102 / 125
第三章
9 恐れる
しおりを挟む「お前は何も気にするな。胸を張っていろ。」
ヴォルテーヌ親子から離れた後、ルーベルはアマリールに小声で囁いた。
「でも……殿下にもお立場があります。あまり無下にするのもどうかと……」
「あれはお前の家と違って帝国の役に立っている訳でも何でもない。ただの成金だ。関係ない。」
「殿下……」
「何だ。あの女の機嫌を取ってやった方が良かったのか?」
「それは……嫌です……。」
「ならもっと嬉しそうにしろ。」
その後もルーベルはアマリールと共に貴族からの挨拶を受けた。
だがヴォルテーヌ伯爵のようにアマリールを無下に扱う貴族には、ルーベルから同様の返事が返ってきた。
さすがにそれを何度も見せ付けられるとアマリールを敵視していた貴族も大人しくなった。
「まったく……キリがないな。二人で宮に帰るか?」
「ふふ、殿下が出るって言ったんですよ?」
「まあな。」
皇后陛下も貴族達の挨拶をさばくのに忙しそうだ。
(あれ……皇帝陛下はどちらに行かれたのかしら……?)
どこにも姿が見えない。
「殿下?陛下は……」
アマリールがそう言いかけた時だった。
「ルーベル殿下。ご成人誠におめでとうございます。そしてアマリール様におかれましてもご機嫌麗しゅう……」
「ああ、コンラッド卿か。久しいな。」
コンラッド伯爵……クロエ様が言っていた反皇帝派の貴族だ……。ハニエル様の父アルザス公爵にすり寄っているという……
「ええ。最近はあちこち飛び回っておりましたから。クローネ卿にも先程ご挨拶させていただきました。おめでたい事は続きますね、殿下。」
(あら……意外にも柔らかな対応だわ……)
コンラッド卿はアマリールにも穏やかに微笑んだ。
「アマリール様、是非またうちの娘をサロンにお呼び下さい。なかなか気の利く子です。きっとお役に立つ事もありましょう。」
四年前、ルーベルの提案で皇宮に暮らし始めてからというものお茶会はアマリールが出向くのではなく、皇宮のサロンへ招くという形をとっていた。もちろん皇后やクロエの助けを借りて。
招かれた回数こそが“お気に入り”の証。
コンラッド卿の娘と仲良くする気は無いのだか、あからさまに無視をするのは危険。
そういった事情もあり、どの貴族の令嬢も一度はサロンに招いてきた。
(二年ほど前にお会いしただけだけど……控え目な方だったわ……)
年は自分より三つ上だったと記憶している。
(確か名前は……)
「お父様。」
その時、どこからか姿を現した女性がコンラッド伯爵を呼んだ。
「おお、ベアトリーチェ。今ちょうどお前の話をしていたところだよ。」
「まあ……それは嬉しいですわ!殿下、この度はご成人誠におめでとうございます。」
ベアトリーチェはまずルーベルに祝辞を述べたあと、アマリールに向き直る。
「アマリール様も、本当にお久しぶりですわ。最後にお会いした時よりもずっとお綺麗になられて……またぜひ私をサロンにお招き下さいませ。」
父と同じく柔らかく微笑むベアトリーチェ。
アマリールは構えていた分毒気を抜かれたような気分だった。
挨拶が終わり、親子がその場を離れようとした瞬間、どこからか令嬢達が集まってきた。
「まあ、ベアトリーチェ様!今日もとっても素敵ですわ!」
「本当!まるで花の精のようですわ!」
「これでは殿下も見惚れてしまいますわね!」
皆口々にベアトリーチェを褒め称える。
(確かに……ベアトリーチェ様は美しいわ……)
シルクとレースがふんだんに使われた贅沢なドレスはこの会場でも類を見ない。
伯爵と言ってもコンラッド伯爵家はそこらへんのしがない土地の責任者ではない。
帝国の大都市である首都周辺の行政を任されているのだ。そしてその勢いは侯爵をも凌ぐと言われている。
(でも……反皇帝派のコンラッド卿がベアトリーチェ様を殿下の妃になんて有り得ない。)
きっとこの取り巻きの令嬢達はそんな事は考えてもいないのだろう……アマリールはそう思っていた。
「うふふ、皆様ったら褒め過ぎよ。」
笑うベアトリーチェの取り巻きの輪はどんどんと大きくなって行く。まるで渦のように。
「……あいつの周りはいつも騒がしいな。アマリール、行くぞ。」
「は、はい。」
いつも騒がしい?
二人はどういう関係なのだろう。
(……私は一度しか会った事がないけど……)
アマリールの胸は少しだけチクリと痛んだ。
今までこういう席に出た事が無かったから知らなかった。自分と同い年かそれより少し上だろうに、少女達は皆化粧を施し男性を意識した仕草をし、殿下を取り囲むように見ている。
こんな子供とも言える年齢の子がだ。
この様子だとおそらく殿下との面識は式典や宴席だけではないのだろう。殿下の周りをうろついて必死に目に留まろうと皇宮に通っているはずだ
(殿下も何も言わないし……私も皇宮の奥にいるから知らなかった……)
胸がモヤモヤとする。
嫌だ。殿下の周りに自分以外の女性がうろうろとするなんて。
「どうした、疲れたのか?変だぞ?」
「いえ、少しぼうっとしてしまいました。」
(いけないわ……今日は殿下のおめでたい席なんだからしっかりしないと……)
「そうだ……殿下、陛下はどちらに行かれたのでしょう?ずっとお姿が見えないのですが……」
「ん?そうだな……ああ、あそこにいる。」
そう言って殿下の指差す方を見ると、見知らぬ貴族と陛下が上機嫌で話している。
「アーデン伯爵だ。お前も名前は聞いた事があるだろう?」
「アーデン伯爵……あの方が……?」
私達の未来に干渉するかもしれない人。
しかしアマリールにはアーデン伯爵よりもその隣に立つ人物に驚愕した。
(シェリダン皇妃……!!)
あまりの驚きに喉がヒュッと音を立てる。
自分の知るシェリダン皇妃とは少し違う。若くハリ艶のあるその姿は信じられないほどローザに似ていた。
(何で……何でアーデン伯爵とシェリダン様が一緒にいるの……?)
シェリダンは豊満な胸を前に突き出すようにし、媚びるような目で皇帝を見ている。そして皇帝も獲物を狙うような目でシェリダンを……。
(……ついにこの時が来てしまった……)
前世の通りならもうすぐシェリダンは皇妃の座に収まり、ローザと共に皇宮へやってくる。
皇宮が一番乱れた時期だ。
「おい、アマリール!?」
わかっていた事だったのに恐怖で身体が震える。目の前にいるシェリダンの姿が、バルコニーから自分を突き落としたローザの姿にあまりにもそっくりだったから。
「アマリール!しっかりしろ!」
震えるアマリールをルーベルは抱き上げた。
「……殿下……ごめんなさい……ごめんなさ……」
アマリールの顔は青褪め額からは汗が出ている。
「いいから黙ってろ!」
周囲がその様子に気付きざわつく。
“大丈夫ですか!?”
“アマリール様!?”
皆が口々にアマリールを心配する声を上げるがしかし、アマリールにはそれが自分を心配するものではなく、嘲笑する声に聞こえていたのだった……。
47
あなたにおすすめの小説
結婚式に結婚相手の不貞が発覚した花嫁は、義父になるはずだった公爵当主と結ばれる
狭山雪菜
恋愛
アリス・マーフィーは、社交界デビューの時にベネット公爵家から結婚の打診を受けた。
しかし、結婚相手は女にだらしないと有名な次期当主で………
こちらの作品は、「小説家になろう」にも掲載してます。
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる