侯爵令嬢は前世で冷酷夫だった皇太子に挿入られている最中に思い出す

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第二章

8 苺の薔薇

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 (何で……何で笑ってるの……?)

 びっくりし過ぎて涙はいつの間にか止まっていた。そして信じられない事は更に続く。

 「いきなり父上の前に通されたものだから緊張したのでしょう。アマリール嬢、具合が悪い訳ではないのなら俺と散歩でもしよう。いいでしょう母上?」

 (えっ、散歩!?殿下と二人で!?)
 これはなんの冗談なのか。殿下と散歩なんて前世では一度もした事がない。

 「そうね……アマリールが落ち着いたら戻ってらっしゃい。一緒にお茶を飲みましょう。」

 こ、皇后陛下まで……!!
 どうしよう、お父様……!!

 「殿下がそう仰るなら……アマリール、粗相のないようにな。」

 粗相も何も……いきなり二人きりだなんて何を話したらいいのよ……!
 もう色々失敗する予感しかない。殿下の後ろをついて行く私の顔はかなり面白い事になっていたと思う。

 
 **


 殿下は何を話す訳でもなく庭園を歩いて行く。時折振り返り私の姿を確認するのは気を遣ってくれているのだろうか。
 (こんな事……一度も無かったわ……)
 公式行事に二人並んで出席する時でさえも、彼が隣の私に視線を寄越す事など無かった。いつも数歩先を歩き、私がついて来ていようがいまいが関係無いといった風だった。

 しばらく無言で二人歩いていたが、殿下の足はある場所で止まった。

 「ここは……」

 苺の薔薇だ……けれど少しの株しか見えない。
 (……プルマが見せてくれた殿下の最期……ここには溢れんばかりの苺の薔薇が植えられていたわ……)
 まさか……私が離宮へと去った後……殿下が育ててくれていたのだろうか……まさか……。

 「……ここがお前が倒れていた場所だ。憶えているか……?」

 殿下が連れてきてくれたのは今生でも記憶を失ったつるりとした石畳。
 やっぱり起こるべくして起こった事は場所も同じなのね……。
 本当は何が起こったのか知っているけれどそれは言ってはいけない約束だ。私は殿下に首を横に振った。

 「そうか……」

 そう言う殿下の顔はどこか淋しそうだ。

 「……父から殿下が私を見つけて下さったと聞きました……。ありがとうございます。」

 けれどこれに殿下は何も答えない。
 沈黙に耐えられなくて私はまだ少ない薔薇を観ようと近付いた。
 “苺の薔薇”なんて我ながら上手いことを言ったものだ。いや、食い意地が張っているとでも言うべきか。
 でも本当にこの小さな蕾の形は苺そっくりなのだもの。逆さ向きだけど。

 「……薔薇が好きなのか……?」

 「ふふ……薔薇が好きと言うよりか……食い意地が張ってると笑わないで下さいね?この薔薇が苺みたいでとても可愛いのです。あ、でも食べたりはしませんよ!」

 食べられる花もあるというが、さすがに皇宮の花を盗み食いしたなんて噂が広まれば、いよいよ頭がおかしくなったと思われる。
 
 「この薔薇は少ししか植えられていないのですね。こんなに可愛いからたくさんあっても………殿下………?」

 殿下はまた眉間に皺を寄せている。
 とても苦しそうにして……。

 「殿下……?どこか具合でも……?」

 それとも彼の気分を害するような事を言ってしまったのだろうか。……まさか薔薇の事?でも“苺みたいで可愛い”とは言ったけど、“苺の薔薇”と確かな事は言ってないわ……。

 「……戻ろう。母上が待ってる……。」

 そして殿下は元来た道を戻って行った。
 今度は振り返らずに。


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