侯爵令嬢は前世で冷酷夫だった皇太子に挿入られている最中に思い出す

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第三章

9 恐れる

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 「お前は何も気にするな。胸を張っていろ。」

 ヴォルテーヌ親子から離れた後、ルーベルはアマリールに小声で囁いた。

 「でも……殿下にもお立場があります。あまり無下にするのもどうかと……」

 「あれはお前の家と違って帝国の役に立っている訳でも何でもない。ただの成金だ。関係ない。」

 「殿下……」

 「何だ。あの女の機嫌を取ってやった方が良かったのか?」

 「それは……嫌です……。」

 「ならもっと嬉しそうにしろ。」

 その後もルーベルはアマリールと共に貴族からの挨拶を受けた。
 だがヴォルテーヌ伯爵のようにアマリールを無下に扱う貴族には、ルーベルから同様の返事が返ってきた。
 さすがにそれを何度も見せ付けられるとアマリールを敵視していた貴族も大人しくなった。

 「まったく……キリがないな。二人で宮に帰るか?」

 「ふふ、殿下が出るって言ったんですよ?」

 「まあな。」

 皇后陛下も貴族達の挨拶をさばくのに忙しそうだ。
 (あれ……皇帝陛下はどちらに行かれたのかしら……?)
 どこにも姿が見えない。
 
 「殿下?陛下は……」

 アマリールがそう言いかけた時だった。
 
 「ルーベル殿下。ご成人誠におめでとうございます。そしてアマリール様におかれましてもご機嫌麗しゅう……」

 「ああ、コンラッド卿か。久しいな。」

 コンラッド伯爵……クロエ様が言っていた反皇帝派の貴族だ……。ハニエル様の父アルザス公爵にすり寄っているという……

 「ええ。最近はあちこち飛び回っておりましたから。クローネ卿にも先程ご挨拶させていただきました。おめでたい事は続きますね、殿下。」

 (あら……意外にも柔らかな対応だわ……)
 コンラッド卿はアマリールにも穏やかに微笑んだ。

 「アマリール様、是非またうちの娘をサロンにお呼び下さい。なかなか気の利く子です。きっとお役に立つ事もありましょう。」

 四年前、ルーベルの提案で皇宮に暮らし始めてからというものお茶会はアマリールが出向くのではなく、皇宮のサロンへ招くという形をとっていた。もちろん皇后やクロエの助けを借りて。
 招かれた回数こそが“お気に入り”の証。
 コンラッド卿の娘と仲良くする気は無いのだか、あからさまに無視をするのは危険。
 そういった事情もあり、どの貴族の令嬢も一度はサロンに招いてきた。
 (二年ほど前にお会いしただけだけど……控え目な方だったわ……)
 年は自分より三つ上だったと記憶している。
 (確か名前は……)

 「お父様。」

 その時、どこからか姿を現した女性がコンラッド伯爵を呼んだ。

 「おお、ベアトリーチェ。今ちょうどお前の話をしていたところだよ。」

 「まあ……それは嬉しいですわ!殿下、この度はご成人誠におめでとうございます。」

 ベアトリーチェはまずルーベルに祝辞を述べたあと、アマリールに向き直る。

 「アマリール様も、本当にお久しぶりですわ。最後にお会いした時よりもずっとお綺麗になられて……またぜひ私をサロンにお招き下さいませ。」

 父と同じく柔らかく微笑むベアトリーチェ。
 アマリールは構えていた分毒気を抜かれたような気分だった。


 挨拶が終わり、親子がその場を離れようとした瞬間、どこからか令嬢達が集まってきた。

 「まあ、ベアトリーチェ様!今日もとっても素敵ですわ!」
 「本当!まるで花の精のようですわ!」
 「これでは殿下も見惚れてしまいますわね!」

 皆口々にベアトリーチェを褒め称える。
 (確かに……ベアトリーチェ様は美しいわ……)
 シルクとレースがふんだんに使われた贅沢なドレスはこの会場でも類を見ない。
 伯爵と言ってもコンラッド伯爵家はそこらへんのしがない土地の責任者ではない。
 帝国の大都市である首都周辺の行政を任されているのだ。そしてその勢いは侯爵をも凌ぐと言われている。
 (でも……反皇帝派のコンラッド卿がベアトリーチェ様を殿下の妃になんて有り得ない。)
 きっとこの取り巻きの令嬢達はそんな事は考えてもいないのだろう……アマリールはそう思っていた。

 「うふふ、皆様ったら褒め過ぎよ。」

 笑うベアトリーチェの取り巻きの輪はどんどんと大きくなって行く。まるで渦のように。

 「……あいつの周りはいつも騒がしいな。アマリール、行くぞ。」

 「は、はい。」

 いつも騒がしい?
 二人はどういう関係なのだろう。
 (……私は一度しか会った事がないけど……)
 アマリールの胸は少しだけチクリと痛んだ。
 今までこういう席に出た事が無かったから知らなかった。自分と同い年かそれより少し上だろうに、少女達は皆化粧を施し男性を意識した仕草をし、殿下を取り囲むように見ている。
 こんな子供とも言える年齢の子がだ。
 この様子だとおそらく殿下との面識は式典や宴席だけではないのだろう。殿下の周りをうろついて必死に目に留まろうと皇宮に通っているはずだ
 (殿下も何も言わないし……私も皇宮の奥にいるから知らなかった……)
 胸がモヤモヤとする。
 嫌だ。殿下の周りに自分以外の女性がうろうろとするなんて。

 「どうした、疲れたのか?変だぞ?」

 「いえ、少しぼうっとしてしまいました。」

 (いけないわ……今日は殿下のおめでたい席なんだからしっかりしないと……)

 「そうだ……殿下、陛下はどちらに行かれたのでしょう?ずっとお姿が見えないのですが……」

 「ん?そうだな……ああ、あそこにいる。」

 そう言って殿下の指差す方を見ると、見知らぬ貴族と陛下が上機嫌で話している。

 「アーデン伯爵だ。お前も名前は聞いた事があるだろう?」

 「アーデン伯爵……あの方が……?」

 私達の未来に干渉するかもしれない人。
 しかしアマリールにはアーデン伯爵よりもその隣に立つ人物に驚愕した。

 (シェリダン皇妃……!!)

 あまりの驚きに喉がヒュッと音を立てる。
 自分の知るシェリダン皇妃とは少し違う。若くハリ艶のあるその姿は信じられないほどローザに似ていた。
 (何で……何でアーデン伯爵とシェリダン様が一緒にいるの……?)
 シェリダンは豊満な胸を前に突き出すようにし、媚びるような目で皇帝を見ている。そして皇帝も獲物を狙うような目でシェリダンを……。
 (……ついにこの時が来てしまった……)
 前世の通りならもうすぐシェリダンは皇妃の座に収まり、ローザと共に皇宮へやってくる。
 皇宮が一番乱れた時期だ。

 「おい、アマリール!?」

 わかっていた事だったのに恐怖で身体が震える。目の前にいるシェリダンの姿が、バルコニーから自分を突き落としたローザの姿にあまりにもそっくりだったから。

 「アマリール!しっかりしろ!」

 震えるアマリールをルーベルは抱き上げた。

 「……殿下……ごめんなさい……ごめんなさ……」

 アマリールの顔は青褪め額からは汗が出ている。

 「いいから黙ってろ!」

 周囲がその様子に気付きざわつく。

 “大丈夫ですか!?”
 “アマリール様!?”

 皆が口々にアマリールを心配する声を上げるがしかし、アマリールにはそれが自分を心配するものではなく、嘲笑する声に聞こえていたのだった……。




 
 
 






 
 




 



 
 
 

 
 
 
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