侯爵令嬢は前世で冷酷夫だった皇太子に挿入られている最中に思い出す

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第一章

34 ゲイルの頭痛の種(前編)

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 「お義兄様が帰ってくるの!?」

 急に皇宮から姿を消した義兄が帰ってくると聞かされたローザは目を輝かせた。

 「いつ?いつお義兄様は帰ってくるのゲイル?」

 「明日にはお戻りになると言う事です。」

 「明日!?大変だわ!!」

 すぐ支度をしなければ。身体中に磨きをかけて、疲れて帰ってくるだろうお義兄様を癒して差し上げなければ…!

 「ゲイル!私ちょっと自分の部屋に戻りたいのだけれどいいかしら?」

 きっとお義兄様は私を離しては下さらないだろうけど、ここは狭いし人の出入りも聞こえて落ち着かない。これじゃ満足なお手入れも出来ないわ。お風呂だって入りたいのに…。そうだ!首都で評判のハーブも急いで取り寄せなきゃ…!

 ルーベルは今度こそ自分を寝所に呼んでくれるはず。もしくはその前に正式に自分を妃に迎える発表をしてくれるだろう。ローザはそう信じて疑わなかった。
 しかしローザはこの後発せられるゲイルの言葉に驚愕する事になる。

 「お部屋にお戻りいただくのは構いません。しかし騎士を何名か付けさせていただきます。」

 「騎士?あぁ、護衛ね?もう!お義兄様ったら心配性なんだから。」

 言葉とは裏腹に照れたように赤く染まる頬。義兄はそんなにも自分を想っているのかとローザは喜びに浮かれた。しかし、

 「…護衛ではありません。見張りです。」

 「見張り…?」

 ローザは耳を疑った。しかしゲイルは事も無げに淡々と告げていった。

 「殿下からはあなた様がアマリール様を害する事のないようしっかり見張れと命令を受けています。」

 「アマリール?何言ってるのゲイル。アマリールは離宮の火事で死んだんでしょ?」

 「…どこからそんなデマを掴んだんです?あなたの情報網も大した事ありませんね。」

 「何ですって!?」

 (何て失礼な男なの…!!)
 この男も昔から私の事を馬鹿にしたような目で見ていた。下級貴族の娘と蔑むような目で…!お義兄様の側近でなければただではおかないのに。

 「明日、殿下はアマリール様と共に皇宮へ戻られます。お可哀想に…アマリール様は離宮で火事に遭われ心身共にお疲れでしてね。それで殿下の計らいで保養地に行かれていたのです。あそこは温泉が有名でしょう?今頃二人でゆっくりと湯に浸かって疲れを癒しているでしょうね。」 

 「…な…んですって……?」

 アマリールが生きている?
 そんなはずはない。だってルイザが確かに聞いたと…。
 ローザは鬼の形相で侍女のルイザを見るも、ルイザは青い顔で俯くばかり。

 「そうそうローザ様!実はアーセルのロウ公爵がもうすぐエレンディールへいらっしゃいますから、お部屋に戻られるのでしたら荷物の準備をお願いできますか?」

 「ロウ公爵が!?」

 顔合わせに来るとしても何故このタイミングなのだ。しかも荷物の準備とは一体どういう事なのか。ローザは混乱した。

 「顔合わせが終わりましたらローザ様にはロウ公爵と一緒にアーセルへ行っていただきます。」

 「何ですって!?」

 「すべてはアヴァロン陛下のご命令でございます。」

 「そんなのお義兄様が許す訳ないわ!!」

 そうよ。お義兄様はいつも私の事を心配してくれていた。こんな…こんな私の心を無視した命令なんて止めてくれるに決まってる…!!

 「やれやれ…本当はあまり言いたく無かったんですけどね。ローザ様、お気の毒ですがこれは殿下が直々に陛下に進言した事なんですよ。」

 お兄様が直々に…?そんな、そんなはずない!だって私を側に置いたのは妃に迎えるためで…あのドレスや宝石はその準備で…

 「ドレスや宝石はローザ様の嫁入り道具として揃えて下さったんです。まったく…目の飛び出るような金額でしたけどね。あぁ、そうそう。シェリダン様の分はこちらでは負担できませんのご自分で支払って貰って下さいね。」

 ゲイルは金額とその内訳の書いた紙をローザに差し出した。

 「嘘よ!そんなの信じない!お義兄様に会わせて!会って直接聞くわ!!」

 ルーベルに直接聞けばもっと残酷な現実を知る事になるだろう。
 (…馬鹿な娘だ…。)
 ゲイルは心底うんざりしていた。こんな役目を押し付けてきたルーベルもだが、一番はこの母娘だ。
 ゲイルは代々エレンディールを支える宰相一家の息子である。いわゆる由緒正しきお坊ちゃまだ。
 悪いところは視力くらい。容姿端麗、外面良しなゲイル。幼少の頃からその才能は抜きん出ており、いずれ皇帝となるルーベルの元で辣腕を振るうだろうと期待されている。
 確かにルーベルは皇帝になるべくして生まれた男。それに関してはゲイルも異存は無い。主君と認める価値のある男だ。だがしかし一つだけルーベルに対し思っていた事がある。
 それは【女運がとてつもなく悪い】事だ。
 悪い。とにかく悪い。それはもうべらぼうに。
 目を閉じれば色鮮やかに甦る。ルーベルに群がる馬鹿者共を追い払い続けた日々。自分が実行したあんな撃退やこんな撃退が頭の中を駆け巡り過ぎて行く。
 そんなゲイルも呆れるほどに質が悪いのがこの母娘だった。


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