侯爵令嬢は前世で冷酷夫だった皇太子に挿入られている最中に思い出す

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第三章

15 誰がために

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 「いらっしゃいアマリールちゃん。」

 久しぶりにお会いするクロエ様はとても美しかった。それは初めてお会いした四年前とは比べ物にならないほどに。
 
 「お久しぶりですクロエ様。」

 礼をしようとするアマリールにクロエは“いいからいいから”と座る事を促した。
 テーブルには既にお茶の用意も整っていた。大輪の白い花が絵付けされたその茶器には見覚えがある。

 「これは……」

 
 『どなたかに贈り物なのですか?』

 『ええ。特別な人だから、ありきたりなものじゃ駄目なんです。』


 それはアドラー公子が市場で購入していたティーセット。
 (じゃあ公子の大切な人ってもしかしてクロエ様……!)

 「あら?もしかしてこれはクローネ領の職人が作ったものなの?」

 考え込むアマリールにクロエは首を傾げて聞いてくる。
 
 「は、はい。これは最新の技術を使ったとても高価なお品だと聞いております。」

 「うふふ、そうなのね。これはエクセルが誕生日に贈ってくれたのよ。」

 「お誕生日に……」

 「そうなの。子供の頃は綺麗な蝶とか皇宮のあちこちから千切ってきた花とかだったけど、この頃はとても素敵な物をくれるようになったわ。」

 当時を思い出しているのかクロエはくすくすと笑っている。

 「あの……クロエ様とアドラー公子は幼馴染みと聞きました。」

 「ええ。エクセルはお父上であるアドラー公爵にくっついてよく皇宮に来ていたの。その頃皇宮に子供は私一人だったから遊び相手になってもらってたのよ。」

 注がれる紅茶を眺めるクロエ様からはだんだんと表情が消えていく。

 「私の縁談について聞いたのね?」

 口元だけ微笑んでクロエはアマリールを見た。

 「……はい。」

 「そして反対してるって顔ね。」

 「う……はい。」

 「でも私が行かなければならない事はわかっているわよね?」

 しかしこれには返事が出来なかった。
 理解出来るが理解出来ない。ローランからの要求はそれしか言いようのない内容であったからだ。
 世界有数の鉄の産出国でありその輸出により生計を立てているローラン。鉄の採れないエレンディールではローランからの輸入に頼り切っていた。
 ローランはエレンディールに及ばないまでも資源豊かな大国である。では何故皇帝アヴァロンはローランを攻め落とさなかったのか。属国とし、鉱山を手に入れなかったのか。それには理由があった。
 ローランには諸国の王が血眼になり求婚するほどの類まれなる美女がいた。それが後のエレンディール第一皇妃となる、今は亡き王女ジョゼフィーヌだ。
 和平の使者としてやってきたジョゼフィーヌはアヴァロンの興味を充分すぎるほどに引き寄せた。
 ローランの王はエレンディールへの鉄の輸出に加えジョゼフィーヌを嫁がせる条件としてエレンディールからの永久的不可侵と庇護を約束させたのだ。
 そのローランが先日いきなり次回の鉄の輸出を制限すると言ってきた。“現在両国の関係は公平に保たれていない”という文言のおまけつきで。
 
 「……エレンディールの産業がローランをすたれさせる事を危惧しているのよ。ローランとはジョゼフィーヌ様との事があって続いてきた縁だけど、近年の在り方は少し違う。エレンディールは必要な鉄以外ほとんどローランから輸入しないわ。すべてはローランの産業がエレンディールの技術に劣るからなのだけれど。おかげでエレンディールとローランの国力の差は開く一方……ローランはこの先エレンディールの支配を受ける事になるのではないかと気が気じゃないのね。そして周辺国もそんなローランを攻めようとするかもしれない……だから私との婚姻で両国は対等であるという事を認めさせ、そしてそれを周りにも示したいのよ。」

 ローランの産業が廃れ始めた原因の一つとして、アマリールの父であるクローネ侯爵がクローネ領の職人の素晴らしい技術力を武器に販路を広げた事が挙げられる。
 アマリールは何だか申し訳ない気持ちになった。

 「ですが黙ってローランの言いなりになるような陛下ではないのでは?」

 陛下は相手の要求を丸呑みするようなお人好しでも無能でもない。要求されたら倍以上こちらの要求を呑ませるような方だ。

 「それがね……」

 クロエが口ごもる。

 「どうしたのですか?」

 「……父上は賛成だと言うのよ。シェリダン様の口添えもあったみたいでね。」

 「シェリダン様の!?」

 そんな……陛下は女性の言うなりになるような方ではなかったはず。これまで賢帝としてエレンディールを繁栄に導いてきた方なのに……

 「鉄は生活用品だけじゃない……剣や防具を作るものでもある。……エレンディールを守る騎士には欠かせないものでしょう?」 

 騎士に欠かせないもの……まさかクロエ様はアドラー公子のために……?

 「いつかは国のためにと覚悟していた事だから。たまたまそれがローランだっただけよ。私なら大丈夫。」

 「クロエ様……」

 クロエの目は諦めにも似た淋しさを宿していたのだった。


 *


 クロエの宮を出たアマリールはある場所に向かっていた。
 (駄目だ。こんなの絶対に駄目だ。クロエ様はこの国を出るべきじゃない。)
 もしクロエもエクセルの事を愛しているというのなら尚更だ。
 そしてクロエとエクセルはルーベルを支える大きな力となる。
 (絶対に止めて見せるわ……!)
 
 
  



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