侯爵令嬢は前世で冷酷夫だった皇太子に挿入られている最中に思い出す

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第二章

9 知りたい

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 皇后陛下が設けて下さったお茶の席には何故か皇帝陛下まで座っておられた。
 (……ああそうか……陛下は殿下を溺愛してらっしゃった。後に第三皇妃となるシェリダン様と出会う前のこの頃は、皇后マデリーン様と一番仲睦まじい時だったのよね……。)

 「おお戻ったか。どうだ?少し落ち着いたかアマリール?」

 「はい陛下……先程は取り乱してしまい申し訳ありませんでした。殿下に可愛い薔薇を見せていただきすっかり元気になりました。」

 「ほう、ルーベルも意外に気が利くじゃないか。」

 陛下の言葉に殿下はすまし顔だ。
 (反抗期かしら……。でも前世は万年反抗期みたいな人だったしな……。)

 「さあ二人とも座って?」

 皇后様は私達に座るよう促すと、侍女にお茶を淹れるよう言った。
 椅子を確認すると空席が並んで二つ。これはもしかして殿下と隣同士に座れと?
 しかしヒヤヒヤする私とは対照的に、殿下は何も言わず席に着いた。遅れる事数秒、私も席に着くと湯気の立つティーカップが目の前に置かれた。
 (この色と香り……懐かしい……皇后陛下の好きな茶葉だわ……)
 濃い赤茶色の紅茶はカラメルのような香りと舌に乗せた時の黒糖のような甘みが特徴だ。
 皇后陛下のお茶会にはいつも呼んで頂いていたからよく覚えてる。
 (……いろんな意図があったのだろうけど……でもとても可愛がって貰っていたのよね……。)
 お茶会に顔を出せばすぐに見付けてくれて、名前を呼んで側に置いて下さった。だから皇宮は好きな場所ではなかったけど、皇后陛下のお茶会だけは休まず通ったものだ。
 (えっと……ミルクはどこかな……)
 私はこの紅茶にたっぷりとミルクを淹れて飲むのが好きだ。猫舌なせいもある。
 すると目の前にスッとミルクの入った茶器が置かれた。
 (えっ……?)
 驚いて茶器を置いてくれた手を追うと、それは隣に座る殿下の手だった。

 「あっ……ありがとうございます……!」

 お礼を言うが返事はない。
 あまり一緒に過ごした時間がないからわからなかったけど、もしかしたら彼はこれが常なのだろうか。てっきり嫌われているからだと思っていたが、こんな風にしてもらうとそれは何だか少し違うような気がしてくる。
 
 「ふむ、なかなか似合いじゃないか。なあマデリーン?」

 「ですから以前からそう申しておりますでしょう?ねえクローネ卿……やはり前向きに考えて貰えないかしら?」

 何……何の話……?
 陛下達はニコニコしているがお父様は滝のような汗をかいている。

 「……しかし娘はまだこの通り子供でして……それに事故の事もございますからしばらく様子を見ようかと……」

 しかしマデリーンは引き下がらない。

 「あら、でももう事故から半年以上経ってるでしょう?後遺症も無いようだし大丈夫よ。」

 「は、はあ……」

 局地的に雨でも降っているのだろうかと疑うほど尋常ではない汗を流す父に、アマリールは何事かとその場にいる全員の顔を見回す。がしかし陛下達はやっぱりニコニコ。殿下は仏頂面。父は瀕死だ。訳がわからない。
 
 「ルーベル、お前はどうだ?」

 陛下の言葉に殿下は私を見た。

 「……アマリール嬢、君はどう思っている?」

 「……どう思う……とは……?」

 「君と私の婚約についてだ。」

 「こ、婚約!?」

 婚約って、何で急に!?
 今日はお礼に来ただけなのに何でそんな話になってるの!?
 しかしお父様の顔を見る限り初めて聞いたと言うような感じではない。
 (まさかお父様……黙ってたの……?)

 「何だ、その様子だと娘にはまだ話していなかったのかクローネ卿?」

 「は、はぁ……申し訳ありません……。」

 陛下の言葉にお父様もタジタジだ。
 しかしそこへ皇后陛下が助け舟を出してくれた。

 「陛下、アマリールはあんな事故に遭ったばかりです。可愛い娘に余計な心配をさせたくない親心は理解して差し上げなければ…ねえ、クローネ卿?」

 お父様、やっぱり黙っていたのね。
 でもおかしいわ……あの事故の後何ですぐ婚約の話になんてなるの?
 だって頭を打って一時は昏睡状態だったのよ?普通なら婚約どころじゃないでしょうに……。

 「ふふ、いきなりじゃアマリールも困ってしまうわよね。でもこれはルーベルの希望でもあるの。」 

 「殿下の……希望……?」

 おかしいわ……今生のルーは婚約者に内定すれば私が周りからの悪意に晒されるから、我慢していたと話してくれた。
 でもそういえば……前世では幼い頃に殿下と婚約していたわ……。
 前世で私と殿下の婚約の話が持ち上がったのは確か私が九歳、殿下が十四歳の時だった……今はまだ七歳……。全然違ってるわ。
 何で……?この半年で何か前世と違う事が起きたとでも言うの……?

 「アマリール、殿下がお前の返事をお待ちだ。早くお答えしなさい。」

 お父様には答えを促されるし殿下にはずっと見つめられたままで、どう答えたらいいのかわからなくなってしまう。
 でも彼の瞳は……大好きな金色の瞳は真っ直ぐに私を捉えたまま答えを待っている。
 (……本当に殿下は私との婚約を望んでいるの……?)
 それが彼の本心ならば私は今どうすべき?
 彼と歩むはずだった人生を取り戻すために、今伝えるべき事とは何だろう。婚約はもちろんその過程でいつかやってくる事で、必要な事でもあるのだろうけれど、今私達に必要な事は……?
 あの頃私が殿下としたかった事……。出来なかった事……。

 「……私は……もっと殿下の事を知りたいです……。」

 婚約を“する”か“しない”かではなく、“殿下を知りたい”。その答えは意外なものだったのだろう。全員が不思議そうな顔をしている。

 「……俺を……知りたい……?」

 そう。知りたい。あなたが何を見て何を考えて、何に苦しんで……そして喜ぶのか。
 側で同じ物を目に映し、一緒に泣いたり笑ったりしてみたい。

 「はい。婚約とは……未来に結婚しようという誓いですよね?ですからもし婚約するのであれば、私は心から殿下に誓いたいのです。」

 「誓う……俺に……?」

 「殿下とたくさんお喋りして、殿下の事をたくさん知って、殿下で胸の中をいっぱいにして……そして誓いたいです。私は殿下だけのものだって。」

 「こっ、これアマリール!!殿下に失礼だ!!謝りなさい!!」

 「いや、いいクローネ卿。アマリール嬢、ではどうやって俺を知るの?」

 ん?どうやって?どうやってって……記憶を失う前までのように殿下の所へ通う……くらいしか思い付かないわ。でも殿下だって忙しいわよね……月に一度の皇后陛下のお茶会でお時間を作って貰う事はできるかしら……。
 
 「あの……皇后陛下のお茶会の時に皇宮へ参りますので、その時にお時間を作っていただく事はできますか?」

 しかし殿下は“ん?”という風に眉を上げる。

 「月に一度で君の胸の中は俺でいっぱいになるの?」

 「……え……?」

 だって……今までずっとそうやって愛を育んで来たんですよね?記憶を失う前の私の胸の内はまだ思い出せませんが、ルーとの時はそれでとっても胸がいっぱいでしたよ?
 皇帝陛下も皇后陛下もニヤニヤと楽しそうにこちらを見ている。死にそうなのはお父様だけだ。

 「週に一度」

 「は?」

 今何て言った?週に一度?何が?

 「週に一度俺の宮においで。時間を作ろう。」

  

 

 

 
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