侯爵令嬢は前世で冷酷夫だった皇太子に挿入られている最中に思い出す

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第三章

12 入宮

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 自宮を持たないシェリダンは皇宮にほど近い場所に仮の住まいを与えられ、そこから皇帝アヴァロンの宮へ通うようになった。
 堂々と皇宮内を闊歩かっぽする皇帝の愛人に周囲はいい顔をしなかった。
 “下賤げせんの出が”
 “この娼婦が”
 そんな言葉がわざとシェリダンの耳に入るような大きさで飛び交っていた。
 皇后マデリーンは息子の晴れの日に若い女を寝所に連れ込んだ夫に激怒し、第二皇妃トリシアはシェリダンの出自を聞き表情を曇らせた。
 二人の妻の不興を買った愛人に同情する者などこの皇宮のどこにもいなかった。

 そんな折、アヴァロンよりアマリールに呼び出しがかかる。

 「陛下が?」

 「ああ。今度入る皇妃の事で話があると言っていた。」

 伝えに来たのはルーベルだ。
 アマリールは首をひねった。

 「一体私に何のお話でしょう……?」

 シェリダンの事で話すなら自分ではなく関係が悪化している皇后達の方が先だろうに。
 何しろルーベルの成人の儀以来ろくに顔も合わせていないらしい。

 「すまないな。父上がどうしてもと言うから……」

 ルーベルの顔色も悪い。
 家族をかえりみない父親の行為が信じられないのだろう。

 「いいえ、私なら平気です。……それよりも殿下は大丈夫ですか?」

 アマリールはルーベルの側に寄ってその手を取った。いつも温かい大きな手が今日はとても冷たい。
 それを優しく擦ってやるとルーベルは腕の中にアマリールを引き寄せた。

 「悪い……嫌な思いをさせるかもしれない。」

 昔の私ならいざしらず、今の私には殿下と今まで歩いてきた絆がある。

 「大丈夫です。殿下こそちゃんと休まないと……」

 「……よく眠れない。だが気を付ける。」

 そしてその日の午後、アマリールはアヴァロンの執務室へと向かったのだった。


 **


 「おお、来たか!久しいな。」

 久し振りにお会いする陛下は見違えるほど若返っていた。口調もなんだかいきいきとしている。
 (なんて言うか……女としてはとても面白くない気分だわ……)
 マデリーン様達の肩を持つ訳ではない。あくまで“浮気”という行為に対しての嫌悪感だ。
 (本当に……殿下とは大違い……)
 
 「陛下、私にお話とは何でございますか?」

 「それなんだがなアマリール、そなたに頼みがあるんだ。」

 「頼み……と申しますと?」

 「うむ。実は今度第三皇妃を迎える話は聞いているな?」

 「はい。」

 「皇妃にはそなたと年の近い娘がいるのだ。」

 知っている。名前も顔も。

 「ローザというのだが、目を掛けてやって欲しい。」 

 「皇妃様のお嬢様に私が?」

 「ああ。慣れぬ皇宮で苦労するだろう。ルーベルと共に色々導いてやって欲しい。」

 アヴァロンはニコニコと笑顔を見せている。
 皇妃の娘の味方につく事がどんな意味を持つかくらい知っているだろうに。
 
 「失礼を承知で申し上げますが陛下……私はマデリーン様にとてもよくしていただいております。なので皇妃様のお味方をする事は……」

 するとアヴァロンは眉を上げた。

 「いやいや、何もそこまで大げさな事ではないのだ。」

 「?」

 「慣れぬ皇宮で色々苦労するだろうと思ってな。ルーベルはあの通りだから心配ないが、女達は色々あるだろう?」

 なるほど……。
 ローザ様は前世で妃の皆様もそうだが殿下のお姉様方に相当きつくあたられていた……。
 陛下はそれを危惧しているのね。

 「表立って何をしろという訳ではないが、辛い思いをしていたら助けになってやって欲しい。」

 まるで娘を心配する父親そのものだ。
 (……それほどまでにシェリダン様に心を移してしまわれたのね……)

 アマリールはそれに逆らえるはずもなく

 「わかりました。出来る限りの事はさせていただきます。」

 そう答えるしかなかったのだった。



 **


 そして皇妃宮が完成し、遂にシェリダンが正式な皇妃として迎えられる日がきた。
 赤い絨毯の上を歩くシェリダンの後ろには彼女そっくりな少女がいた。
 彼女の亡くなった夫との間に生まれた娘。
 (そして私を殺そうとした人……)
 覚悟はしていた。けれどいざその顔を見るとやはり心臓が嫌な音を立てて騒いだ。 
 まだあどけないその顔は緊張のせいだろうか引きつっている。

 「見てよあの顔!田舎者丸出しね!」

 クスクスと小さな声で笑うのは第二皇妃トリシアの二人の娘達。

 「おやめなさい。本当の事を言ったら可哀想よ。」

 二人をたしなめるトリシアの顔もまた嗤っていた。
 皇后マデリーンだけは一人表情を崩さないまま、シェリダンが皇帝から皇妃の証である冠を授かる姿を見ていた。
 (きっと皇后としての矜持なのだわ……)
 泣き叫んで引っ叩いてやりたいだろう。
 目の前には簡単に自分を裏切り心変わりした夫と、その夫の心を奪った憎い女がいるのだ。
 けれど不思議な事に毅然と胸を張る今日のマデリーンは、これまで見てきたどの彼女よりも美しくそして気高かった。

 「……今日は大丈夫か?」

 隣にいるルーベルが高い背を少し屈めてアマリールに耳打ちする。
 きっと成人の儀で倒れてしまった事をまだ気にしているのだろう。

 「大丈夫です。」

 しかしアマリールの返事を聞いてもルーベルの顔は曇ったまま。
 (本当に大丈夫なのに……)
 しかしルーベルが心配していたのはアマリールの身体の事ではなかった。
 アマリールが倒れる直前にシェリダンの顔を見て青褪めた事が気になっていたのだ。 

 シェリダンの入宮により皇宮はこれから更に荒れるだろう。
 ルーベルは案じていた。それは母の事でも姉の事でもない。アマリールが巻き込まれるのではないかという事を……

 
  
 
 
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