色を纏うのは許されない。だからだ。」

    「え…?何を言ってるのお義兄様?身分は私の方がその女よりも上でしょう?」

    「…いい加減アマリールをと呼ぶのを止めろ…ローザ、いくらお前でも容赦しないぞ…!」

    怒気をはらんだルーベルの声にローザの顔は恐怖で青ざめる。

    「アマリールは皇太子妃。そして次期皇后となる身だ。今日この時より身分はお前よりも上。わかったならさっさと下がれ!」

    「そんな!!お義兄様!!」

    顔を歪めたローザが叫んだその時だった。

    「ローザ!!」

    そこにはローザの母。第三皇妃のシェリダンが息を切らし立っていた。
    
    「殿下…ローザが大変失礼を…!!今すぐ着替えさせますわ。ローザ!早くなさい!」

    「お母様まで!どうしてよ!?こんなのおかしいわ!」

    「お黙りなさい!!」

    シェリダンはローザの頬を叩くとルーベルに向かって深く頭を下げた。

    「殿下…アマリール様もどうか娘の愚行をお許しください…!!」

    しかしルーベルはそれを無視してアマリールの手を取った。

    「ルー!?」

    「行くぞ。」


    彼はそれだけ言うと広間へ向かって歩きだす。
    その場に残された母娘は醜い形相で二人の背中を睨む事しか出来ずにいた。
    
    


    



    

    
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