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第三章
10 眠る
しおりを挟む「……大丈夫か……?」
目が覚めると真っ暗な部屋の中だった。
けれどいつもと違うのは側に殿下がいてくれた事。
「殿下……」
……そうだ。確か私は宴の最中に倒れて……
最後に見たシェリダンの顔が再びアマリールの脳裏に甦る。
ついに始まる。ついにあの母娘がこの皇宮に乗り込んで来るのだ。
「アマリール?」
何も無い場所を顔を歪め見つめるアマリールを心配するようにルーベルは覗き込む。
(いけない……殿下はこの事をまだ何も知らないんだ……)
「ごめんなさい殿下……せっかくの殿下のお祝いの日に……」
きっと恥をかかせてしまった。
周囲から私の事を不甲斐ない婚約者だとさぞかしなじられた事だろう。
けれどアマリールの心配をよそにルーベルは言った。
「気にするな。つまらない宴席を抜ける口実ができてちょうどよかった。」
「でも……!!」
「最後には戻ったから心配するな。」
ルーベルはもうそれ以上その事についてアマリールに喋らせなかった。
真っ暗な部屋には月明かりが差し込んでいるがルーベルの顔はよく見えない。けれど怒っているようには感じられない。
それよりもむしろ倒れたアマリールの事をまだ心配しているようだ。
「頭は?痛くはないか?」
(頭……?そうか……殿下、まだ昔の事を気にしてるのね……)
「頭は大丈夫です。気分が悪くなってしまっただけで……」
けれどルーベルは痛くもない頭を撫でてくる。その手付きはとても優しくて、うっかり涙が出そうになってしまう。
「……殿下?」
「何だ?」
「……今日は今まで知らなかった殿下をたくさん見る事ができました……。私以外の女性とお話する姿も……」
皇太子としてどんな日常を送っているのかは把握していたつもりだった。
けれどどんな場面でも彼の周りには女性がついてくる。彼がそれを望んでいる訳じゃないのもわかってる。
それでも嫌だ。彼の側に自分以外の女がうろつくのは。
「……今まで自分がこんなに嫉妬深い女だったなんて知りませんでした……。」
敵はローザ様だけだと思っていた私は本当に視野が狭かった。
もしかしたら前世でもローザ様よりも危険視しなければならなかった女性がいたのかもしれない。
それに気付けなかったのも全部知ろうとしなかった自分のせい……私が孤独に死んだのは自業自得なんだ。
「お前は嫉妬深い女じゃない。」
「いいえ……殿下とご令嬢達が喋るのを見たらとても胸がムカムカとしました……しかもその挙げ句倒れるなんて……」
「それはお前の内面がどうこうというより、お前が俺の事をそれだけ愛しているからだろう?」
「……私が……殿下を……愛してる?」
「何だお前……違うのか。」
違わない……違わないけど……。
殿下がそれを教えてくれるの?
自分が私に愛されているという事を殿下が?
「……殿下を愛してます……だから嫌……殿下が他の女性を見るのも話すのも嫌……」
するとルーベルは少しだけ笑った。
「ふふ……見るのは仕方ないだろ?目を閉じて生きろとでも言うのか?」
「でも嫌……殿下の周りにいるのは美しい人ばかりだもの……」
「本当に馬鹿だなお前は…」
ルーベルはベッドに乗り、身体をずらすようにしてアマリールの上になった。
「俺にはお前だけだ……お前はまず皇太子妃になり、続いて皇后になる。」
「……もしも私に子が出来なかったら……?」
「その時は血縁から優秀なのを選んで養子にすればいい。」
「そんな事許されません……エレンディール皇家は直系血族により成り立ってきた……傍系から次期皇帝を迎えるなんて……」
「なら俺に他の女と寝ろと言うのか?」
「嫌……それだけは絶対に嫌です……!」
アマリールの目からは涙がこぼれ落ちる。
切ないからじゃない。自分がとんでもないわがままを言っているのがわかっているから。
二人の関係を理解しない者が聞けば、アマリールは皇帝の唯一の妃に収まろうと画策するただの悪女だ。
「殿下が好き…私以外の誰にも触れて欲しくない…」
ポロポロと涙を流して自身の胸に縋り付くアマリールをルーベルは腕の中にしまい込んだ。
「…そう思うのは当たり前の事だ。だから起きてもいない事を考えて泣くのはやめろ。」
「殿下……」
そしてルーベルはアマリールの唇にキスを一つ落としてまた抱き締めた。
そしてルーベルとアマリールが久し振りに並んで健やかな寝息を立てたこの夜、皇帝アヴァロンは宴席で見初めたある女性を自宮へ連れ込んだ。
その女性の名はシェリダン。
“今夜は二人だけで息子の成人を祝おう”
アヴァロンの言葉を信じたマデリーンは、夜が明けるまで夫を待ち続けた。
ルーベルと抱き合い幸せに眠るアマリールはこの事をまだ知らない。
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